読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

外科 田井優太

【ヘルニアとは?】
皆様はヘルニアという言葉を耳にしたことはありますか?よく聞く疾患として椎間板ヘルニアはなじみがあるかもしれません。 ヘルニアという言葉は、ラテン語のherniaからきており、体内の臓器などが、本来の位置から飛び出した状態のことを指します。 従って、背骨から椎間板が飛び出せば椎間板ヘルニア、鼠径部(そけいぶ)からおなかの中の臓器(腹腔内臓器(ふくくうないぞうき))が飛び出せば鼠径ヘルニアといいます。

【どんな病気?原因は?】
鼠径とは足の付け根付近のことを指し、筋肉や筋膜などで覆われています。 筋肉や筋膜は、加齢により徐々に弱くなり、腹圧に勝てなくなると隙間が生じてしまいます。そして、その隙間から腹腔内臓器が飛び出し、鼠径ヘルニアの状態になります。飛び出す臓器として小腸が多いため、「脱腸」とも表現されます。 日本全体では、年間15万人程の方が手術を受けています。高齢者に多く、男女の割合では男性が85%と男性に多い疾患です。加齢以外にも、鼠径ヘルニアの誘因として、腹圧がかかることが多い生活環境(長時間の立ち仕事、重いものを持つ仕事、トイレでいきむこと、咳が多いこと、肥満など)が指摘されています。


【症状は?】

鼠径部に柔らかいふくらみとして触れることができます。大きさは様々でピンポン玉大の小さなものから、こぶし大やそれ以上に大きな方もいらっしゃいます。 また、ふくらみは腹圧がかかる動作(立ったり、重いものを持ったりなど)をしたときに出現し、手で患部を押したり、横になったりすると元にもどります。 基本的に痛みは生じませんが、脱出が長時間続いたり、後述する嵌頓(かんとん)状態になったりすると痛みを生じることもあります。

【嵌頓(かんとん)とは?】
腹腔内臓器が飛び出し戻らなくなることを言います。嵌頓状態が続くと、腸管が狭窄し嘔吐(おうと)したり、脱出部に強い痛みを感じたります。また、徐々に血流障害が生じ、最悪の場合壊死(えし)に陥り、腸管に穴が空くこともあります。

【治療法は?】
鼠径ヘルニアはその原因から手術以外では治療できません。ヘルニアバンドなどもありますが、根本的な解決にはなりません。 手術の方法は、体表側から修復する方法(鼠径部切開法といいます)と腹腔鏡(ふくくうきょう)を用いておなかの中から修復する方法があります。原因の隙間を塞ぎ方は、直接縫(ぬ)い閉じる方法とメッシュとよばれるプラスチックの網目状のシートを当てて閉鎖する方法に分かれます。メッシュを用いた方法の方が痛みが少なく、再発率も低いといわれています。 当院では、全身麻酔下で腹腔鏡を使用したメッシュ修復法を基本とし、全身麻酔が困難な方や腹腔鏡手術が不適と判断した方では局所麻酔や腰椎麻酔下での鼠径部切開法での修復を行っております。

【当院での治療について】
外科外来では、ヘルニアの状態と全身状態のチェックを行った上で、腹腔鏡下修復法か鼠径部切開法かを決定します。 いずれの手術法でも、手術当日に入院および手術を行い、翌日退院する1泊2日の手術を基本としております。 治療実績は右の表のとおりです。昨年度は県下7番目の症例数で、近年では腹腔鏡手術を積極的に行っており、全体の7割ほどを占めます。  再発率に関しては腹腔鏡下手術では0%、鼠径部切開法でも1.9%(全国平均3.4%)と良好な成績となっています。

【おわりに】
鼠径ヘルニアは良性疾患であり、経過観察でも命にかかわることはありません。一方で、放置すると徐々に大きくなり痛みを生じたり、低い確率ですが嵌頓状態になったりもします。 鼠径部にふくらみがある方、鼠径ヘルニアかもしれません。一度受診して頂きご相談下さい。