漢方外来

スタッフと専門領域
医師名 | 出身大学 | 医師免許取得年 | 専門領域・資格等 |
---|---|---|---|
![]() 尾崎正時 |
千葉大学 | 昭和58年 | ・医学博士 ・日本東洋医学会漢方専門医・指導医 ・日本東洋医学会代議員 ・日本東洋医学会東海支部幹事 ・日本東洋医学会東海支部 静岡県部会副会長 ・日本医学放射線学会 放射線治療専門医、研修指導者 ・第一種放射線取扱主任者 ・日本オーソモレキュラー医学会会員 |
目次
■漢方理論について(別ページが開きます)
漢方とは
古代~近世までにもたらされた中国伝統医学と我が国の経験医学に西洋医学の知識を加え、独自に発展・体系化した日本の伝統医学です。江戸時代に入ってきた西洋医学を蘭方とよぶようになったのにともない、漢方とよばれるようになりました。中国の中医学に対して日本漢方とも呼ばれます。中国では現代医学を西医学、中国伝統医学を中医学と呼んでいます。漢方と中医学は、似ていますが違いもあります。漢方では、症状(証)に合わせて処方を決めます(方証相対)。また病位を重視します。傷寒論の六病位を現在も使用しています。中医学では、症状を伝統医学的に解釈し治療方針を決め(弁証論治)、処方を組みます。病質(臓象)を中心に考えることが多く、それらの相互関係を重視します。臓腑偏重で感染症以外では病位(経絡)を考えません。
漢方の適応
現代医療のなかで漢方が使われるのは、主には下記のようなケースです。
1.現代医学ではっきりした診断がつかない場合
不定愁訴や原因不明とされる症状でも、漢方的には病態を把握でき、対応する方剤が存在します。
2.診断はついているがよい治療法がない場合
たとえば風邪です。風邪を治す薬があればノーベル賞といわれていますが、実は大昔からあるのです。風邪薬という一種類の薬があるわけではなく、数十の処方を証にあわせて使い分けます。風邪の治療で特に重要なのは寒熱の判別です。患者が寒がっているのが寒証、暑がっているのが熱証です。寒がっている寒証の患者には、熱があっても解熱剤を使ってはいけません。体を温める方剤を使わなくてならないのです。現代医学には、附子、乾姜、桂枝のような体を温める薬物がないので、寒がっている寒証の風邪を治療できません。寒熱の概念のない現代医学では、熱があると解熱剤を使って風邪を遷延させてしまいます。
3.現代医学的治療の副作用の予防・治療
近年、様々な抗悪性腫瘍薬が使用されていますが、副作用対策が不十分です。現代薬にはよい薬が少ないので、副作用が強いと休薬しなくてはいけません。漢方が有効です。また放射線治療の副作用は、現代薬がほぼ無効で漢方でないと治療できません。現代医学的治療で合併症が出やすい人は、たいてい栄養障害を伴っています。低栄養だと解毒能力が下がり薬剤の副作用が出やすくなるのです。栄養療法を併用することで治療効果があがります。
4.多臓器・多系統にわたる疾患
たとえば水滞(水毒)という病態があります。からだのなかで水が滞る病態です。アクアポリン(水チャンネル)の劣化によって起こるようです。雨の頭痛、乗り物酔い、口渇、歯根舌、胃内停水、小便が多い、小便が少ない、水様帯下、水様下痢、むくみ、関節液貯留、腰のだるさ、など全身に多彩な症状をおこすのですが、原因は水の流れの悪さです。治療には、アクアポリンに働いて水の流れを整える利水剤を使います。このように漢方は体全体を把握して治療することができます。
5.病気の予防、体質改善、病後、産後の体力回復
虚弱な人、炎症を起こしやすい人、病後などで弱った人に漢方を長期に使用すると確かに効果があるのですが、こういう人は検査すると栄養障害を認めることがほとんどです。体質の異常とは、胎生期も含めた過去の栄養不足の結果です。漢方薬は栄養にはなりませんが、栄養の吸収や利用を促進し体力をつける働きがあります。
当科の漢方の特徴
漢方でも現代医学でも、どういった種類の病気が時間経過のなかで治療時にどのような状態になっているのかを把握して治療することが必要です。病気の性質(病質、証)と進み具合(病位、経絡)を二次元的にとらえる必要があります。このような考え方は、清朝末期から中華民国時代には主流だったようですが、中華人民共和国になり現代中医学がまとめられたときに、大幅な簡略化によって失われてしまいました。日本漢方は六病位を使っていると書きましたが、最近は中医学の影響で病位は軽視される傾向にあります。当科では、病質と病位を二次元的に捉える漢方を実践しています。
漢方薬は、原則として保険適応のエキス製剤と生薬末のみを使用します。煎じ薬、鍼灸には対応していません。
漢方理論(気血水)の現代医学的解釈
漢方理論のひとつに気血水の考え方があります。気はエネルギー・機能で血は材料・血液などといわれます。気の異常として、気虚(気が足りない)、気欝(気が流れない)、気逆(気が逆流する)があります。気欝と気滞を合わせて気滞ともいいます。血の異常として、血虚(血が足りない)、瘀血または血滞(血の流れが悪い)があります。水の異常として水滞(水の流れが悪い)があります。現代中医学の陽は気+熱、陰は血+水(津液)と捉えておけばよいと思います。以下、気虚、気滞、血虚、瘀血、水滞の症状をあげ、栄養の視点も加えて現代医学的に説明します。
気虚、陽虚の症状とその原因
気力がない、疲れやすい、日中の眠気、驚きやすい、倦怠感、息切れ、味がしない
脳のミトコンドリア機能低下によるエネルギー(ATP)不足の症状です。神経伝達物質の不足、神経細胞の劣化とも関係します。
立ちくらみ、動悸、多汗、自汗、手掌発汗
自律神経の異常活動です。自律神経を調整するより上位の脳のエネルギー(ATP)不足により起こります。
風邪をひきやすい
免疫力低下です。交感神経過緊張、低栄養によります。
寒がり、四肢の冷え
全身のエネルギー(ATP)産生障害です。ミトコンドリア機能の低下が主因です。交感神経過緊張による四肢の血流低下とも関係します。
食欲不振、小食、腹部不快、軟便・泥状便、食後腹満、胃もたれ
いわゆる胃腸虚弱です。出生体重の低い人に多く見られます。消化器の相対的低形成や酸化、糖化、低栄養などによる消化器の劣化、消化器をコントロールする自律神経の機能低下などが原因です。
脱肛、子宮脱、胃下垂
内臓下垂です。臓器そのものの劣化、内臓を挙上する筋肉の弛緩によります。後者は中枢神経の機能低下によると考えています。
鼻出血、皮下出血、経血過多、不正出血
軽い壊血病です。コラーゲン劣化などによる血管壁の劣化、血液凝固能の低下により起こります。
気滞(気鬱、気逆)の症状とその原因
抑うつ傾向、起床困難、時間により症状が変わる、移動性の痛み、焦燥感
大脳新皮質の活動低下とそれに伴う辺縁系以下の異常です。脳のエネルギー(ATP)不足により起こります。神経伝達物質の不足、神経細胞の劣化とも関係します。
冷えのぼせ、顔面紅潮、臍上悸、四肢の冷え、手掌足蹠の汗
自律神経の異常活動です。自律神経を調整するより上位の脳のエネルギー(ATP)不足により起こります。
月経不順
視床下部、下垂体の機能低下によりホルモンの調整がうまくいかない状態です。脳のエネルギー(ATP)不足により起こります。
動悸、頭重・頭帽感、喉のつかえ感、胸の詰まった感じ、季肋部のつかえ感、経前乳房脹痛
知覚情報を脳が誤読することで起こります。大脳、視床のエネルギー(ATP)不足によります。
胸部・腹部膨満感、げっぷ、排ガスが多い、残尿感、腹部の鼓音
自律神経の異常活動です。自律神経を調整する上位の脳のエネルギー(ATP)不足により起こります。臓器そのものの劣化も関係しています。
発作性頭痛、悪心の少ない嘔吐、怒責を伴う咳嗽、腹痛発作
反射の異常亢進です。反射を調整する脳のエネルギー(ATP)不足により起こります。
血虚、陰虚の症状とその原因
多夢、健忘、不安感、集中力低下、不眠、めまい感、しびれ感(蟻走感、鈍麻)、眼精疲労、過少月経、月経不順
大脳新皮質の機能低下とそれに伴う辺縁系以下の活動異常です。脳のエネルギー(ATP)不足によります。神経伝達物質の不足、神経細胞の劣化とも関係します。
顔色不良、脱毛、皮膚乾燥、口唇乾燥・裂、皮膚荒れ、あかぎれ、爪の異常、ドライアイ
体を作る材料の不足です。主には蛋白不足、鉄不足によります。
こむら返り、筋肉痙攣
マグネシウム不足、血管壁の痙攣による血流低下によります。
瘀血の症状とその原因
口唇・歯肉・舌の暗赤化、細絡、痔疾、静脈瘤
静脈壁の劣化による静脈の拡張です。主にはコラーゲンの劣化によります。毛細血管の流れにくさも一因です。
臍傍臍下圧痛、左右下腹部圧痛
内臓の鬱血により起こるとされます。静脈壁の劣化、血液の流れにくさが原因です。
目のクマ、顔面色素沈着
眼窩周辺の鬱血、物質沈着によると考えます。
皮下出血、過多月経、経血塊
血管壁の劣化、血液凝固能の異常により起こります。
水滞の症状とその原因
体が重い、むくみ、朝のこわばり
水チャンネル(アクアポリン)の劣化、更新不足により起こります。蛋白不足によるアルブミンの低下でも起こります。
頭重感、悪心・嘔吐、拍動性頭痛
脳の浮腫です。水チャンネル(アクアポリン)の劣化、更新不足により起こります。
車酔い、めまい、立ちくらみ、雨天症状増悪
内耳の水の流れの異常です。内耳の水チャンネル(アクアポリン)の劣化、更新不足により起こります。
胃内停水感、水瀉様下痢、グル音
腸管の水分吸収障害です。腸管の水チャンネル(アクアポリン)の劣化、更新不足により起こります。
口粘、胸水、腹水、心嚢水、帯下が多い
水の輸送能の低下です。水チャンネル(アクアポリン)の劣化、更新不足が一因となります。
尿量減少、多尿
腎臓の劣化によります。腎臓はもっとも水チャンネル(アクアポリン)の多い臓器です。腎臓の水チャンネル(アクアポリン)の劣化、更新不足が一因です。
水様鼻汁、唾液分泌過多
冷えによるとされます。エネルギー(ATP)産生障害です。
気血水の考え方は、栄養の視点を加えると現代医学的に解釈可能です。しかし現代医学では原因がわかっても治療ができません。漢方の診断方法は、原因を特定して解決するのではなく、方剤の運用のために決められたものです。おなじ蛋白不足の症状でも気虚と血虚では使う方剤は全く異なります。したがって方剤の選択には従来通りの漢方の診断が必要です。
気血水の異常と栄養の関係を図示すると下記のようになります。
鉄蛋白不足と気血水
漢方と分子栄養学・オーソモレキュラー医学
漢方が得意とする病気は栄養障害と密接な関係があります。漢方を十分に効かせるには栄養状態も同時に改善する必要があります。従来の漢方はこの点に問題があったと考えています。漢方で症状がとれても、栄養状態が改善しないと完全な治癒は望めませんし、薬をやめると再燃します。一方、栄養療法だけでは症状の改善に時間がかかりすぎます。一般的には治癒までに小児で数ヶ月、成人で数年を要するといわれます。薬物療法で症状をとり栄養療法で体を丈夫にするのが最善と考えます。
漢方治療を始める際には、血液検査等で現代医学的疾患の有無、蛋白不足、鉄・マグネシウム・亜鉛などのミネラル不足、ビタミン不足、糖質摂取過剰などの栄養学的異常の有無を把握しておくことが必要です。主な栄養異常について説明します。
蛋白不足
人体の蛋白は酸化、糖化、炎症などにより徐々に劣化していきます。劣化した蛋白は分解され、新しく作られた蛋白に置き換わらなくてはいけません。しかし蛋白摂取量が少ないと新しい蛋白ができず劣化した蛋白がそのまま使われ続けます。
体を構成する蛋白が劣化すると体が脆く弱くなります。腸粘膜が弱くなるとリーキーガットになり食物アレルギーを起こします。皮膚や粘膜が弱くなると、花粉などの抗原が容易に入り込み、アレルギーを起こします。また皮膚が薄く傷つきやすくなり、妊娠線などの皮膚線条ができやすくなります。さらに傷の修復ができなくなります。傷のつきが悪い、付いた傷が開く、ケロイドができる、などの症状がでます。血管壁が弱くなると出血しやすくなります。長期的には血管が拡張し、静脈瘤、動脈瘤ができます。
劣化した体の蛋白を免疫系が異物と認識すると自己免疫疾患になります。
細胞のエネルギーを作るミトコンドリアの酵素も蛋白でできています。蛋白不足だとミトコンドリアの酵素活性が低下してエネルギー不足になり、冷え症やだるさがでます。手っ取り早くエネルギーを得るために甘いものを好むようになります。
免疫応答には蛋白が必要です。蛋白不足だと感染に弱くなります。
体を活性酸素からまもる抗酸化酵素、消炎酵素が少なくなると、炎症を起こしやすくなり、放射線や化学物質の害を受けやすくなります。
解毒酵素の活性が低下すると薬物や毒性のある物質を処理できなくなり、薬剤の副作用が出やすくなったり、化学物質過敏症になります。
困ったことに蛋白不足になると消化管の劣化、消化酵素の減少により蛋白質を食べても消化できなくなり、より蛋白不足になっていきます。蛋白不足のひとほど蛋白をうけつけないのです。無理に蛋白を食べても消化できず、下痢や放屁がおこり、かえって体調をくずします。
以下に食品中の蛋白量、プロテインスコア(利用可能率)、プロテインスコアで補正した利用可能蛋白量を示します。
食品100g中の蛋白質とプロテインスコア(利用可能率)、利用可能蛋白量
一日の蛋白必要量はプロテインスコア100の蛋白で健康な人で体重g、子供はその倍、病気の場合は体重の1.5倍g、手術後は2倍gです。蛋白含有量を卵1個7g、食肉・魚肉は15%とすると概算できます。食品中の総蛋白量で考えるなら、健康成人の一日の蛋白必要量を100gとします。蛋白は多すぎると肝臓に負担がかかります。一日200g以上の摂取を継続すると危険です。
食事だけで摂取困難であれば、プロテイン、医療用アミノ酸、消化酵素を使用します。検査では、アルブミン(ALB)4.2g/dL以下、尿素窒素(UN)14mg/dL以下AST、ALT 20U/L未満、γ-GT 14U/L以下を蛋白不足としています。なお数値は点滴をすると下がり、脱水で上がるので注意が必要です。
鉄不足
閉経前女性、未成年では蛋白不足と鉄不足が併存しています。女性は月経、分娩で蛋白と鉄を同時に失います。また成長期には蛋白、鉄を大量に必要とするので、相対的鉄蛋白不足になります。鉄はヘモグロビンを作るのに必要なだけではありません。ミトコンドリアにおけるエネルギー産生に必要です。足りないとエネルギー不足の状態になります。コラーゲン産生にも必要です。足りないと皮膚、粘膜、血管が脆くなります。また鉄は神経伝達物質であるセロトニン、ドーパミンをつくるときの補因子です。足らないとうつ、パニックなどの精神症状をきたします。鉄は他にも様々な重要な働きをしています。
鉄は不足すると困るのですが、多すぎても炎症が悪化したり悪い菌が増えるなどの不具合が起こります。常に適切な量を摂取する必要があります。
検査ではヘモグロビン(Hb)が有名ですが、Hbでは組織に存在する鉄の評価はできません。組織鉄を表すのはフェリチンです。男女とも100ng/mL以下(男)は組織鉄低値です。またTIBC(総鉄結合能)は鉄需要を示します。300mcg/dL以上は鉄需要ありと判断し鉄を投与します。蛋白不足がひどいと鉄を利用できないためフェリチンが低くても鉄需要がないことがあります。この場合は鉄を摂ってはいけません。TIBCが低いときはフェリチンが低くても鉄は不要です。治療には医療用鉄製剤、もしくは市販の鉄製剤を使用します。
鉄蛋白不足≒気血両虚
月経、分娩では、鉄と蛋白が同時に失われます。また鉄蛋白は、外傷、手術、献血、ビーガン食などでも失われます。子供では身長が伸びると鉄、蛋白が使われて鉄蛋白不足になります。鉄と蛋白はどちらが欠けてもいけません。たとえば体の蛋白の半分をしめるコラーゲンをつくるには蛋白と鉄とビタミンCが必要です。鉄はミトコンドリアでのエネルギー(ATP)産生に必要ですが、ミトコンドリアの酵素自体は蛋白でできています。エネルギー産生にも蛋白と鉄が同時に必要です。
鉄と蛋白は密接に関係して働くので、鉄不足の症状と蛋白不足の症状は重なっています。蛋白と鉄に留意するだけで、体の不調のかなりの部分は解消します。逆に鉄蛋白不足が解消しなければ、どんなに薬、サプリ、針灸、整体、食養生などで治療しても症状の改善は一時的なものとなります。鉄蛋白不足の症状を、まとめると下の表のようになります。
鉄蛋白不足の症状
上記の表を説明します。
材料不足
蛋白が不足するとコラーゲンなどの体を構成する蛋白が作れません。蛋白の入れ替わりの多い爪、髪、皮膚に症状が出やすくなります。通常は劣化していくのですが、異常な増殖をしめすこともあります。また体が傷ついたあとの修復が遅くなったり、うまく直せなかったりします。材料不足で体の蛋白が更新されないと、血管や骨、皮膚、腸管が脆く弱くなります。結果として出血や骨折が起こります。
酵素活性低下
体内の酵素活性が全般的にさがります。ミトコンドリアの酵素が減ると、エネルギーを作れなくなり、冷えや疲労感が出現します。また抗酸化酵素の活性が下がると炎症を起こしやすくなります。肝臓の解毒酵素が減ると、薬剤や化学物質に弱くなります。
水滞
水の通り道である水チャンネル(アクアポリン)が劣化すると、体内での水の流れが悪くなり、水の偏在が起こります。むくみや眩暈、頭痛、下痢などが起こります。
組織鉄不足
組織中の鉄が減少すると明らかな貧血がなくても、顔や舌の色が白っぽくなります。
免疫力低下
免疫応答には細胞や抗体をたくさん作る必要があります。また大量のエネルギーが必要です。材料不足、エネルギー不足の状態だと、免疫力が下がってしまいます。
中枢神経症状
脳はエネルギーの消費密度が高い臓器です。しかも脳細胞は高度に役割分担をしていてネットワークとして活動するので、一カ所でもエネルギー不足になると症状がでます。ミトコンドリアでエネルギーが作れないと脳の作業ができなくなります。前頭葉がうまく働かないと、長文が読めなくなったり短期記憶障害がでます。体からの信号をうまく処理できないと、正常な部位に痛みや異常な感覚を感じたりします。辺縁系のコントロールができず感情が暴走すると、怒ったり、泣いたり、不安になったり、緊張したりしやすくなります。内分泌のコントロールがうまくいかなくなると月経不順、副腎疲労などが起こります。自律神経のコントロールがうまくいかなくなると、消化器や循環器の症状がでます。
下図は放射性ブドウ糖を投与したFDG-PET画像です。ブドウ糖の使用が多い臓器が黒く写っています。脳が最大のエネルギーを使っていることが分かります。腎臓の一部と膀胱が黒いのは尿中に排泄されたFDGのためです。
FDGーPET 画像
鉄蛋白不足の症状は、ほぼ気血両虚(気虚+血虚)の症状です。かつて、人間の最大の脅威はウイルス、細菌、真菌、原虫、寄生虫などの感染症でした。これらは実邪であり通常は実証の病気となります。では虚証の病気はなんだったのかというと栄養不足です。特に鉄蛋白不足が最大の問題だったと考えます。鉄、蛋白を失う原因は、月経、分娩、外傷、飢餓などです。月経、分娩をくりかえしているうちに、女性は鉄蛋白不足になっていき不調を訴えます。感染や中毒ではないのに元気がない人をみたとき、昔の人は何かが足りない虚の状態と捉えました。まず月経や分娩が原因だから、血が足りなくなったと考えました。体外に出た血液は、体内の血液と異なり、熱や動きを失っています。このとき血液から失われたものを、気と名付けたのです。すなわち鉄蛋白不足で足りなくなったものの陽的(機能的)側面が気であり、陰的(物質的)側面が血なのです。鉄蛋白不足は気も血も両方足りない状態、すなわち気血両虚です。図示すると以下のようになります。
鉄蛋白不足と気血
鉄蛋白不足以外の栄養不足はどうだったのでしょう。ビタミンではB1不足の脚気、B3不足のペラグラ、C不足の壊血病、D不足のくる病、A不足の夜盲症が有名ですが、名前がついているくらいなので、比較的希な病態だったと思われます。現代社会で問題になるマグネシウム、亜鉛不足などは今より地味が肥えていたのと自然塩を使っていたのであまりなかったようです。したがって最も頻度の高い栄養不足は鉄蛋白不足≒気血両虚だったと考えます。
糖質過剰
糖質摂取過剰により起こる疾患として、糖尿病、高脂血症、認知症、うつ病、非アルコール性脂肪肝、がん、子宮筋腫・子宮内膜症・生理痛・多嚢胞性卵巣症候群などの婦人科疾患、不妊症、緑内障、腰痛・骨粗鬆症・変形性関節症・五十肩・脊柱管狭窄症・後縦靱帯硬化症・足底筋膜炎・手根管症候群などの運動器の異常、いぼ、脱毛、乾癬、ニキビ、真菌感染、歯周病、難聴などがあがります。食後のねむけ、夕方のいらいら、悪夢、背筋腹筋の脂肪化などで判断できます。食後血糖140mg/dL以上、またはHgA1c6.0%以上が糖尿の基準ですが、これ以下でも糖質過剰の症状はでます。 このような場合には糖質制限がいいとされますが、鉄蛋白不足のひとが糖質制限をするとか却って体調を崩します。脂肪からエネルギーを得るための酵素がつくれないのです。規定量の蛋白を摂取できるようになることが最優先となります。
マグネシウム不足
マグネシウムが足りないとこむら返り、痙攣、しびれ、興奮、不安、過緊張、高血圧、不整脈、便秘、冷え性、頭痛、生理痛、糖尿病などを来します。カルシウムと逆の働きをし、細胞の興奮を抑えます。天然のカルシウム拮抗薬です。精製塩を使用するようになって、マグネシウム不足の人がふえてしまいました。飲酒や糖質過剰摂取でもマグネシウムが不足します。こむら返りや痙攣は重度のマグネシウム不足によるものです。常に積極的に摂りたいミネラルです。ALPの補因子で、足りないとALP低値となります。
亜鉛不足
ほとんどの方が亜鉛不足です。亜鉛は300以上の酵素の活性中心に必要で2000もの酵素の補因子です。細胞分裂、インシュリン産生に必要です。足りないと味覚・嗅覚低下、口が苦い、舌の荒れ、舌の違和感、食べ物がしみる、膿み症、爪の白斑・凹凸、爪が伸びない、脱毛、耳切れ、趾のひび割れ、肌荒れ、皮膚が治りにくい、皮膚炎、色素沈着、頭皮湿疹、皮膚粘膜移行部(目、鼻、口、肛門)のトラブル、食欲不振、易感冒、性欲減退、月経不順などの様々な症状を来します。 体内では銅とペアになっていて亜鉛が少ないと銅過剰になります。また亜鉛過剰だと銅不足になるのですが、臨床上問題になるのは亜鉛不足です。
B6不足
B6は蛋白代謝に必要で、足りないと蛋白を摂取しても改善がみられません。AST-ALT>3でB6不足疑いとされます。体質的にB6をうまく使えないひとがいます。蛋白を摂取しているのにデータの改善がないときは、B6が使えていない可能性を考えてB6を多めに摂る必要があります。
亜鉛・B6不足
亜鉛不足とB6不足がしばしば合併します。ピロール尿症によるといわれますが詳細は不明です。遺伝的背景があるようで、しばしば親子兄弟で同時にみられます。
銅過剰
銅は体に欠かせない金属ですが、多すぎると問題がでてきます。イライラ、易怒、不眠、不安、パニックが起こることがあります。亜鉛摂取で正常化します。
ナイアシン不足
ナイアシンが欠乏するとペラグラ(皮膚炎、下痢、認知症になり死亡)、精神疾患、関節炎、高脂血症になります。必要量は個人差が大きいとされます。LD低値だとナイアシン不足とされます。LD150U/L以下で精神症状、関節炎のある方は、十分量を摂取することが必要です。ナイアシンはアルコール代謝においても重要で、摂取するとアルコールに強くなります。二日酔いにも有効です。血流を改善します。
メチル化障害
メチル化は遺伝子のオンオフ、筋肉形成、解毒に必要です。まれにメチル化が過剰だったり不足していたりするひとがいます。好塩基球が30/mcl以下でメチル化過剰、70/mcl以上でメチル化不足とされます。
ビタミンB群不足
ビタミンB群はエネルギー産生、神経伝達物質産生に欠かせません。足りないと脚気、口内炎・口角炎、舌の溝、悪夢、聴覚過敏、易疲労、集中力欠如、読書ができない、物忘れ、皮膚・舌の赤み、シミ、肌荒れ、湿疹、夜泣きなどの症状を呈します。アルコール多飲、糖質過剰摂取の場合は特に発症しやすくなります。通常、腸内細菌から相当量のビタミンBが供給されます。不足している場合、摂取不足以外に腸内細菌叢が乱れている可能性があります。
ビタミンC不足
ビタミンCが足りないとコラーゲンが作れずに壊血病になります。コラーゲンが作れないと体が脆くなります。またビタミンCはからだを活性酸素からまもる抗酸化物質です。また抗ウイルス作用、抗菌作用があり、風邪の予防、治療に使えます。抗ヒスタミン作用を有し、アレルギー、炎症に広く使えます。また抗癌作用も有します。安価であり、日頃から十分摂っておきたいビタミンです。
ビタミンE不足
ビタミンEは、脂溶性の抗酸化物質で体を酸化から守っています。足りないと男女ともに不妊になります。アンチエイジングに極めて重要です。血流を改善します。しもやけ、レイノー症状、狭心症や動脈硬化による動脈狭窄に有効です。
ビタミンD不足
ビタミンDは粘膜や皮膚細胞の密着結合、免疫の調整、蛋白産生に欠かせません。足りないと花粉症、リーキーガット、感染症、くる病、冬期うつ、ガン、骨粗鬆症、多発性硬化症になります。日光で作られるはずなのですが、ほとんどの人がビタミンD不足です。
ビタミンA不足
ビタミンAはDNAから遺伝情報を読み出すときに必須です。網膜での光の検出、皮膚・粘膜の維持に必要です。発癌を抑制します。足りないと夜盲症(とり目)、鳥肌、乾燥肌、あせも、食物アレルギーになります。摂取量がすくないと発癌します。必要量の個人差が大きいとされます。
漢方の適応疾患
内科領域
感冒
漢方の独壇場です。寒熱、虚実、表裏の判定が重要です。現代医学には、この概念がないので風邪の治療がうまくいきません。体温に関係なく寒がっているのが寒証、暑がっているのが熱証です。体力がなく汗がでているのが虚証で、逆が実証です。脈が浮いているのが表証で沈んでいるのが裏証です。寒がっていて汗なく脈が浮いていれば、表寒実証のたとえば麻黄湯などを使います。汗があれば表寒虚証の桂枝湯となります。脈が沈んでいれば、裏証であり裏寒虚証の麻黄附子細辛湯、真武湯などとなります。暑がっている熱証の風邪であれば、銀翹散などの冷やす薬を使用します。
喘息
発作予防に柴朴湯、発作時に麻杏甘石湯などといいますが、根本的原因は気道粘膜の脆弱性です。低栄養のため粘膜細胞の密着結合が劣化し抗原が侵入しやすくなっています。栄養療法の併用が望まれます。
気管支拡張症、副鼻腔気管支症候群、非定型抗酸菌症
痰が出にくい体質のかたに起こります。気管支の炎症を繰り返すうちに、気管支が拡張してしまい、さらに痰がだせなくなります。出ていかない痰は気管支内に貯留し乾燥して固まります。気管支の炎症も治りません。漢方的には燥熱です。気管支を潤して冷やす薬を用います。背景に蛋白不足により炎症を抑えられない体質があるので、適切な栄養摂取が必要です。
コロナ肺炎の予防
コロナ肺炎で入院するひとはアルブミン(ALB)が4.0g/dL以下の低蛋白状態であることがほとんどです。低蛋白状態が感染の一因と考えています。日頃からの適切な蛋白摂取が望まれます。ビタミンC、ビタミンD、亜鉛、マグネシウム、セレンが感染予防に有効とされています。詳細は下記のサイトを参照ください。
https://www.iv-therapy.org/wp-content/uploads/2020/08/149a791e9979300afdacf99ec307af57.pdf
またコロナ肺炎の漢方治療については下記のサイトを参照ください。
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/news/gakkai/covid19_kanpou_0319.pdf
コロナ後遺症、ワクチン副作用に対しては随証的に漢方治療を行います。
過敏性腸症候群、機能性ディスペプシア、逆流性食道炎
消化管の機能を胃気といいます。胃気の逆流、停滞、流れすぎと捉えます。気の流れを調節する気剤を中心に用います。背景には低栄養による中枢神経の機能低下が存在します。また、消化管自体も劣化しています。薬剤だけでなく神経、消化管の劣化した蛋白を更新するための栄養補給が必要です。
片頭痛
漢方的には様々な原因があります。多いのは低気圧の頭痛で、水チャンネル(アクアポリン)の劣化が原因です。漢方的には水滞です。他に、冷えの頭痛、瘀血の頭痛、血虚の頭痛、ストレスによる頭痛、肩こりの頭痛などがあります。いずれも鉄蛋白不足、マグネシウム不足が背景にあります。随証的漢方治療と栄養療法の併用で治癒します。
しもやけ、レイノー病、冷え症
手足の血流を増やす漢方を用います。必要に応じ、ビタミンE、ナイアシンなどの血流を増やすサプリを併用することがあります。熱産生が不十分な人が多く、蛋白、鉄、ビタミンB群などでミトコンドリア機能を改善すると治ります。
自己免疫疾患、膠原病、関節リウマチ
変性した体蛋白を免疫系が攻撃している状態です。体蛋白の更新のために十分な栄養を補給することが必要です。症状緩和のために用いられる現代薬では、副作用が問題となります。漢方であれば副作用は軽度です。市販の水素も有効です。
不定愁訴
現代医学で不定愁訴とされる症状は一定の類型を持ち、大昔から存在していました。現代医学的には説明できないというだけで伝統医学的には解釈可能で、症状別に対応する方剤が存在します。検査をすると鉄蛋白不足が高頻度に見られます。原因は脳のエネルギー(ATP)不足と考えています。栄養療法、随証的漢方治療で改善します。
小児科領域
起床困難、起立性調節障害、不登校、うつ、イライラ
成長期には相対的に低栄養状態となり、鉄蛋白不足の症状が出ます。エネルギー不足となり頭と体が働きません。その結果、イライラして反抗的になります。反抗期のイライラ、気分変調の主な原因は相対的栄養不足です。視床下部下垂体腹腎軸もやられますので副腎疲労になり朝起きられません。また消化管も弱いことが多く、しばしばリーキーガットのために食物アレルギーになっています。皮膚粘膜も弱くなり、アトピー、花粉症などのアレルギー性疾患を併発します。しばしば青色強膜(白目が青味がかっている)を認めます。まずは鉄蛋白を補充することが必要ですが、すでに胃腸が弱っている場合にはうまく吸収できません。食事だけでは栄養が不十分なことが多く、漢方、プロテイン、アミノ酸、市販のサプリメントの併用も考慮します。つらい症状があれば随証的に漢方を使用します。
発達障害
遺伝的背景、環境汚染などの影響はあると思いますが、受診される方はほぼ全員重度の鉄蛋白不足です。栄養療法が有効です。困った症状があれば随証的に漢方治療を行います。身長の伸びともに出現した症状は、鉄蛋白不足が原因です。通常、栄養不良は胎児期からおこっており、母親にも栄養異常を認めます。母親も同時に検査をして治療することをお勧めします。
虚弱体質
消化管は胎生期の最後に完成する臓器です。このため低体重児は消化機能が弱くなりがちです。ひよわ=脾(消化器)弱であり、虚弱体質になりやすい傾向があります。腸管粘膜のバリアも弱く食物アレルギーが出やすくなります。成人でも出生体重3000g以下だったひとは消化機能が弱い可能性があります。胃腸を丈夫にする漢方を使用し、栄養を吸収しやすい形で与える必要があります。
夜驚、夜なき
通常、甘麦大棗湯、抑肝散を用います。母子同服といい、母親も同じ薬を飲むと効果が上がります。背景に鉄蛋白不足があります。
熱性痙攣、けいれん
ふるえ、痙攣を漢方では体の中の風、すなわち内風と捉えます。現代薬を使いたくない場合には、漢方の適応と考えます。
婦人科領域
血の道症、更年期障害、PMS、月経困難症、月経不順、産後の不調
血の道症という病名があります。漢方からきた病名です。「月経、妊娠、出産、産後、更年期などの女性のホルモンの変動による不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のこと」とされています。血の道症に対する漢方方剤は多数存在し、それなりに有効です。私は血の道症の主因は鉄蛋白不足だと考えています。月経、出産をくりかえしているうちに鉄蛋白不足になり体調を崩す。これがすなわち血の道症です。漢方で症状はある程度とれますが、鉄蛋白を補充しないと本質的解決にはなりません。漢方、プロテイン、アミノ酸、消化酵素、鉄剤を使うことで改善します。出産を望まないのであれば、婦人科で月経を止めると改善します。ただし蛋白不足の方は薬害がでやすいので注意が必要です。
精神科領域
うつ、気分障害、神経症性障害、身体表現性障害、疼痛性障害、線維筋痛症、発達障害、人格障害
遺伝的要因、社会的要因は当然ありますが、栄養異常によるものが注目されています。特に蛋白不足、鉄不足、亜鉛不足、ビタミンB群不足、ビタミンD不足が多いとされます。経験的には鉄蛋白不足が大部分を占めます。倦怠感、元気がない、食欲不振などの症状があれば、鉄蛋白不足を疑います。血液検査を行い栄養療法行います。つらい症状があれば漢方で対処します。
不眠症
不眠は漢方的にみると複数の症状のひとつに過ぎないことがほとんどです。随証的治療で改善します。
整形外科領域
神経痛、腰痛、五十肩、関節炎
通常の鎮痛薬は急性期で熱を持った状態に効くのですが、慢性期に入り冷えてきて寒証になると効かなくなります。また鎮痛薬は治癒を遅らせます。附子などの暖める痛み止めが必要です。通常、瘀血と水滞を伴っているので、それらをとる薬も必要です。運動器の障害がおきやすい人は、糖質過剰で蛋白不足です。
むちうち後遺症
治打撲一方合葛根加朮附湯が標準治療とされています。閉経前女性に多く、鉄蛋白不足を伴っています。外傷により損傷した組織が修復されない状態です。コラーゲンの劣化と更新不足が背景にあります。適切な栄養療法の併用が必要です。
外傷
外傷の急性期は瘀血です。駆於血剤が有効です。骨・関節には桂枝茯苓丸、治打撲一方の組み合わせが有効です。靱帯、腱の障害には桂枝茯苓丸、よく苡仁湯、筋肉障害に対しては桂枝茯苓丸、麻杏薏甘湯の組み合わせが有効とされます。
皮膚科領域
ヘルペス、イボなどの慢性ウイルス感染
低栄養による免疫力低下のある方がほとんどです。適切な栄養療法が必要です。病変自体は湿熱が多く清熱利湿剤を主に使用します。ウイルスを押さえるためにビタミンC、ヨクイニンを用います。
アレルギー性皮膚炎、アトピー、手湿疹、慢性じんま疹、汗疱
皮膚の炎症そのものを押さえるのは、漢方でも現代薬でも構いません。問題はそのあとで、直ちに皮膚の再生を促す必要があります。すなわち補気補血です。補剤を使うのですが、それだけでは不十分で材料となる栄養を補充することが必要です。そもそも様々な抗原に皮膚が反応するのは、低栄養のため皮膚の細胞の密着結合が劣化して容易に抗原が侵入するためです。栄養療法の併用が望まれます。市販の水素も有用です。
帯状疱疹後神経痛
桂姜棗草黄辛附湯(桂枝湯+麻黄附子細辛湯)が有効とされますが、長期に続き難治化した例では附子の増量、他の方剤への変更が必要です。ちなみに帯状疱疹の急性期は漢方的には湿熱です。抗ウイルス薬に清熱利水剤、ビタミンCを併用することで神経障害を防げます。そもそも帯状疱疹の発症自体が体力低下、気血両虚を意味します。適切な栄養摂取と気血双補剤の使用が望まれます。
耳鼻科領域
慢性上咽頭炎
インフルエンザの検査では鼻から棒をいれて喉の奥を調べます。その際、棒の先が当たる部分が上咽頭です。風邪のウイルスが最初に付着する部位です。この部分が慢性炎症を起こすことがあります。咽頭違和感、後鼻漏、咳喘息、痰、首こり、肩こり、頭痛、耳鳴り、舌痛、歯の知覚過敏、歯痛、顎関節痛などの局所の症状を起こします。また上咽頭は頭蓋の底にあたり、神経、動脈、静脈の出入り口になっているため、全身倦怠感、めまい、睡眠障害、起立性調節障害、記憶力・集中力の低下、過敏性腸症候群、機能性胃腸症、むずむず足、慢性疲労症候群、線維筋痛症などの様々な症状を引き起こします。また炎症が長引くと慢性腎炎や掌蹠膿疱症になるとされます。漢方治療を希望される方に結構な率で存在します。耳鼻科で処置をすると治ります。薬剤による鼻うがい、漢方、水素も有効です。検査をすると、ほぼ全員鉄蛋白不足です。治ってもしばしば再発します。詳細は下記のサイトを参照ください。
https://jfir.jp/chronic-epipharyngitis/
花粉症、アレルギー性鼻炎
漢方的に寒熱、燥湿をみて方剤を決めます。寒湿であれば小青竜湯でいいのですが、現代薬の使用により燥熱の状態になっていることもあります。根本的原因は粘膜・皮膚の脆弱性です。低栄養のため粘膜細胞の密着結合が劣化して抗原が侵入することが原因です。ビタミンDが特効薬とされます。栄養療法の併用が望まれます。
メニエール病、めまい症
内耳の水滞です。水チャンネル(アクアポリン)の劣化により内耳の水の流れが悪くなるために起こります。苓桂朮甘湯などの利水剤を使用します。水チャンネル(アクアポリン)の更新のために適切な栄養摂取が望まれます。
泌尿器科領域
夜間頻尿
いわゆる腎虚の症状です。八味丸などの補腎剤が有効ですが、同時に様々な漢方的異常が存在することが多く、それらを治療すると頻尿も同時に改善することが多々あります。
慢性膀胱炎、間質性膀胱炎
漢方的には下焦(下半身)の湿熱として治療されることが多いのですが、必ずしもうまくいきません。慢性感染は低栄養です。間質性膀胱炎は、血管もふくめて膀胱が脆くなっています。低栄養のなれの果てです。栄養療法の併用がのぞまれます。
慢性前立腺炎
漢方的には瘀血です。鬱血をとる漢方が有効です。慢性炎症は低栄養ですので栄養療法の併用が必要です。市販の水素も有効です。
歯科口腔外科領域
歯ぎしり、かみしめ、顎関節症
なにかの弾みで歯ぎしり、かみしめが始まると、その結果、頭部が鬱血して頭痛、肩こり、めまいなどが起こります。それらがつらいので、また歯ぎしり、かみしめが起こります。あとは悪循環です。かみしめる力で顎関節、歯が破壊されます。硬口蓋、口腔底に骨性隆起が発生します。抑肝散などで緊張を緩和することが必要です。しばしば慢性上咽頭炎を併発しています。この場合は上咽頭炎治療も同時に行います。背景には低栄養があり、栄養療法が必要です。
舌痛症
立効散という歯痛の漢方が効きます。低栄養のため中枢神経の働きに異常がおき、痛みを感じやすくなった状態です。適切な栄養摂取が必要です。
薬剤副作用の治療
薬剤による痛み、しびれなど
生活習慣病などで長期に薬剤を飲んでいる方に見られます。薬剤性の横紋筋融解症や末梢神経障害です。基本的に漢方は無効です。検査結果を見ながら、薬剤を一つずつ入れ替わりにやめて症状の改善があるかどうかを調べていきます。脂質異常症に使われるスタチン類によるものが目立ちます。薬害が出やすい方には、蛋白不足による解毒酵素の活性低下が存在します。適切な栄養摂取が望まれます。また胃酸抑制剤を長期に使用すると鉄不足になり、上述の鉄不足の症状がでます。血液検査をしないと分からないので要注意です。
抗癌剤の副作用対策
下痢、口内炎、手足症候群のような皮膚粘膜の障害が主に問題になります。漢方的には湿熱です。清熱利水剤を用います。気血両虚≒鉄蛋白不足の患者で起こりやすくなります。適切な栄養補給、気血双補剤、水素などを使用します。
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静岡市立清水病院 漢方外来受付
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