読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

外科 科長 柴﨑泰

【はじめに】
2018年4月から清水病院外科で勤務しております柴﨑と申します、よろしくお願いします。私のような、お腹が出た中年男性にとって「メタボ」という言葉は非常に耳の痛いフレーズです。

現在中年男性の半数近く(女性は2割ほど)がこのメタボリックシンドロームと呼ばれる病態であるとされ、糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞などの予備群とされています。メタボリックシンドロームでは内臓脂肪の蓄積が問題であり、特に中性脂肪が肝臓に蓄積すると脂肪肝といういわゆるフォアグラのような状態となり、健康診断の腹部エコー検査などで指摘されるというわけです。この脂肪肝という状態は、これまで軽い病気と思われてきましたが、近年この脂肪肝を背景に肝臓がんが発生するケースが増えています。

【肝臓がんについて】
これまで肝臓がんは、B型、C型肝炎ウイルスを原因とするウイルス性肝炎を持つ方か、アルコール性肝硬変というお酒をたくさん飲む方の病気であることがほとんどでした。近年、肝炎ウイルスに対する治療の進歩が目覚ましく、殆どのウイルスが内服薬で駆逐できる時代になり、今後はウイルス性肝炎に起因する肝臓がんは減少していくものと予想されます。一方で、ウイルスもないアルコールも飲まないという人の肝臓が脂肪化を来し(非アルコール性脂肪肝NAFL)、肝臓がんが発生する割合が最近増えており、施設によっては今や3割以上がこのNAFL由来であるという報告もあります。相対的な割合だけでなく、絶対数も増えているとのことです。

【非アルコール性脂肪肝 NAFL】
脂肪がたまる病気だから脂っこい食べ物の摂りすぎが脂肪肝の原因と思われがちですが、ごはんや麺類などの「糖質」も原因となります。糖質は腸で吸収されエネルギーとして使われますが、余分なエネルギーは肝臓へ運ばれ、脂肪酸に代わりこれが中性脂肪となり肝臓に蓄えられます。長期に渡り脂肪が蓄積すると、慢性的な炎症から、肝臓が硬くなり(肝硬変)、さらには癌化をもたらすと言われています。ただし肝硬変を経ずに癌化する場合も多く、遺伝子や体質の異常、代謝の異常、環境要因など、色々な原因が交絡して癌になるとされています。

【検査】
NAFLの状態では血液検査などでは異常が出ない場合が多く、一般的な肝臓の数値は正常であることがほとんどです。ただし中性脂肪やコレステロールの値、血糖値などに異常が伴う場合はよくあります。さらに状態が進むと非アルコール性脂肪肝炎NASHと呼ばれ、肝機能の悪化がみられてきます。しかしこうなる前に何とかしたいところです。一番良い検査は健康診断などで行う腹部エコー検査で、脂肪が沈着した肝臓が白く見えてきます。さらに定期的な経過観察が重要となってきます。

 

 

 

 

 

肝炎情報センター ホームページより

 

【NAFLからの肝臓がんの特徴】
 肝臓がんにはあまり自覚症状がありません。さらに肝炎ウイルスもないNAFLの場合には定期的な腹部エコー検査などもしない場合が多く、がんが大きくなってから発見されることが多い傾向にあります。がんの悪性度としてはこれまでの典型的な肝臓がんと大きな差はないと言われています。治療に関してもこれまで同様、手術、ラジオ波焼灼術、カテーテル治療などが選択されます。

【終わりに】
NAFLからのがんについてお話しましたが、大切なのはがんの治療ではなく予防です。まずNAFLであることが判明したら、軽い病気と思わず、生活習慣を改善するなど、脂肪肝の改善を試みましょう。お酒をたくさん飲めばNAFLじゃない、という問題ではありませんので誤解しないでください。適度な運動で筋肉をつけると代謝が良くなり効果があります。食事に関しては脂質・糖質は適度に、野菜は多めにといったところでしょうか。摂取する脂肪の種類も重要で、特に清水港で水揚げされるマグロなどにも含まれるDHAEPAなどのn-3系と呼ばれる脂肪酸は、肝臓がんのリスクを減らすという報告もあります。定期的な健康診断もまた重要ですので、機会がありましたら当院へもお越しください。末筆ながら清水の皆様が健康な日々を過ごせるよう願っております。