診療科・各部門について

スタッフと専門領域

医師名 出身大学 医師免許取得年 専門領域・資格等

医師
尾崎正時
千葉大学 昭和58年 ・医学博士
・日本東洋医学会漢方専門医・指導医
・日本東洋医学会代議員
・日本東洋医学会東海支部幹事
・日本東洋医学会東海支部
         静岡県部会副会長
・日本医学放射線学会
   放射線治療専門医、研修指導者
・第一種放射線取扱主任者
・日本オーソモレキュラー医学会会員

漢方とは

古代~近世までにもたらされた中国伝統医学と我が国の経験医学に西洋医学の知識を加え、独自に発展・体系化した日本の伝統医学です。江戸時代に入ってきた西洋医学を蘭方とよぶようになったのにともない、漢方とよばれるようになりました。中国の中医学に対して日本漢方とも呼ばれます。中国では現代医学を西医学、中国伝統医学を中医学と呼んでいます。漢方と中医学は、似ていますが違いもあります。漢方では、症状(証)に合わせて処方を決めます(方証相対)。また病位を重視します。傷寒論の六病位を現在も使用しています。中医学では、症状を伝統医学的に解釈し治療方針を決め(弁証論治)、処方を組みます。病質(臓象)を中心に考えることが多く、それらの相互関係を重視します。臓腑偏重で感染症以外では病位(経絡)を考えません。

当科の漢方の特徴

漢方でも現代医学でも、どういった種類の病気が時間経過のなかで治療時にどのような状態になっているのかを把握して治療することが必要です。病気の性質(病質、証)と進み具合(病位、経絡)を二次元的にとらえる必要があります。このような考え方は、清朝末期から中華民国時代には主流だったようですが、中華人民共和国になり現代中医学がまとめられたときに、大幅な簡略化によって失われてしまいました。日本漢方は六病位を使っていると書きましたが、最近は中医学の影響で病位は軽視される傾向にあります。当科では、病質と病位を二次元的に捉える漢方を実践しています。


■漢方の適応

■漢方理論について

■漢方理論(気血水)の現代医学的解釈

■漢方と分子栄養学・オーソモレキュラー医学

■漢方の適応疾患


漢方の適応

現代医療のなかで漢方が使われるのは、主には下記のようなケースです。


1.現代医学ではっきりした診断がつかない場合

不定愁訴や原因不明とされる症状でも、漢方的には病態を把握でき、対応する方剤が存在します。

2.診断はついているがよい治療法がない場合

たとえば風邪です。風邪を治す薬があればノーベル賞といわれていますが、実は大昔からあるのです。風邪薬という一種類の薬があるわけではなく、数十の処方を証にあわせて使い分けます。風邪の治療で特に重要なのは寒熱の判別です。患者が寒がっているのが寒証、暑がっているのが熱証です。寒がっている寒証の患者には、熱があっても解熱剤を使ってはいけません。体を温める方剤を使わなくてならないのです。現代医学には、附子、乾姜、桂枝のような体を温める薬物がないので、寒がっている寒証の風邪を治療できません。寒熱の概念のない現代医学では、熱があると解熱剤を使って風邪を遷延させてしまいます。

3.現代医学的治療の副作用の予防・治療

近年、様々な抗悪性腫瘍薬が使用されていますが、副作用対策が不十分です。現代薬にはよい薬が少ないので、副作用が強いと休薬しなくてはいけません。漢方が有効です。また放射線治療の副作用は、現代薬がほぼ無効で漢方でないと治療できません。現代医学的治療で合併症が出やすい人は、たいてい栄養障害を伴っています。低栄養だと解毒能力が下がり薬剤の副作用が出やすくなるのです。栄養療法を併用することで治療効果があがります。

4.多臓器・多系統にわたる疾患

たとえば水滞(水毒)という病態があります。からだのなかで水が滞る病態です。アクアポリン(水チャンネル)の劣化によって起こるようです。雨の頭痛、乗り物酔い、口渇、歯根舌、胃内停水、小便が多い、小便が少ない、水様帯下、水様下痢、むくみ、関節液貯留、腰のだるさ、など全身に多彩な症状をおこすのですが、原因は水の流れの悪さです。治療はには、アクアポリンに働いて水の流れを整える利水剤を使います。このように漢方は体全体を把握して治療することができます。

5.病気の予防、体質改善、病後、産後の体力回復

虚弱な人、炎症を起こしやすい人、病後などで弱った人に漢方を長期に使用すると確かに効果があるのですが、こういう人は検査すると栄養障害を認めることがほとんどです。体質の異常とは、胎生期も含めた過去の栄養不足の結果です。漢方薬は栄養にはなりませんが、栄養の吸収や利用を促進し体力をつける働きがあります。

漢方薬は、原則として保険適応のエキス製剤と生薬末のみを使用します。煎じ薬、鍼灸には対応していません。

漢方理論について

漢方理論には空理空論が多く、こじつけも多々あります。しかし漢方薬物、漢方方剤の運用のために作られた取り決め、約束事ですので知らないと応用が利きません。現代医学的発想で漢方を使ってもそれなりに効きますが、やはり長年の検証に耐えて残っている漢方理論に分があります。以下、気血水、病質、病位について解説します。


1.気血水

主には日本漢方で使われる理論です。単純で理解しやいわりに、汎用性があり多用される用語です。詳細については下述の説明を参照ください。


2.病質(病気の性質)

病気の性質の分類です。病性、病勢、六淫、四傷、病向、臓象の6つの観点から病気を分類します。

 

①病性 寒熱
熱証 
緊張的・興奮的・充血的・炎症的・高血圧的・機能亢進的状態

顔面紅潮、あつがり、暖房嫌い、口渇、多飲、冷飲食好き、生理が早い、経血鮮紅、尿が濃い、硬便、頻脈、黄色痰、膿性帯下などの症状。

寒証 弛緩的・萎縮的・貧血的・無力的・低血圧的・機能衰退的状態

顔面蒼白、冷房嫌い、温飲食好き、生理が遅れる、経血暗黒、尿が薄い、尿意頻回、軟便下痢、徐脈、悪寒、冷え症、薄い痰、水様帯下などの症状。

 

②病勢 虚実
実証 出ない悩みをもつ体質。

実とは過剰。病邪の体外排瀉障害、充血、汗が出にくい、経前痛、過小月経、尿意欠乏、尿量少ない、硬便、便意欠乏、便量少ない、便秘などの症状。

虚証 出過ぎる悩みをもつ体質。

虚とは不足。体力不足、貧血、顔面蒼白、元気ない、汗が多い、経時痛、過多月経、尿意頻回、尿量多い、軟便、便意頻数、便量多い、下痢などの症状。

 

③六淫 病邪
風邪 
痛み、かゆみ、こり、マヒ、無感覚、しびれ、ひきつれ、こわばり、けいれん、震え、てんかん、アレルギーなどの症状。

冷邪 体温不足、低温侵襲、冷え症、冷感、悪感、低血圧、消化不良、下痢、帯下、頻尿などの症状。

湿邪 体内水分過剰、水分の部分的貯留、浮腫、舌縁の歯形、薄い痰、嘔吐、水様帯下、頻尿、尿量減少、下痢、黄疸、胃内停水、腸鳴などの症状。

燥邪 全身的絶対的水分不足、皮膚枯燥、煩褐、舌のひび割れ、乾咳、多汗、寝汗、無月経、便秘などの症状。

火邪 病的興奮状態、炎症、不眠、腫物などの症状。

暑邪 体熱放散不全による鬱熱状態、日射病、熱中症などの症状。

 

④四傷 気血痰鬱
上述の気血水と重複する概念。
気傷 機能障害のみ(血傷、痰傷、鬱傷の症状がない場合)。気虚、気滞(気欝+気逆)に相当。

血傷 血液関連症状:出血、充血、鬱血、貧血、瘀血。血虚、瘀血に相当。

痰傷 呼吸器、消化器の異常水分、浮腫、痰が多い、胃内停水、腸鳴、嘔吐、下痢。水滞に相当。

欝傷 消化器、循環器の異常、消化不良、痛み、肢痛、身体痛、リンパ腺の腫れ、血栓。気滞(気欝+気逆)に相当。

 

⑤病向 升降散収
升証 上がるべきでないものが上がり、下るべきものが下らない為の症状

上熱下寒、怒りっぽい、イライラ、のぼせ、不眠、体力なしの疲れ知らず、体上部の出血(鼻血、喀血、吐血)、目充血、咳、喘息、嘔吐、耳鳴、便秘などの症状。

降証 下るべきでないものが下り、上がるべきものが上がらない為の症状

上寒下熱、低血圧、いつもだるい、いつも横になりたい、体力ありの元気なし、嗜眠、動悸、帯下が多い、習慣性流産、体下部の出血、下痢、月経過多、多尿などの症状。

散証 出るべきでないものが出たり、出るべきものが出過ぎる為の症状

気が散って集中できない、不眠、体が冷える、多汗、寝汗、不正出血、痰が多い、嘔吐、月経過多、帯下が多い、尿量が多い、下痢などの症状。

収証 出るべきものが出ない状態

体温上昇、発熱、発疹、乾咳、無汗、無月経、尿量減少、便秘などの症状。

 

⑥臓象 五行

薬物はその味によって酸味薬、苦味薬、甘味薬、辛味薬、鹹味(+淡味)薬の5種類に分類できます。臓象とはこの5種類の薬物に反応する病状を、肝木病、心火病、脾土病、肺金病、腎水病の五つに分類したものです。

 

肝木病

木性薬に反応する症状。木性薬とは酸味薬の最大公約数的薬効をもつ薬物。この薬効をもつ薬物は酸味でなくとも木性薬とし、この薬効をもたない薬物は酸味であっても木性薬ではない。実証には木性、火性、金性の瀉薬、虚証には木性、水性、土性の補薬を使用。

情緒の変動、自律神経失調、栄養障害、循環障害、関節の異常、目の障害と関係。
三番目に治療すべき症状。

 

肝木病の代表的病態

[虚証]
肝血虚 
皮膚枯燥、爪割れ、脱毛、眼精疲労、目のかすみ、ドライアイ、羞明、眠りが浅い、しびれ感、筋痙攣、月経遅延、経血過少。中枢神経以外の血虚の症状。虚証の血傷などに相当。

肝陰虚 肝血虚の症状に、ほてり、のぼせ、熱感、寝汗などの虚熱の症状が加わる。虚熱証の燥邪、火邪、血傷などに相当。

肝陽上亢 肝血虚、肝陰虚に頭痛、顔面紅潮、イライラ、易怒、耳鳴など頭部の症状を伴う。虚熱証の燥邪、火邪、血証、升証などに相当。

肝風内動 ふるえ、痙攣、熱性痙攣、ひきつけ、ふらつきなどを内風すなわち体内の風と捉える。風邪に相当。

[実証]
肝気鬱結 
血虚がなく、情緒不安定、ヒステリー、ため息、胸脇苦満、便秘、経前乳房脹痛。実熱証の気傷、火邪などに相当。

肝火上炎 血虚がなく、イライラ、易怒、不眠、頭痛、めまい、耳鳴、難聴、顔面紅潮。実熱証の火邪、升証などに相当。

肝胆湿熱 肝炎、胆嚢炎など。実熱証の湿邪、痰傷などに相当。

肝気横逆 肝木病にともない、ストレス性胃炎などの胃腸症状を来したもの。

 

心火病
火性薬に反応する症状。火性製薬とは苦味薬の最大公約数的薬効をもつ薬物。この薬効をもつ薬物は苦味でなくとも火性薬とし、この薬効をもたない薬物は苦味であっても火性薬ではない。実証には火性、土性、水性の瀉薬、虚証には火性、木性、金性の補薬を使用。

循環器疾患、意識障害、精神障害、血液循環、舌症状、味覚異常、血管・血液の異常と関係。
四番目に治療すべき症状。

 

心火病の代表的病態
[虚証]
心気虚 
動悸、息切れ、胸苦しい、不安感、めまい感、多汗、顔色不良、動くと症状悪化、不整脈。虚証の気傷などに相当。

心陽虚 心気虚の症状に、四肢の冷え、寒気、チアノーゼ、不整脈などの寒証が加わる。虚寒証の気傷、冷邪などに相当。

心血虚 寝つきが悪い、断眠、多夢、驚きやすい、不安感、健忘、めまい、頭のふらつき、動悸。虚証の血傷、散証などに相当。

心陰虚 心血虚の症状に、のぼせ、焦燥、手足ほてり、口喝、寝汗などの虚熱の症状が加わる。虚熱証の火邪、燥邪、血傷、散証などに相当。

[実証]
心火旺 
不眠、多夢、顔面紅潮、焦燥、口渇が強い。口内炎、舌びらん、狂躁、精神異常。心陰虚の症状が強いもの。実熱証の気傷、火邪、燥邪、升証などに相当。

心腎不交 心火旺の症状に腎陰虚の症状が加わったもの。

 

脾土病

土性薬に反応する症状。土性薬とは甘味薬の最大公約数的薬効をもつ薬物。この薬効をもつ薬物は甘味でなくとも土性薬とし、この薬効をもたない薬物は甘味であっても土性薬ではない。実証には土性、金性、木性の瀉薬、虚証には土性、火性、水性の補薬を使用。

栄養調節、消化吸収、口唇症状、口腔異常、筋肉症状、唾液・涎と関係。
最優先で治療すべき症状。

 

脾土病の代表的病態
[虚証]
脾気虚 
食欲不振、小食、味がしない、腹部膨満、便秘、泥状便、息切れ、元気がない、虚証の気傷などに相当。

脾陽虚 脾気虚の症状に、不消化下痢、よだれ、腹が冷えて痛む、寒がり、四肢の冷えなど、寒証を伴う。虚寒証の気傷、冷邪などに相当。

中気下陥 脾気虚または脾陽虚の症状に手足のだるさ、立ちくらみ、胃下垂、遊走腎、脱肛、子宮脱などの内臓下垂を伴う。虚証の降証に相当。

脾不統血 脾虚の症状に鼻出血、皮下出血、市販、血尿、過多月経、不正出血などの出血傾向を伴う。虚証の血傷、散証などに相当。

[実証]
寒湿困脾 
食欲不振、悪心、上腹部膨満感、口粘、体がだるくて重い、頭が締め付けられて重い、腹痛、水様便。実寒証の冷邪、湿邪などに相当。

胃熱 上腹部灼熱感、食べると悪化、口臭、口苦、胸やけ、悪心、嘔吐、呑酸、口渇、多飲、飢餓感、便秘。 実熱証の火邪などに相当。

胃気上逆 悪心、嘔吐、おくび、吃逆。気傷、升証、冷邪、火邪、暑邪、湿邪などに相当。

 

肺金病
金性薬に反応する症状。金性薬とは辛味薬の最大公約数的薬効をもつ薬物。この薬効をもつ薬物は辛味でなくとも金性薬とし、この薬効をもたない薬物は辛味であっても金性薬ではない。実証には金性、水性、火性の瀉薬、虚証には金性、土性、木性の補薬を使用。

呼吸機能、大便排泄機能、鼻症状、嗅覚異常、皮膚症状、発汗異常と関係。
二番目に治療すべき症状。

 

肺金病の代表的病態
[虚証]
肺気虚 
多汗、寒気、易感冒、咳嗽、息切れ、声に力がない、顔面蒼白、薄い痰。虚寒証の気傷、冷邪、湿邪、散証などに相当。

肺陰虚 乾性咳嗽、粘痰、嗄声、喉の乾燥、口渇、ねあせ、羸痩。虚熱証の気傷、燥邪、散証などに相当。

[実証]
風寒束表 
悪寒、頭痛、くしゃみ、鼻水、身体痛。寒証の気傷、風邪などに相当。

風熱犯肺 熱感、咽痛、黄色鼻汁、頭痛。熱証の気傷、風邪などに相当。

燥邪犯肺 感性咳嗽、粘痰、鼻口乾燥、皮膚乾燥、無汗、鼻閉。実証の燥邪などに相当。

 

腎水病
水性薬に反応する症状。水性薬とは鹹味薬の最大公約数的薬効をもつ薬物。この薬効をもつ薬物は鹹味でなくとも水性薬とし、この薬効をもたない薬物は鹹味であっても水性薬ではない。実証には水性、木性、土性の瀉薬、虚証には水性、金性、火性の補薬を使用。
生殖機能、感染早期の防衛機能、耳症状、聴覚異常、骨格症状、泌尿器異常と関係。
最後に治療すべき症状。

 

腎水病の代表的病態
[虚証]
腎精不足 
眩暈、耳鳴、脱毛、歯牙動揺、知能減退、健忘、動作緩慢、腰膝のだるさ、性機能減退、小児の発達不良、女性の無月経、不妊。虚証の気傷、降証、散証などに相当。

腎気不固 腎精不足の症状に、尿失禁、夜尿、尿の余瀝、無性、早漏。虚証の降証、散証などに相当。

腎陽虚 腎精不足の症状に、元気がない、いつも眠い、寒がる、四肢冷感、多尿、頻尿などの寒証。虚寒証の気傷、冷邪、湿邪、痰傷、降証、散証などに相当。

腎陰虚 腎精不足の症状に、熱感、のぼせ、手掌足蹠熱感、口渇、寝汗、尿が濃いなどの虚熱の症状。虚熱の気傷、火邪、燥邪、降証、散証などに相当。

[実証]
膀胱湿熱 
急性膀胱炎。実熱の火邪、湿邪に相当。

 

病質、臓証、五行色体表
                          二宮文乃、松永均、張明澄  尾崎改

表現の重複と病態分類
病性、病勢、六邪、四傷、病向、病質・臓象は病態を異なった視点で分類しているのですが、重複した分類、表現があります。例えば寒証と冷邪と腎水病は似ていますし、陽虚とも近い概念です。単純に掛け合わせると2×2×6×4×4×5で1920通りの病態があることになりますが、実臨床では寒熱虚実×(六邪+升降散収)の40分類で十分とされます。


3.病位(病気の進行度)

病気の進行の程度を表します。

 

病位分類の変遷

最初は表裏の分類だけでした。その後手足のツボの分類である十二正経を用いて十二分類されるようになりました。傷寒論では、三陰三陽の六経になり、温病論では三焦・衛気営血の六分類になりました。清末から中華民国時代に活躍した名医、張錫純は十二経絡を用いていたといわれます。昭和から平成にかけ活動した漢方研究家、張明澄はこの十二経絡を簡略化し八分類にしたものを提唱しました。当科では、この八分類を用いています。

http://meichyo.org/sani.html

 

                          二宮文乃、松永均、張明澄  尾崎改

十二病位(経絡)
以下、十二経絡について概説します。

膀胱経 表証 急性病で発熱、頭痛、呼吸器症状、皮膚症状のほかに何らかの他の症状がる段階。

肺経 表証 急性病で発熱、頭痛、呼吸器症状、皮膚症状のほかに何も症状がない段階。

心経 裏証 不眠・のぼせ・イライラなどの精神的、心理的、情緒的症状だけがあって、他の身体症状が無い段階。

心包経 裏証 心包とは解剖学的には胃。精神的、心理的、情緒的原因によって、ムカムカ、吐気、悪心、食欲不振など軽い胃(心窩部)症状がともなう段階。

胆経 裏証 精神的、心理的、情緒的症状の段階。胃(心窩部)以外の症状を伴う段階。

胃経 裏証 胃腸症状が主になっている段階。

小腸経 裏証 肩こりや血液・尿などの異常が主症状になっている段階。

三焦経 裏証 化膿や炎症が主症状となっている段階。

大腸経 裏証 顔面症状または排泄症状が主症状になっている段階。

脾経 裏証 栄養異常が主症状になっている段階。

腎経 裏証 生命力が低下している段階。

肝経 裏証 血液の異常(鬱血、貧血、出血など)、起床困難または身体の構造的異常がある段階。

 

病位の求め方
急性発症で頭痛、悪寒、関節痛、腰背部痛、皮膚症状、浮腫などがある
 全身症状  膀胱経
 呼吸器症状、皮膚症状のみ 肺経
2週間以上続く症状で明らかな器質的疾患がなく、外見正常
 心身症的 胆経
 消化器症状中心 胃経
 上記以外 腸経
2週間以上続く症状で明らかな器質的疾患がなく、消耗した外見
 栄養異常が主体 脾経  
 上記以外 腎経
2週間以上続く症状で器質的疾患が存在 肝経

 

方剤帰経の求め方

上記は市販の書籍をもとに当帰芍薬散の構成生薬を表にしたものです。単位とはエキス製剤の標準使用量に対する比です。6種の生薬がほぼ均等に入っています。作用より血を増やし流れをよくし、利水することがわかります。気味より温性のものが多く、全体として温める性質を持つことが分かります。全体として補の性質をもち虚証に用いられます。潤燥は燥優位で乾かす方剤です。升降散収に偏りはありません。すなわち暖めて、補って利水する方剤です。五行は肝木、心火、脾土の方剤です。帰経とはどの病位(経絡)に使用するかを示します。脾経、肝経のもの、すなわち六経でいうと太陰病、厥陰病の薬が多く、病が進行し体力が弱った状態に使用する方剤であることがわかります。また茯苓、白朮は土性の補薬なので木性の補薬である当帰、芍薬を助けます。つまり当帰芍薬散の病質は虚寒証で湿邪であり、病位は肝経です。

 

病質(病気の種類)、病位(病気の進行度)による方剤の使い分け

上述のように各方剤の性質を求めると、方剤がどの病質のどの病位に適応するかが分かります。縦軸に病質、横軸に病位をとり、エキス製剤をあてはめたものが下図です。当帰芍薬散は虚寒証湿邪、陰病なので、虚寒の湿邪の列を見ると肝経に当帰芍薬散が載っています。病質と病位がわかれば早見表で使用方剤を決めることができます。病位と病質をひとつに決めかねる場合には、寒熱虚実と表裏と陰陽を決めて、そこに含まれる方剤を参考に使用する方剤を決めるという方法をとります。

 

二宮文乃、松永均、張明澄  尾崎改

複数の病質・病位
古来、病質病位が複数カ所にまたがることが観察されていて、このような状態を合病、併病、兼病などと呼びます。病質病位が一点に決まり、一つの方剤で対応できればすっきりするのですが、実臨床では異なった病質病位の複数の方剤を併用することが多々あります。たとえば虚証で陰病のひとが、体のつらさのために肝気鬱結をきたして胆経の実証の症状を来している場合を考えれば、ひとつの方剤では追いつかないことが容易に理解できると思います。


漢方理論(気血水)の現代医学的解釈

漢方理論のひとつに気血水の考え方があります。気はエネルギー・機能で血は材料・血液などといわれます。気の異常として、気虚(気が足りない)、気欝(気が流れない)、気逆(気が逆流する)があります。気欝と気滞を合わせて気滞ともいいます。血の異常として、血虚(血が足りない)、瘀血または血滞(血の流れが悪い)があります。水の異常として水滞(水の流れが悪い)があります。現代中医学の陽は気+熱、陰は血+水(津液)と捉えておけばよいと思います。以下、気虚、気滞、血虚、瘀血、水滞の症状をあげ、栄養の視点も加えて現代医学的に説明します。


気虚、陽虚の症状とその原因
気力がない、疲れやすい、日中の眠気、驚きやすい、倦怠感、息切れ
大脳新皮質の活動低下とそれに伴う辺縁系以下の異常です。脳のエネルギー(ATP)不足によりおこります。主に蛋白、鉄、ビタミンB群不足と関係します。神経伝達物質の不足、神経細胞の劣化とも関係します。

立ちくらみ、動悸、多汗、自汗、手掌発汗
自律神経の異常です。自律神経を調整する脳のエネルギー(ATP)不足によりおこります。主に蛋白、鉄、ビタミンB群不足と関係します。神経伝達物質の不足、神経細胞の劣化とも関係します。

風邪をひきやすい。
免疫力低下です。全身の低栄養の結果です。

寒がり、四肢の冷え
全身のエネルギー(ATP)産生障害です。ミトコンドリア機能の低下です。主に蛋白、鉄、ビタミンB群不足と関係します。

味がしない、食欲不振、小食、腹部不快、軟便・泥状便、食後腹満、胃もたれ
胃腸虚弱です。酸化、糖化、低栄養による消化器の劣化が一因です。

脱肛、子宮脱、胃下垂
内臓下垂です。臓器そのものの劣化、中枢神経のエネルギー(ATP)不足によると考えています。

鼻出血、皮下出血、経血過多、不正出血
出血傾向です。コラーゲン劣化などによる血管壁の劣化、低栄養による血液凝固能の低下によりおこります。


気滞(気鬱、気逆)の症状とその原因
抑うつ傾向、起床困難、時間により症状が変わる、移動性の痛み、焦燥感
大脳新皮質の活動低下とそれに伴う辺縁系以下の異常です。脳のエネルギー(ATP)不足によりおこります。主に蛋白、鉄、ビタミンB群不足と関係します。神経伝達物質の不足、神経細胞の劣化とも関係します。

冷えのぼせ、顔面紅潮、臍上悸、四肢の冷え、手掌足蹠の汗、月経不順
自律神経の異常です。自律神経を調整する脳のエネルギー(ATP)不足によりおこります。主に蛋白、鉄、ビタミンB群不足と関係します。神経伝達物質の不足、神経細胞の劣化とも関係します。

動悸、頭重・頭帽感、喉のつかえ感、胸の詰まった感じ、季肋部のつかえ感、経前乳房脹痛
体からの信号を脳が誤読することで起こります。中枢神経のエネルギー(ATP)不足によります。主に蛋白、鉄、ビタミンB群不足と関係します。神経伝達物質の不足、神経細胞の劣化とも関係します。

胸部・腹部膨満感、げっぷ、排ガスが多い、残尿感、腹部の鼓音
自律神経の異常です。自律神経を調整する脳のエネルギー(ATP)不足によりおこります。主に蛋白、鉄、ビタミンB群不足と関係します。神経伝達物質の不足、神経細胞の劣化とも関係します。臓器そのものの劣化も関係しています。

発作性頭痛、悪心の少ない嘔吐、怒責を伴う咳嗽、腹痛発作
反射の異常亢進です。反射を調整する脳のエネルギー(ATP)不足によりおこります。主に蛋白、鉄、ビタミンB群不足と関係します。神経伝達物質の不足、神経細胞の劣化とも関係します。


血虚、陰虚の症状とその原因
多夢、健忘、不安感、集中力低下、不眠、めまい感、しびれ感(蟻走感、鈍麻)、眼精疲労
大脳新皮質の活動低下とそれに伴う辺縁系以下の異常です。脳のエネルギー(ATP)不足によりおこります。主に蛋白、鉄、ビタミンB群不足と関係します。神経伝達物質の不足、神経細胞の劣化とも関係します。

顔色不良、脱毛、皮膚乾燥、口唇乾燥・裂、皮膚荒れ、あかぎれ、爪の異常、ドライアイ、過少月経、月経不順
体を作る材料の不足です。蛋白、鉄、ビタミン、ミネラル、脂肪不足によります。

こむら返り、筋肉痙攣
マグネシウム不足が原因とされます。微小循環障害によるものもあります。


瘀血の症状とその原因
口唇・歯肉・舌の暗赤化、細絡、痔疾、静脈瘤
静脈壁の劣化による静脈の怒張です。主にはコラーゲンの劣化によります。蛋白、鉄、ビタミン不足、高血糖と関係します。赤血球の異常とも関係します。

臍傍臍下圧痛、左右下腹部圧痛
内臓の鬱血によりおこるとされます。静脈壁の劣化が原因です。蛋白、鉄、ビタミン不足、高血糖と関係します。

目のクマ、顔面色素沈着
沈着した物質を処理できないことによります。

皮下出血、過多月経、経血塊
血管壁の劣化、血液凝固能の異常によりおこります。鉄蛋白不足が主因です。


水滞の症状とその原因
体が重い、むくみ、朝のこわばり
アクアポリン(水チャンネル)の劣化、更新不足によりおこります。蛋白不足によります。

拍動性頭痛、頭重感、悪心・嘔吐
脳の浮腫です。アクアポリン(水チャンネル)の劣化、更新不足によりおこります。蛋白不足によります。

車酔い、めまい、立ちくらみ、雨天症状増悪
内耳の水の流れの異常です。アクアポリン(水チャンネル)の劣化、更新不足によりおこります。蛋白不足によります。

胃内停水感、水瀉様下痢、グル音
腸管の水分吸収障害です。アクアポリン(水チャンネル)の劣化、更新不足によりおこります。蛋白不足によります。

口粘、胸水、腹水、心嚢水、帯下が多い
水の輸送能の低下です。背景にアクアポリン(水チャンネル)の劣化、更新不足があると考えます。

尿量減少、多尿
腎臓の劣化によります。腎臓はもっともアクアポリンの多い臓器です。アクアポリン(水チャンネル)の劣化、更新不足が一因と考えます。

水様鼻汁、唾液分泌過多
冷えによるとされます。エネルギー(ATP)産生障害です。主に蛋白、鉄、ビタミンB群不足と関係します。


漢方の考え方は、栄養の視点を加えると現代医学的に解釈可能です。しかし現代医学では原因がわかっても治療ができません。漢方の診断方法は、原因を特定して解決するのではなく、方剤の運用のために決められたものです。おなじ蛋白不足の症状でも気虚と血虚では使う方剤は全く異なります。したがって方剤の選択には従来通りの漢方の診断が必要です。
気血水の異常と栄養の関係を図示すると下記のようになります。

漢方と分子栄養学・オーソモレキュラー医学

漢方が得意とする病気は栄養障害と密接な関係があります。漢方を十分に効かせるには栄養状態も同時に改善する必要があります。従来の漢方はこの点に問題があったと考えています。漢方治療を始める際には、血液検査等で現代医学的疾患の有無、蛋白不足、鉄・亜鉛などのミネラル不足、ビタミン不足、糖質摂取過剰などの栄養学的異常の有無を把握しておくことが必要です。主な栄養異常について説明します。


蛋白不足

人体の蛋白は酸化、糖化、炎症で徐々に劣化していきます。劣化した蛋白は更新しなくてはいけないのですが、蛋白摂取量が少ないと更新できず古い蛋白がそのまま使われ続けます。そうすると臓器が脆く弱くなります。腸粘膜が弱くなるとリーキーガットになり食物アレルギーを起こします。皮膚や粘膜が弱くなると、花粉などの抗原が容易に入り込み、アレルギーを起こします。また妊娠線などの皮膚線条ができやすくなります。劣化した体蛋白を免疫系が異物と認識すると自己免疫疾患になります。蛋白不足だと神経伝達物質の産生が低下します。うつ、パニックなどの精神症状をきたします。細胞のエネルギーを作るミトコンドリアの酵素も蛋白でできています。蛋白不足だと、エネルギー不足になり、冷え症やだるさがでます。手っ取り早くエネルギーを得るために甘いものを好みます。
また免疫応答には蛋白が必要です。蛋白不足だと感染に弱くなります。蛋白不足だとからだを活性酸素からまもる抗酸化酵素が少なくなり、炎症を起こしやすいうえに治りにくくなります。さらに放射線や化学物質の害を受けやすくなります。蛋白不足だと解毒機能が落ちます。薬物や毒性のある物質を処理できなくなり、薬剤の副作用が出やすくなったり、化学物質過敏症になります。困ったことに蛋白不足になると消化管の劣化、消化酵素の減少により蛋白質を食べても消化できなくなり、より蛋白不足になっていきます。蛋白不足のひとほど蛋白をうけつけないのです。無理に蛋白を食べても、蛋白が消化できず下痢や放屁がおこり、かえって体調をくずします。

一日の蛋白必要量は、健康な人で体重g、子供はその倍、病気の場合は体重の1.5倍g、手術後は2倍gです。卵は1個7g、食肉は15%の蛋白を含みます。食事だけで摂取困難であれば、プロテイン、医療用アミノ酸を使用します。検査では、アルブミン(ALB)4.2g/dL以下、尿素窒素(UN)14mg/dL以下を蛋白不足としています。なお数値は点滴をすると下がり、脱水で上がるので注意が必要です。

鉄不足

閉経前女性、未成年では蛋白不足と鉄不足が併存しています。女性は月経、分娩で蛋白と鉄を失います。また成長期には蛋白、鉄を大量に必要とするので、相対的鉄蛋白不足になります。鉄はヘモグロビンを作るのに必要なだけではありません。ミトコンドリアにおけるエネルギー産生に必要です。足りないとエネルギー不足の状態になります。エネルギーが足りないと手っ取り早くエネルギーを得るために甘いものを好みます。また鉄は神経伝達物質であるセロトニン、ドーパミンをつくるときの補因子です。足らないとうつ、パニックなどの精神症状をきたします。コラーゲン生成に必要です。足りないと皮膚、粘膜、血管が脆くなります。鉄は他にも様々な重要な働きをしています。不足すると困るのですが、多すぎても不具合が起こります。常に適切な量を摂取する必要があります。検査ではヘモグロビン(Hb)が有名ですが、より感度がいいのがフェリチンです。50ng/mL以下(女)、100ng/mL以下(男)は鉄不足です。またTIBC(総鉄結合能)は鉄需要を示します。300mcg/dL以上は鉄不足です。医療用鉄製剤、もしくは市販の鉄製剤を使用します。

鉄蛋白不足≒気血両虚

鉄不足と蛋白不足は併存することがほとんどです。鉄蛋白不足の症状は、ほぼ気血両虚(気虚+血虚)の症状です。かつて、人間の最大の脅威はウイルス、細菌、真菌、原虫、寄生虫などの感染症でした。これらは漢方的には実邪であり通常は実証の病気となります。では虚証の病気はなんだったのかというと栄養不足です。特に鉄蛋白不足が最大の問題だったと考えます。鉄、蛋白を失う原因は、月経、分娩、外傷などです。出血で失うのは鉄だけではありません。蛋白も同時に失います。月経、分娩をくりかえしているうちに、女性は段々と鉄蛋白不足になっていき、不調を訴えます。感染や中毒ではないのに元気がない人をみたとき、昔の人は何かが足りない虚の状態と考えました。月経や分娩が原因らしいから、血が足りなくなったと考えました。さらに血だけではなく、エネルギーのようなものも足りないと考え、それを気と名付けたのです。すなわち足りなくなったものの陽的(機能的)側面が気であり、陰的(物質的)側面が血なのです。鉄蛋白不足は気も血も両方足りない状態、すなわち気血両虚であり、気血双補の方剤が有効です。図示すると以下のようになります。


月経、分娩では、鉄と蛋白が同時に失われます。また鉄蛋白は、外傷、手術、献血、ビーガン食などでも失われます。また身長が伸びると鉄、蛋白が使われて鉄蛋白不足になります。鉄と蛋白はどちらが欠けてもいけません。たとえば体の蛋白の半分をしめるコラーゲンをつくるには蛋白と鉄とビタミンCが必要です。コラーゲンがうまくできないと、皮膚、粘膜、血管、骨などが弱くなります。鉄はミトコンドリアでのエネルギー(ATP)産生に必要ですが、ミトコンドリアの酵素自体は蛋白でできています。つまりエネルギー産生にも蛋白と鉄が同時に必要です。エネルギーがうまく作れないと。疲れやすくなり、エネルギーをたくさん使う脳の作業ができなくなります。また鉄はセロトニン、ドーパミンなどの神経伝達物質を作る酵素(蛋白質)の補因子で、足らないとうつ、パニックなどの精神症状、様々な痛みなどの神経症状を来します。鉄と蛋白は密接に関係して働くので、鉄不足の症状と蛋白不足の症状は重なっています。鉄蛋白不足の症状を、まとめると下記のようになります。

鉄蛋白不足の症状

症状 鉄又は蛋白不足 蛋白不足 鉄不足
材料不足 手荒れ・脱毛 肌荒れ・肌の張り・厚みがない・しわ・たるみ 
爪割れ・むくみ
白髪・爪の菲薄化・変形
増殖異常   異常角化・フケ・イボ・
ウオノメ・毛穴のつまり
ブツブツ
修復異常 妊娠線・皮膚線条 ケロイド 
不良肉芽
傷が治りにくい 
肌のくすみ・シミ
肝斑・白斑
色の異常     顔色不良・淡白舌
コラーゲン
劣化
皮下出血 胃腸虚弱・易骨折 歯茎出血
エネルギー
不足
    冷え症・しもやけ・易疲労・息切れ 居眠りゴロゴロする・体幹動揺・起床困難・起立性調節障害・授業に集中できない・本が読めない・成績がのびない・甘いもの好き
免疫力低下 易感冒 易感染 ヘルペス
消炎作用
低下
ニキビ 慢性炎症・自己免疫疾患 あせも・アトピー・アレルギー
解毒力低下   化学物質過敏症 
薬剤副作用
 
精神症状   うつ・パニック キレやすい・イライラ・異食症
神経症状     めまい・耳鳴・立ちくらみ・知覚過敏・顎関節痛・神経痛・肩こり・背部痛・筋肉痛・関節痛・頭痛・頭重感・ムズムズ足 喉のつまり・動悸 かゆみ
婦人科症状   月経前症候群・過少月経 月経不順・不妊 生理痛・PMS・過多月経

では鉄蛋白不足以外の栄養不足はどうだったのでしょう。ビタミンではB1不足の脚気、B3不足のペラグラ、C不足の壊血病、A不足の夜盲症、D不足のくる病が有名ですが、名前がついているくらいなので、比較的希な病態だったと思われます。ミネラルはどうでしょう。現代社会で問題になる亜鉛、マグネシウム不足などは今より地味が肥えていたのと自然塩を使っていたのであまりなかったようです。したがって最も頻度の高い栄養不足は鉄蛋白不足≒気血両虚だったと考えます。

糖質過剰
糖質摂取過剰により起こる疾患として、糖尿病、高脂血症、認知症、うつ病、非アルコール性脂肪肝、がん、子宮筋腫・子宮内膜症・生理痛・多嚢胞性卵巣症候群などの婦人科疾患、不妊症、緑内障、腰痛・骨粗鬆症・変形性関節症・五十肩・脊柱管狭窄症・後縦靱帯硬化症・足底筋膜炎・手根管症候群などの運動器の異常、いぼ、脱毛、乾癬、ニキビ、真菌感染、歯周病、難聴などがあがります。食後のねむけ、夕方のいらいら、悪夢、しびれ、背筋腹筋の脂肪化、などで判断できます。食後血糖140mg/dL以上、またはHgA1c6.0%以上を糖質過剰と考えています。

ナイアシン(ビタミンB3)不足
欠乏するとペラグラ(皮膚炎、下痢、認知症になり死亡)、精神疾患、関節炎、高脂血症になります。必要量は個人差が大きいとされます。LD150U/L以下で精神症状、関節炎のある方は、十分量を摂取することが必要です。

ビタミンB群不足
脚気、口内炎・口角炎、舌の溝、悪夢、聴覚過敏、易疲労、集中力欠如、読書ができない、物忘れ、皮膚・舌の赤み、シミ、肌荒れ、湿疹、夜泣きなどの症状を呈します。アルコール多飲、糖質過剰摂取で特に問題になります。通常、腸内細菌から相当量のビタミンBが供給されます。不足している場合、摂取不足以外に腸内細菌叢が乱れている可能性があります。

ビタミンC不足
コラーゲンが作れずに壊血病になります。コラーゲンが作れないと体が脆くなり、皮膚では妊娠線などの皮膚線条ができます。ビタミンCは、からだを活性酸素からまもる抗酸化物質です。また抗ウイルス作用、抗菌作用があり、風邪の予防、治療に使えます。ウイルス感染、細菌感染に2時間毎5gを便がゆるくなるまでのむと治ります。流行中のコロナウイルス感染にも使用されています。抗ヒスタミン作用を有し、アレルギー、炎症に広く使えます。また抗癌作用も有します。安価であり、日頃から十分摂っておきたいビタミンです。必要量の個人差が大きいとされます。

ビタミンE不足
男女ともに不妊になります。ビタミンEは、脂溶性の抗酸化物質で体を保護します。アンチエイジングに極めて重要です。血流を改善します。しもやけ、レイノー症状、狭心症や動脈硬化による動脈狭窄に有効です。

ビタミンA不足
夜盲症(とり目)になります。ビタミンAはDNAから遺伝情報を読み出すときに必須で、皮膚、粘膜の強化に必要です。足りないと鳥肌、乾燥肌、あせも、食物アレルギーになります。発癌を抑制します。摂取量がすくないと発癌します。必要量の個人差が大きいとされます。

ビタミンD不足
感染症、くる病、冬期うつ、ガン、骨粗鬆症、多発性硬化症になります。日光で作られるはずなのですが、ほとんどの人がビタミンD不足です。ビタミンD摂取で花粉症、古傷が治ります。米国でコロナウイルスの死亡率が白人より有色人種で高いのは、有色人種のビタミンD産生能力が低いためといわれています。

亜鉛不足
ほとんどの方が亜鉛不足です。味覚・嗅覚低下、口が苦い、舌の荒れ、舌の違和感、食べ物がしみる、膿み症、爪の白斑・凹凸、爪が伸びない、脱毛、耳切れ、趾のひび割れ、肌荒れ、皮膚が治りにくい、皮膚炎、色素沈着、頭皮湿疹、皮膚粘膜移行部(目、鼻、口、肛門)のトラブル、食欲不振、易感冒、性欲減退、月経不順などの様々な症状を来します。

マグネシウム不足
こむら返り、痙攣、しびれ、興奮、不安、過緊張、高血圧、不整脈、便秘、冷え性、頭痛、生理痛などを来します。カルシウムと逆の働きをし、細胞の興奮を抑えます。精製塩を使用するようになって、マグネシウム不足の人がふえてしまいました。こむら返りは極度のマグネシウム不足によるものです。

漢方の適応疾患

婦人科領域

血の道症、更年期障害、PMS、月経困難症、月経不順、産後の不調
血の道症という病名があります。漢方からきた病名です。「月経、妊娠、出産、産後、更年期などの女性のホルモンの変動による不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のこと」とされています。血の道症に対する漢方方剤は多数存在し、それなりに有効です。私は血の道症の主因は鉄蛋白不足だと考えています。月経、出産をくりかえしているうちに鉄蛋白不足になり体調を崩す。これがすなわち血の道症です。漢方で症状はある程度とれますが、鉄蛋白を補充しないと本質的解決にはなりません。漢方、プロテイン、アミノ酸、鉄製剤を使うことで改善します。出産を望まないのであれば、婦人科で月経を止めると改善します。ただし蛋白不足の方は薬害がでやすいので注意が必要です。

小児科領域

起床困難、起立性調節障害、不登校、うつ、イライラ
成長期には相対的に低栄養状態となり、鉄蛋白不足の症状が出ます。エネルギー不足となり頭と体が働きません。その結果、イライラして反抗的になります。反抗期のイライラ、気分変調の主な原因は相対的栄養不足です。結果として慢性ストレス状態になっていますので副腎疲労になり朝起きられません。また消化管も弱いことが多く、しばしばリーキーガットのために食物アレルギーになっています。皮膚粘膜も弱くなり、アトピー、花粉症などのアレルギー性疾患を併発します。まずは鉄蛋白を補充することが必要ですが、すでに胃腸が弱っている場合にはうまく吸収できません。食事だけでは栄養が不十分なことが多く、漢方、プロテイン、アミノ酸、市販のサプリメントの併用も考慮します。つらい症状があれば随証的に漢方を使用します。

発達障害
遺伝的背景、環境汚染などの影響はもちろんあると思いますが、受診される方はほぼ全員重度の鉄蛋白不足です。栄養療法が有効です。困った症状があれば随証的に漢方治療を行います。身長の伸びともに出現した症状は、鉄蛋白不足が原因です。通常、栄養不良は胎児期からおこっており、母親にも栄養異常を認めます。母親も同時に検査をして治療することをお勧めします。

虚弱体質
消化管は胎生期の最後に完成する臓器です。このため低体重児は消化機能が弱くなりがちです。ひよわ=脾(消化器)弱であり、虚弱体質になりやすい傾向があります。腸管粘膜のバリアも弱く食物アレルギーが出やすくなります。成人でも出生体重3000g以下だったひとは消化機能が弱い可能性があります。胃腸を丈夫にする漢方を使用し、栄養を吸収しやすい形で与える必要があります。

夜驚、夜なき
通常、甘麦大棗湯、抑肝散を用います。母指同服といい、母親も同じ薬を飲むと効果が上がります。

熱性痙攣、けいれん
ふるえ、痙攣を漢方では体の中の風、すなわち内風と捉えます。現代薬を使いたくない場合には、漢方の適応と考えます。

精神科領域

うつ、気分障害、神経症性障害、ストレス関連障害、身体表現性障害、疼痛性障害
遺伝的要因、社会的要因は当然ありますが、栄養異常によるものが注目されています。特に蛋白不足、鉄不足、ビタミンB群不足、亜鉛不足、ビタミンD不足が多いとされています。経験的には鉄蛋白不足が大部分を占めます。倦怠感、元気がない、食欲不振などの症状があれば、鉄蛋白不足を疑います。血液検査を行い栄養療法行います。つらい症状があれば漢方で対処します。

不定愁訴
現代医学で不定愁訴とされる症状は一定の類型を持ち、大昔から存在していました。現代医学的には説明できないというだけで伝統医学的には解釈可能で、症状別に対応する方剤が存在します。検査をすると鉄蛋白不足が高頻度に見られます。栄養療法、気血双補剤、随証的漢方治療で改善します。

不眠症
不眠は漢方的にみると複数の症状のひとつに過ぎないことがほとんどです。随証的治療で改善します。ただし、漢方薬には現代薬のような強い催眠作用はありませんので、現代薬を常習的に使用している場合には完全な置き換えは困難です。

呼吸器科領域

感冒
漢方の独壇場です。寒熱、虚実、表裏の判定が重要です。現代医学には、この概念がないので風邪の治療がうまくいきません。体温に関係なく寒がっているのが寒証、暑がっているのが熱証です。体力がなく汗がでているのが虚証で、逆が実証です。脈が浮いているのが表証で沈んでいるのが裏証です。寒がっていて汗なく脈が浮いていれば、表実証のたとえば麻黄湯などを使います。汗があれば虚証の桂枝湯類となります。脈が沈んでいれば、陰病であり麻黄附子細辛湯、真武湯などとなります。暑がっている熱証の風邪であれば、銀翹散などの冷やす薬を使用します。

喘息
発作予防に柴朴湯、発作時に麻杏甘石湯などといいますが、根本的原因は気道粘膜の脆弱性です。気血両虚≒鉄蛋白不足のため粘膜の細胞間接合が劣化し抗原が侵入しやすくなっています。栄養療法の併用が望まれます。

気管支拡張症、副鼻腔気管支症候群、非定型抗酸菌症
痰が出にくい体質のかたに起こります。気管支の炎症を繰り返すうちに、気管支が拡張してしまい、さらに痰がだせなくなります。出ていかない痰は気管支内に貯留し乾燥して固まります。気管支の炎症も治りません。漢方的には燥熱です。気管支を潤して冷やす薬を用います。また炎症を抑えられない体質は鉄蛋白不足ですので、適切な栄養摂取が必要です。

コロナ肺炎の予防
米国で有色人種のコロナの死亡率が高いのは、白人に比しビタミンDの産生能力が低いためだと言われています。白人の25OHビタミンD濃度が25 ng/mlくらいなのに、アジア人、黒人などの有色人種では15 ng/mlくらいなのだそうです。理想は50ng/ml程度で20ng/ml以下は異常低値とされますが、検査をすると20 ng/ml以下の人がほとんどです。コロナ感染を防ぐ意味でもビタミンDの十分な摂取が望まれます。またビタミンCは感染症全般に有効です。他に亜鉛、マグネシウム、セレンがコロナ予防に有効とされています。詳細は下記のサイトを参照ください。

https://www.iv-therapy.org/wp-content/uploads/2020/08/149a791e9979300afdacf99ec307af57.pdf

またコロナ肺炎の漢方治療については下記のサイトを参照ください。
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/news/gakkai/covid19_kanpou_0319.pdf

消化器科領域

過敏性腸症候群、機能性ディスペプシア、逆流性食道炎
消化管の機能を胃気といいます。胃気の逆流、停滞、流れすぎと捉えます。気の流れを調節する気剤を中心に用います。背景には中枢神経の劣化が存在します。また、消化管自体も劣化しています。薬剤だけでなく神経、消化管の劣化した蛋白を更新するために栄養補給が必要です。

その他の内科領域

しもやけ、レイノー病、冷え症息
手足の血流を増やす漢方を用います。必要に応じ、ビタミンE、ナイアシンなどの血流を増やすサプリを併用することがあります。熱産生が不十分な人が多く、蛋白、鉄、ビタミンB群などでミトコンドリア機能を改善すると治ります。

自己免疫疾患、膠原病、関節リウマチ
変性した体蛋白を免疫系が攻撃している状態です。体蛋白の更新のために十分な栄養を補給することが必要です。症状緩和のために用いられる現代薬では、副作用が問題となります。漢方であれば副作用は軽度です。炎症を抑えるために市販の水素サプリを使用することがあります。

整形外科領域

神経痛、腰痛、五十肩、関節
通常の鎮痛薬は急性期で熱を持った状態にはいいのですが、血流が落ちてきて寒証になると効きが悪くなります。附子などの暖める痛み止めが必要です。通常、瘀血と水滞を伴っているので、それらをとる薬も必要です。運動器の障害がおきやすい人は、通常低栄養です。適切な栄養摂取が必要です。

むちうち後遺症
治打撲一方合葛根加朮附湯が標準治療とされています。閉経前女性に多く、鉄蛋白不足を伴っています。外傷により損傷した結合織が修復されない状態です。コラーゲンの劣化と更新不足が原因です。適切な栄養療法の併用が必要です。

皮膚科領域

ヘルペス、イボなどの慢性ウイルス感染
低栄養による免疫力低下のある方がほとんどです。適切な栄養療法が必要です。病変自体は湿熱が多く清熱利湿剤を主に使用します。ウイルスを押さえるためにビタミンC、ヨクイニンを用います。

アレルギー性皮膚炎、アトピー、手湿疹、慢性じんま疹、汗疱
皮膚の炎症そのものを押さえるのは、漢方でも現代薬でも構いません。問題はそのあとで、直ちに皮膚の再生を促す必要があります。すなわち補気補血が必要です。補剤を使うのですが、それだけでは不十分で材料となる栄養を補充することが必要です。

帯状疱疹後神経痛
桂姜棗草黄辛附湯(桂枝湯+麻黄附子細辛湯)が有効とされますが、長期に続き難治化した例では附子の増量、他の方剤への変更が必要です。ちなみに帯状疱疹の急性期は漢方的には湿熱です。抗ウイルス薬に清熱利水剤、ビタミンCを併用することで神経障害を防げます。そもそも帯状疱疹の発症自体が体力低下、気血両虚を意味します。適切な栄養摂取と気血双補剤の使用が望まれます。

耳鼻科領域

慢性上咽頭炎
インフルエンザの検査では鼻から棒をいれて喉の奥を調べます。その際、棒の先が当たる部分が上咽頭です。風邪のウイルスが最初に付着する部位です。この部分が慢性炎症を起こすことがあります。咽頭違和感、後鼻漏、咳喘息、痰、首こり、肩こり、頭痛、耳鳴り、舌痛、歯の知覚過敏、歯痛、顎関節痛などの局所の症状を起こします。また上咽頭は頭蓋の底にあたり、神経、動脈、静脈の出入り口になっているため、全身倦怠感、めまい、睡眠障害、起立性調節障害、記憶力・集中力の低下、過敏性腸症候群、機能性胃腸症、むずむず足、慢性疲労症候群、線維筋痛症などの様々な症状を引き起こします。また炎症が長引くと慢性腎炎や掌蹠膿疱症になるとされます。漢方治療を希望される方に結構な率で存在します。耳鼻科で処置をすると治ります。検査をすると、ほぼ全員低栄養です。治ってもしばしば再発します。詳細は下記のサイトを参照ください。

https://jfir.jp/chronic-epipharyngitis/

花粉症、アレルギー性鼻炎
ビタミンDが特効薬とされます。漢方的には寒熱、燥湿をみて方剤を決めます。寒湿であれば小青竜湯でいいのですが、現代薬の使用により燥熱の状態になっていることもあります。根本的原因は粘膜・皮膚の脆弱性です。気血両虚≒鉄蛋白不足のため粘膜の細胞間接合が劣化して抗原が侵入するのです。栄養療法の併用が望まれます。

メニエール病、めまい症
内耳の水滞です。アクアポリンの劣化により内耳の水の流れが悪くなるために起こります。五苓散などの利水剤を使用します。アクアポリンの更新のために適切な栄養摂取が望まれます。

泌尿器科領域

夜間頻尿
いわゆる腎虚の症状です。八味丸などの補腎剤が有効ですが、同時に様々な漢方的異常が存在することが多く、それらを治療すると頻尿も同時に改善することが多々あります。

慢性膀胱炎、間質性膀胱炎防
漢方的には下焦(下半身)の湿熱として治療されることが多いのですが、必ずしもうまくいきません。慢性感染は低栄養です。間質性膀胱炎は、血管もふくめて膀胱が脆くなっています。低栄養のなれの果てです。

歯科口腔外科領域

顎関節症、歯ぎしり、かみしめ
なにかの弾みで歯ぎしり、かみしめが始まると、その結果、頭部が鬱血して頭痛、肩こり、めまいなどが起こります。それらがつらいので、また歯ぎしり、かみしめが起こります。あとは悪循環です。かみしめる力で顎関節、歯が破壊されます。硬口蓋、口腔底に骨性隆起が発生します。結果か原因かはわかりませんが、しばしば慢性上咽頭炎を併発しています。悪循環を断つことが必要です。

舌痛症
立効散という歯痛の漢方が効きます。低栄養のため中枢神経の働きに異常がおき、痛みを感じやすくなった状態です。適切な栄養摂取が必要です。

薬剤副作用の治療

薬剤による痛み、しびれ
生活習慣病などで長期に薬剤を飲んでいる方に見られます。薬剤性の横紋筋融解症や末梢神経障害です。基本的に漢方は無効です。検査結果を見ながら、薬剤を一つずつ入れ替わりに休んで症状の改善があるかどうかを調べていきます。脂質異常症に使われるスタチン類、降圧薬に多くみられます。薬害が出やすい方には、低蛋白による解毒酵素の活性低下が存在します。適切な栄養指導が望まれます。また胃酸抑制剤を長期に使用すると鉄不足になり、上述の鉄不足の症状がでます。様々な部位の痛みだけを訴えることがあります。血液検査をしないと分からないので要注意です。

抗癌剤の副作用対策
下痢、口内炎、手足症候群のような皮膚粘膜の障害が主に問題になります。漢方的には湿熱です。清熱利水剤を用います。気血両虚≒鉄蛋白不足の患者で起こりやすい傾向があります。治療前からの栄養補給、気血双補剤の使用が望まれます。

予約、問い合わせ

初診再診とも予約制です。電話で予約をしてください。受診に関するお問い合わせ・ご質問がございましたら、漢方外来受付に電話でお願いいたします。メールでの問い合わせも可能です。

電話
静岡市立清水病院 漢方外来受付
054-336-1111  内線 2050
メール
静岡市立清水病院漢方外来 尾崎正時
ozaki@shimizuhospital.com

■漢方理論について

 

漢方理論には空理空論が多く、こじつけも多々あります。しかし漢方薬物、漢方方剤の運用のために作られた取り決め、約束事ですので知らないと応用が利きません。現代医学的発想で漢方を使ってもそれなりに効きますが、やはり長年の検証に耐えて残っている漢方理論に分があります。以下、気血水、病質、病位について解説します。


1.気血水

主には日本漢方で使われる理論です。単純で理解しやいわりに、汎用性があり多用される用語です。詳細については上述の説明を参照ください。


2.病質(病気の性質)

病気の性質の分類です。病性、病勢、六淫、四傷、病向、臓証の6つの観点から病気を分類します。

 

①病性 寒熱
熱証 
緊張的・興奮的・充血的・炎症的・高血圧的・機能亢進的状態

顔面紅潮、あつがり、暖房嫌い、口渇、多飲、冷飲食好き、生理が早い、経血鮮紅、尿が濃い、硬便、頻脈、黄色痰、膿性帯下などの症状。

寒証 弛緩的・萎縮的・貧血的・無力的・低血圧的・機能衰退的状態

顔面蒼白、冷房嫌い、温飲食好き、生理が遅れる、経血暗黒、尿が薄い、尿意頻回、軟便下痢、徐脈、悪寒、冷え症、薄い痰、水様帯下などの症状。

 

②病勢 虚実
実証 出ない悩みをもつ体質。

実とは過剰。病邪の体外排瀉障害、充血、汗が出にくい、経前痛、過小月経、尿意欠乏、尿量少ない、硬便、便意欠乏、便量少ない、便秘などの症状。

虚証 出過ぎる悩みをもつ体質。

虚とは不足。体力不足、貧血、顔面蒼白、元気ない、汗が多い、経時痛、過多月経、尿意頻回、尿量多い、軟便、便意頻数、便量多い、下痢などの症状。

 

③六淫 病邪
風邪 
痛み、かゆみ、こり、マヒ、無感覚、しびれ、ひきつれ、こわばり、けいれん、震え、てんかん、アレルギーなどの症状。

冷邪 体温不足、低温侵襲、冷え症、冷感、悪感、低血圧、消化不良、下痢、帯下、頻尿などの症状。

湿邪 体内水分過剰、水分の部分的貯留、浮腫、舌縁の歯形、薄い痰、嘔吐、水様帯下、頻尿、尿量減少、下痢、黄疸、胃内停水、腸鳴などの症状。

燥邪 全身的絶対的水分不足、皮膚枯燥、煩褐、舌のひび割れ、乾咳、多汗、寝汗、無月経、便秘などの症状。

火邪 病的興奮状態、炎症、不眠、腫物などの症状。

暑邪 体熱放散不全による鬱熱状態、日射病、熱中症などの症状。

 

④四傷 気血痰鬱
上述の気血水と重複する概念。
気傷 機能障害のみ(血傷、痰傷、鬱傷の症状がない場合)。気虚、気滞(気欝+気逆)に相当。

血傷 血液関連症状:出血、充血、鬱血、貧血、瘀血。血虚、瘀血に相当。

痰傷 呼吸器、消化器の異常水分、浮腫、痰が多い、胃内停水、腸鳴、嘔吐、下痢。水滞に相当。

欝傷 消化器、循環器の異常、消化不良、痛み、肢痛、身体痛、リンパ腺の腫れ、血栓。気滞(気欝+気逆)に相当。

 

⑤病向 升降散収
升証 上がるべきでないものが上がり、下るべきものが下らない為の症状。

上熱下寒、怒りっぽい、イライラ、のぼせ、不眠、体力なしの疲れ知らず、体上部の出血(鼻血、喀血、吐血)、目充血、咳、喘息、嘔吐、耳鳴、便秘などの症状。

降証 下るべきでないものが下り、上がるべきものが上がらない為の症状

上寒下熱、低血圧、いつもだるい、いつも横になりたい、体力ありの元気なし、嗜眠、動悸、帯下が多い、習慣性流産、体下部の出血、下痢、月経過多、多尿などの症状。

散証 出るべきでないものが出たり、出るべきものが出過ぎる為の症状

気が散って集中できない、不眠、体が冷える、多汗、寝汗、不正出血、痰が多い、嘔吐、月経過多、帯下が多い、尿量が多い、下痢などの症状。

収証 出るべきものが出ない状態。

体温上昇、発熱、発疹、乾咳、無汗、無月経、尿量減少、便秘などの症状。

 

⑥臓象 五行

薬物はその味によって酸味薬、苦味薬、甘味薬、辛味薬、鹹味(+淡味)薬の5種類に分類できます。臓象とはこの5種類の薬物に反応する病状を、肝木病、心火病、脾土病、肺金病、腎水病の五つに分類したものです。

 

肝木病

木性薬に反応する症状。木性薬とは酸味薬の最大公約数的薬効をもつ薬物。この薬効をもつ薬物は酸味でなくとも木性薬とし、この薬効をもたない薬物は酸味であっても木性薬ではない。実証には木性、火性、金性の瀉薬、虚証には木性、水性、土性の補薬を使用。

情緒の変動、自律神経失調、栄養障害、循環障害、関節の異常、目の障害と関係。
三番目に治療すべき症状。

 

肝木病の代表的病態

[虚証]
肝血虚 
皮膚枯燥、爪割れ、脱毛、眼精疲労、目のかすみ、ドライアイ、羞明、眠りが浅い、しびれ感、筋痙攣、月経遅延、経血過少。中枢神経以外の血虚の症状。虚証の血傷などに相当。

肝陰虚 肝血虚の症状に、ほてり、のぼせ、熱感、寝汗などの虚熱の症状が加わる。虚熱証の燥邪、火邪、血傷などに相当。

肝陽上亢 肝血虚、肝陰虚に頭痛、顔面紅潮、イライラ、易怒、耳鳴など頭部の症状を伴う。虚熱証の燥邪、火邪、血証、升証などに相当。

肝風内動 ふるえ、痙攣、熱性痙攣、ひきつけ、ふらつきなどを内風すなわち体内の風と捉える。風邪に相当。

[実証]
肝気鬱結 
血虚がなく、情緒不安定、ヒステリー、ため息、胸脇苦満、便秘、経前乳房脹痛。実熱証の気傷、火邪などに相当。

肝火上炎 血虚がなく、イライラ、易怒、不眠、頭痛、めまい、耳鳴、難聴、顔面紅潮。実熱証の火邪、升証などに相当。

肝胆湿熱 肝炎、胆嚢炎など。実熱証の湿邪、痰傷などに相当。

肝気横逆 肝木病にともない、ストレス性胃炎などの胃腸症状を来したもの。

 

心火病
火性薬に反応する症状。火性製薬とは苦味薬の最大公約数的薬効をもつ薬物。この薬効をもつ薬物は苦味でなくとも火性薬とし、この薬効をもたない薬物は苦味であっても火性薬ではない。実証には火性、土性、水性の瀉薬、虚証には火性、木性、金性の補薬を使用。

循環器疾患、意識障害、精神障害、血液循環、舌症状、味覚異常、血管・血液の異常と関係。
四番目に治療すべき症状。

 

心火病の代表的病態
[虚証]
心気虚 
動悸、息切れ、胸苦しい、不安感、めまい感、多汗、顔色不良、動くと症状悪化、不整脈。虚証の気傷などに相当。

心陽虚 心気虚の症状に、四肢の冷え、寒気、チアノーゼ、不整脈などの寒証が加わる。虚寒証の気傷、冷邪などに相当。

心血虚 寝つきが悪い、断眠、多夢、驚きやすい、不安感、健忘、めまい、頭のふらつき、動悸。虚証の血傷、散証などに相当。

心陰虚 心血虚の症状に、のぼせ、焦燥、手足ほてり、口喝、寝汗などの虚熱の症状が加わる。虚熱証の火邪、燥邪、血傷、散証などに相当。

[実証]
心火旺 
不眠、多夢、顔面紅潮、焦燥、口渇が強い。口内炎、舌びらん、狂躁、精神異常。心陰虚の症状が強いもの。実熱証の気傷、火邪、燥邪、升証などに相当。

心腎不交 心火旺の症状に腎陰虚の症状が加わったもの。

 

脾土病

土性薬に反応する症状。土性薬とは甘味薬の最大公約数的薬効をもつ薬物。この薬効をもつ薬物は甘味でなくとも土性薬とし、この薬効をもたない薬物は甘味であっても土性薬ではない。実証には土性、金性、木性の瀉薬、虚証には土性、火性、水性の補薬を使用。

栄養調節、消化吸収、口唇症状、口腔異常、筋肉症状、唾液・涎と関係。
最優先で治療すべき症状。

 

脾土病の代表的病態
[虚証]
脾気虚 
食欲不振、小食、味がしない、腹部膨満、便秘、泥状便、息切れ、元気がない、虚証の気傷などに相当。

脾陽虚 脾気虚の症状に、不消化下痢、よだれ、腹が冷えて痛む、寒がり、四肢の冷えなど、寒証を伴う。虚寒証の気傷、冷邪などに相当。

中気下陥 脾気虚または脾陽虚の症状に手足のだるさ、立ちくらみ、胃下垂、遊走腎、脱肛、子宮脱などの内臓下垂を伴う。虚証の降証に相当。

脾不統血 脾虚の症状に鼻出血、皮下出血、市販、血尿、過多月経、不正出血などの出血傾向を伴う。虚証の血傷、散証などに相当。

[実証]
寒湿困脾 
食欲不振、悪心、上腹部膨満感、口粘、体がだるくて重い、頭が締め付けられて重い、腹痛、水様便。実寒証の冷邪、湿邪などに相当。

胃熱 上腹部灼熱感、食べると悪化、口臭、口苦、胸やけ、悪心、嘔吐、呑酸、口渇、多飲、飢餓感、便秘。 実熱証の火邪などに相当。

胃気上逆 悪心、嘔吐、おくび、吃逆。気傷、升証、冷邪、火邪、暑邪、湿邪などに相当。

 

肺金病
金性薬に反応する症状。金性薬とは辛味薬の最大公約数的薬効をもつ薬物。この薬効をもつ薬物は辛味でなくとも金性薬とし、この薬効をもたない薬物は辛味であっても金性薬ではない。実証には金性、水性、火性の瀉薬、虚証には金性、土性、木性の補薬を使用。

呼吸機能、大便排泄機能、鼻症状、嗅覚異常、皮膚症状、発汗異常と関係。
二番目に治療すべき症状。

 

肺金病の代表的病態
[虚証]
肺気虚 
多汗、寒気、易感冒、咳嗽、息切れ、声に力がない、顔面蒼白、薄い痰。虚寒証の気傷、冷邪、湿邪、散証などに相当。

肺陰虚 乾性咳嗽、粘痰、嗄声、喉の乾燥、口渇、ねあせ、羸痩。虚熱証の気傷、燥邪、散証などに相当。

[実証]
風寒束表 
悪寒、頭痛、くしゃみ、鼻水、身体痛。寒証の気傷、風邪などに相当。

風熱犯肺 熱感、咽痛、黄色鼻汁、頭痛。熱証の気傷、風邪などに相当。

燥邪犯肺 感性咳嗽、粘痰、鼻口乾燥、皮膚乾燥、無汗、鼻閉。実証の燥邪などに相当。

 

腎水病
水性薬に反応する症状。水性薬とは鹹味薬の最大公約数的薬効をもつ薬物。この薬効をもつ薬物は鹹味でなくとも水性薬とし、この薬効をもたない薬物は鹹味であっても水性薬ではない。実証には水性、木性、土性の瀉薬、虚証には水性、金性、火性の補薬を使用。
生殖機能、感染早期の防衛機能、耳症状、聴覚異常、骨格症状、泌尿器異常と関係。
最後に治療すべき症状。

 

腎水病の代表的病態
[虚証]
腎精不足 
眩暈、耳鳴、脱毛、歯牙動揺、知能減退、健忘、動作緩慢、腰膝のだるさ、性機能減退、小児の発達不良、女性の無月経、不妊。虚証の気傷、降証、散証などに相当。

腎気不固 腎精不足の症状に、尿失禁、夜尿、尿の余瀝、無性、早漏。虚証の降証、散証などに相当。

腎陽虚 腎精不足の症状に、元気がない、いつも眠い、寒がる、四肢冷感、多尿、頻尿などの寒証。虚寒証の気傷、冷邪、湿邪、痰傷、降証、散証などに相当。

腎陰虚 腎精不足の症状に、熱感、のぼせ、手掌足蹠熱感、口渇、寝汗、尿が濃いなどの虚熱の症状。虚熱の気傷、火邪、燥邪、降証、散証などに相当。

[実証]
膀胱湿熱 
急性膀胱炎。実熱の火邪、湿邪に相当。

 

病質、臓証、五行色体表
                          二宮文乃、松永均、張明澄  尾崎改

表現の重複と病態分類
病性、病勢、六邪、四傷、病向、病質・臓象は病態を異なった視点で分類しているのですが、重複した分類、表現があります。例えば寒証と冷邪と腎水病は似ていますし、陽虚とも近い概念です。単純に掛け合わせると2×2×6×4×4×5で1920通りの病態があることになりますが、実臨床では寒熱虚実×(六邪+升降散収)の40分類で十分とされます。


3.病位(病気の進行度)

病気の進行の程度を表します。

 

病位分類の変遷

最初は表裏の分類だけでした。その後手足のツボの分類である十二正経を用いて十二分類されるようになりました。傷寒論では、三陰三陽の六経になり、温病論では三焦・衛気営血の六分類になりました。清末から中華民国時代に活躍した名医、張錫純は十二経絡を用いていたといわれます。昭和から平成にかけ活動した漢方研究家、張明澄はこの十二経絡を簡略化し八分類にしたものを提唱しました。当科では、この八分類を用いています。

http://meichyo.org/sani.html

 

                          二宮文乃、松永均、張明澄  尾崎改

十二病位(経絡)
以下、十二経絡について概説します。

膀胱経 表証 急性病で発熱、頭痛、呼吸器症状、皮膚症状のほかに何らかの他の症状がる段階。

肺経 表証 急性病で発熱、頭痛、呼吸器症状、皮膚症状のほかに何も症状がない段階。

心経 裏証 不眠・のぼせ・イライラなどの精神的、心理的、情緒的症状だけがあって、他の身体症状が無い段階。

心包経 裏証 心包とは解剖学的には胃。精神的、心理的、情緒的原因によって、ムカムカ、吐気、悪心、食欲不振など軽い胃(心窩部)症状がともなう段階。

胆経 裏証 精神的、心理的、情緒的症状の段階。胃(心窩部)以外の症状を伴う段階。

胃経 裏証 胃腸症状が主になっている段階。

小腸経 裏証 肩こりや血液・尿などの異常が主症状になっている段階。

三焦経 裏証 化膿や炎症が主症状となっている段階。

大腸経 裏証 顔面症状または排泄症状が主症状になっている段階。

脾経 裏証 栄養異常が主症状になっている段階。

腎経 裏証 生命力が低下している段階。

肝経 裏証 血液の異常(鬱血、貧血、出血など)、起床困難または身体の構造的異常がある段階。

 

病位の求め方
急性発症で頭痛、悪寒、関節痛、腰背部痛、皮膚症状、浮腫などがある
 全身症状  膀胱経
 呼吸器症状、皮膚症状のみ 肺経
2週間以上続く症状で明らかな器質的疾患がなく、外見正常
 心身症的 胆経
 消化器症状中心 胃経
 上記以外 腸経
2週間以上続く症状で明らかな器質的疾患がなく、消耗した外見
 栄養異常が主体 脾経  
 上記以外 腎経
2週間以上続く症状で器質的疾患が存在 肝経

 

方剤帰経の求め方

上記は市販の書籍をもとに当帰芍薬散の構成生薬を表にしたものです。単位とはエキス製剤の標準使用量に対する比です。6種の生薬がほぼ均等に入っています。作用より血を増やし流れをよくし、利水することがわかります。気味より温性のものが多く、全体として温める性質を持つことが分かります。全体として補の性質をもち虚証に用いられます。潤燥は燥優位で乾かす方剤です。升降散収に偏りはありません。すなわち暖めて、補って利水する方剤です。五行は肝木、心火、脾土の方剤です。帰経とはどの病位(経絡)に使用するかを示します。脾経、肝経のもの、すなわち六経でいうと太陰病、厥陰病の薬が多く、病が進行し体力が弱った状態に使用する方剤であることがわかります。また茯苓、白朮は土性の補薬なので木性の補薬である当帰、芍薬を助けます。つまり当帰芍薬散の病質は虚寒証で湿邪であり、病位は肝経です。

 

病質(病気の種類)、病位(病気の進行度)による方剤の使い分け

上述のように各方剤の性質を求めると、方剤がどの病質のどの病位に適応するかが分かります。縦軸に病質、横軸に病位をとり、エキス製剤をあてはめたものが下図です。当帰芍薬散は虚寒証湿邪、陰病なので、虚寒の湿邪の列を見ると肝経に当帰芍薬散が載っています。病質と病位がわかれば早見表で使用方剤を決めることができます。病位と病質をひとつに決めかねる場合には、寒熱虚実と表裏と陰陽を決めて、そこに含まれる方剤を参考に使用する方剤を決めるという方法をとります。

 

二宮文乃、松永均、張明澄  尾崎改

複数の病質・病位
古来、病質病位が複数カ所にまたがることが観察されていて、このような状態を合病、併病、兼病などと呼びます。病質病位が一点に決まり、一つの方剤で対応できればすっきりするのですが、実臨床では異なった病質病位の複数の方剤を併用することが多々あります。たとえば虚証で陰病のひとが、体のつらさのために肝気鬱結をきたして胆経の実証の症状を来している場合を考えれば、ひとつの方剤では追いつかないことが容易に理解できると思います。

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