診療科・各部門について

放射線治療科

スタッフと専門領域

医師名 出身大学 医師免許取得年 専門領域・資格等
科長
尾崎正時
千葉大学 昭和58年 ・医学博士
・日本医学放射線学会認定 放射線治療専門医
・日本医学放射線学会認定 日本医学放射線学会研修指導者
・日本東洋医学会認定 漢方専門医
・日本東洋医学会認定 日本東洋医学会指導医
・第一種放射線取扱主任者
・放射線治療・定位放射線治療
非常勤医師
大西 洋
山梨大学
医学部/放射線科教授
  ・日本医学放射線学会認定 放射線治療専門医
・放射線治療・定位放射線治療

診療案内・外来表

診療放射線技師 2名(4名ローテーション)

取得資格内容

放射線治療専門放射線技師 3名
放射線治療品質管理士 2名
医学物理士 2名
第一種放射線取扱主任者 2名

看護師 1~2名(内、がん放射線療法看護認定看護師 1名)
事務 1~2名

はじめに

放射線治療は手術、化学療法(抗癌剤による治療)とならぶ癌に対する治療の三本柱のひとつです。手術より患者の身体的負担が少なく、しかも機能・形態の温存が可能です。また化学療法と同時に行うことで、より高い治療効果を得ることができます。

特徴・特色

当院は2019年10月よりElekta社製リニアックVersaHDでの治療を開始しました。Elekta社の最上位機種(2019年現在)であり、用途の広い精度の高い治療システムです。今までにない高出力で照射でき、従来の2倍のスピードで放射線の形を変化させることができます。SRTなどの先進治療を高いレベルで実現出来ます。
カタリストという体表面トラッキングシステムで、被曝なしでポジショニング位置補正や照射中のモニタリングおよび呼吸の管理を行うことが出来ます。
乳癌術後照射は、心臓の被曝を減らすためDIBH(深吸気息止め)で行っています。
胸腹部など呼吸により動く部位では、息止め法を用いて治療をしています。
前立腺癌の治療では、直腸の被曝を低減するハイドロゲルスペーサを用いています。
放射線障害予防のため多分割照射を積極的に行っています。
当科医師は漢方専門医でもあり、放射線治療の副作用の予防、治療、治療後の体調不良等に漢方治療を行っています。

放射線治療装置 Versa HD(Elekta社)

定位放射線治療(SRT stereothactic radiotherapy)について

定位放射線治療とは、定位すなわち「高精度に位置を定めた」放射線治療で、ピンポイント照射ともいわれる治療法です。現在は、脳腫瘍、早期肺癌、肝腫瘍に主に行なわれています。なかでも早期肺癌に対する定位照射は特に有効です。径5cm以下でリンパ節転移のない早期肺癌に対して行われます。治療成績は手術と同程度です。体の負担がほとんどないので、高齢者や手術困難な方、手術を拒否される方に対して行われています。肺癌ですと、3,4回の息止め練習の後に、一回30分程度の治療を4回行います。治療は通院で行えます。治療期間は通常2週間前後です。定位放射線治療は、山梨大学医学部放射線科の大西洋教授の指導のもとに行っています。

画像誘導放射線治療(IGRT image guided radiotherapy)について

画像誘導放射線治療とはX線透視やCTで、病変や臓器のずれを補正したのちに照射する治療法です。従来は皮膚に書いたマークで、照射する位置を決めていました。しかし皮膚に書いたマークは、ちょっとした手足の位置の違いや皮膚のたるみで動いてしまい、照射野のずれが起こります。また皮膚のマークが動かなくても、心拍・呼吸、嚥下・腸管蠕動、腸管・膀胱の内容量の変化などで病変の位置や臓器の位置関係は照射毎に異なります。照射前にリニアック備え付けの照射位置確認システムで照合撮影を行い、ずれを補正し精度の高い放射線治療を行っています。

 

 

赤線(計画した位置)の中にターゲットが入るように位置を正確に補正する

 

 

 

 

呼吸性移動対策について

胸腹部の臓器は、呼吸により常に動いています。これを呼吸性移動といいます。胸腹部の病変に照射するときには、呼吸性移動が問題となります。色々な対策がありますが、当院では息止め法を用いています。患者に息を止めてもらい、息が止まっているときにだけ照射する方法です。当院ではアブチェスとカタリストという呼吸監視装置を用いてより精度の高い呼吸管理を行っています。治療時間は若干長くなりますが、高精度で障害の少ない治療が可能となります。


呼吸による肺や腫瘍の位置の違い

APEX社 Abches ETと呼吸の波形

Catalyst(カタリスト)

Catalystシステムは、体表面画像誘導放射線治療(SIGRT)に用います。治療時の位置決め、治療中のモニタリング、呼吸波形取得という3機能があり、被曝なしで広範囲を確認できます。体のどの部位にも使用でき、毎回使用することで高い再現性と安全性を確保します。

放射線治療を実施する際には、照射前に 正しい位置に患者がセットアップされてい るか確認する必要があります。Catalystは 正しい位置との誤差を、体表面の位置を観察 する事により、被曝なしで簡単に補正すること ができます。
Catalystには、照射中に患者さんが動いていないかモニタリングする機能があります。この 機能は体表面のズレだけでなく、体内の照射し たい部位(アイソセンター)の動きをトラッキングし ます。動いてしまった場合にはリニアックと連携 しビームを停止するため、常に正しい位置での 照射が可能となります。
Catalystには、体表の動きを呼吸波形として 取得する機能があり、この機能を用いると、自由 呼吸下での一定のタイミングのみでの照射、また は息止め照射が可能となり、動きのあるターゲット に正確に照射できます。

乳房術後照射DIBH(深吸気息止め)

左が深吸気息止め治療の線量分布で右側が自由呼吸下治療の線量分布です。 深く息を吸うことで肺が大きく膨らみ乳房と心臓の距離が開きます。これを利用し、心臓の被曝を少なくすることで、心臓の血管などを守ることができます。

ハイドロゲル直腸周囲スペーサ留置

前立腺癌に対する放射線治療を行う際の主な有害事象(副作用)の一つに、直腸への影響(直腸有害事象)があります。機器や技術の進歩で、前立腺に放射線を集中させることは可能になりましたが、直腸有害事象は一定頻度で発生します。その多くは、程度の軽い直腸出血や肛門痛といったものです。しかし、頻度は低いものの、直腸に潰瘍を形成するような重篤な副作用がおこることがあります。
放射線の影響は、距離が離れれば低減します。前立腺と直腸は隣接しているため、前立腺癌の放射線治療では、直腸はどうしても放射線の影響を受けます。当院では、前立腺と直腸の間にゲル状の物質を注入し、前立腺と直腸の間を1~1.5cm程度離すことで直腸被曝を低減させ、より安全に前立腺癌の治療を行っています。

多分割照射について

通常の照射は一日一回週5回ですが、これを一日二回週10回の多分割照射にすると放射線障害が軽減できます。障害が少ないので、より多く照射することができ治療効果も上がります。当院では多分割照射を積極的に用いています。

放射線治療と栄養、漢方

放射線の作用と防御

X線が細胞に当たると、一部では一次電子が直接DNAを切断します。これを直接作用といいます。通常のX線では直接作用は少なく、フリーラジカル・活性酸素を介してDNAを切断する間接作用が多いとされます。発生したフリーラジカル・活性酸素はSOD、カタラーゼ、ペルオキシダーゼなどの酵素により処理されますが、悪玉活性酸素といわれるヒドロキシラジカルは酵素では処理できません。ヒドロキシラジカルの処理にはビタミンC、E、カロチノイド、ポリフェノールなどの抗酸化物質が必要です。抗酸化物質が足りないとDNA損傷に至ります。直接作用、間接作用により切断されたDNAはDNA修復酵素により速やかに修復されますが、修復されないと機能障害、細胞死に至ります。放射線はDNA以外にも細胞構造を破壊し障害を起こします。細胞構造の損傷を防ぐのも抗酸化酵素、抗酸化物質、修復酵素であり、被曝した細胞の生存には十分な酵素と抗酸化物質が必要となります。
正常細胞は抗酸化酵素、抗酸化物質、修復酵素などにより守られていますが、分裂を繰り返す癌細胞には、これらは少ないため、癌細胞は正常細胞より放射線に弱いのです。放射線治療はこの差を利用して、正常細胞を損なわずに癌細胞だけを死滅させます。正常細胞の抗酸化力が低いと、この差が少なくなり放射線障害が増えます。

放射線障害と栄養

抗酸化酵素、修復酵素などは酵素であり蛋白質なので、蛋白不足の状態では活性は低下します。またアルブミン、フェリチン、メタロチオネインなどの金属結合蛋白はフリーラジカル・活性酸素の発生を抑制しますが、やはり蛋白不足で減少します。さらにビタミンC、E、カロチノイド、ポリフェノールなど食品から得る抗酸化物質、CoQ10、グルタチオン、αリポ酸など体内で合成される抗酸化物質も栄養状態が悪いと不足します。栄養状態に問題があると、放射線傷害が出やすくなるのです。高脂血症に用いられるスタチン類はCoQ10を下げるので、照射中は休薬とします。
放射線の防御において、最も重要な栄養素は蛋白です。蛋白不足状態では抗酸化酵素、修復酵素の活性は低下し金属結合蛋白も減少します。またビタミンその他の抗酸化物質を有効に利用できません。蛋白不足は、肌荒れ、肌の張り・厚みのなさ、肌のくすみ、シミ、皮下出血、脱毛、傷が治りにくい、爪割れ、むくみ、慢性炎症、易感染、易感冒、自己免疫疾患、月経不順、不妊、胃腸虚弱、易骨折などの症状を呈します。検査では、アルブミン(ALB)4.2g/dL以下、尿素窒素(UN)14mg/dL以下(腎機能正常の場合)で蛋白不足とされます。また全般的酵素活性の低下も目安になります。なお検査値は輸液で下がり、脱水で上がるので注意が必要です。
蛋白の次に重要なものは鉄です。癌細胞のDNA損傷を固定するには酸素が必要です。鉄不足による貧血があると放射線治療の効果が低下します(酸素効果)。また抗酸化酵素のカタラーゼはヘム蛋白であり鉄を含みます。鉄不足状態での照射は望ましくありません。鉄不足は、易疲労、起床困難、息切れ、めまい、立ちくらみ、冷え性、イライラ、ムズムズ足、喉のつまり、爪の菲薄化・変形、皮下出血、顔色不良、生理前不調、生理痛、異食症などの症状を呈します。検査では血算が重要ですが、より感度がいいのがフェリチンです。100ng/mL以下(閉経前女性)、200ng/mL以下(男性)は鉄不足とされます。またTIBCで鉄需要を判断します。300ng/mL以上で鉄不足と判定されます。
鉄不足、蛋白不足は並行しておこることが一般的です。女性は月経、分娩で鉄蛋白を失うので、蛋白不足、鉄不足が同時に起こります。男性でも動物性食品の摂取が少ないと、鉄と蛋白が同時に不足します。食品から得る抗酸化物質、体内で合成される抗酸化物質、微量ミネラルにも注意する必要がありますが、本稿では割愛します。

放射線傷害の予防

放射線障害を起こす患者では、治療前から高頻度に気血両虚を認めます。これを治療しながら放射線治療を行うと、合併症の発症遅延、軽症化が可能です。虚とは少ないという意味で、気血両虚とは人体の材料(=血)もそれを使うエネルギー・機能(=気)も両方少ない状態です。気虚は倦怠感、動悸、息切れ、易感冒、多汗自汗、冷え、食欲不振、下痢、胃もたれ、内臓下垂、手汗、立ちくらみ、鼻血、皮下出血などの症状を呈します。血虚は、多夢、健忘、不安、痙攣、脱毛、爪割れ、肌荒れ、眼精疲労、知覚異常、淡白舌などの症状を呈します。気血両虚≒鉄蛋白不足と考えていいと思います。古代人は鉄も蛋白も知らなかったので、足りないものの陽的側面(機能、エネルギーなど)を気もしくは陽、陰的側面(物質的要素)を血もしくは陰と考えたのでしょう。
治療前に血液検査等で蛋白不足、鉄不足などの栄養の異常を把握しておくことが望まれます。蛋白不足の患者に対しては、高タンパク食を指導し、気血双補剤、市販のプロテイン、医療用アミノ酸製剤(ESポリタミン、マーズレン)、消化酵素を使用します。鉄不足の場合には、本来は鉄剤投与が望ましいのですが、鉄剤は消化器症状を来しやすいうえ、過剰な鉄はフリーラジカル・活性酸素を増やすので、通常は投与しません。漢方のみでも鉄不足は改善します。漢方薬自体にも抗酸化作用があるのですが、直接的に抗酸化剤として働くのではなく、栄養の吸収、利用促進などを介して間接的に放射線耐性を上げているようです。
使用する方剤は、人参養栄湯、十全大補湯が中心となります。横隔膜より上の病変には人参養栄湯を、下の病変には十全大補湯がよいとされます。十全大補湯は温性なので、熱証が存在する場合は人参養栄湯にします。漢方開始は早い方がよいのですが、照射開始と同時でも効果はあります。合併症発症後は、合併症治療を優先します。補剤を継続するかやめるかは、方剤の総量、構成生薬を考慮して決めます。

放射線障害の漢方治療

放射線治療の副作用には現代薬が無効なことが多く、漢方で対応しています。服薬は食後で構いません。食前に服薬すると胃酸が多いため薬物吸収が遅くなり、薬物の血中濃度上昇が緩やかになります。越婢加朮湯などの麻黄含有製剤は食前のほうが安全だとされますが、吸収という点からは食後の服薬が望ましく、他に服用している薬剤があれば食後の同時服薬で問題ありません。
越婢加朮湯などの麻黄含有製剤で、不眠、胃部不快が出現したら、その方剤を減らすか外します。方剤中の甘草により偽アルドステロン症を来すことがあります。偽アルドステロン症がでたら甘草の入った方剤を外します。利水作用のある方剤を使用する際、利水作用が強すぎると粘膜、皮膚の乾燥、口渇が出現することがあります。方剤の組み合わせを変えて利水作用を調整します。方剤を組み合わせる際は、構成生薬の重複量に注意する必要があります。

使用方剤が多くてエキス顆粒のままでの服用が困難な場合は、少量の熱湯で溶き上澄みのみを服用し、溶けない澱粉、乳糖は捨てます。口内炎では上澄みを口内にしばらく含んでおいてから飲むと薬液が直接病変に接触して効果が上がります。エキス顆粒以外に半夏瀉心湯、黄連解毒湯には錠剤、茵蔯蒿湯、黄連解毒湯にはカプセル製剤があるので適宜剤形を変更します。

早期傷害

放射線口内炎・食道炎
頭頚部癌、肺癌、食道癌では、放射線口内炎・食道炎が問題になります。粘膜の発赤、充血、浮腫、血管透見像消失、出血などがみられます。浮腫の強い炎症であり、漢方では湿熱と表現します。浮腫をとる利水作用と、炎症を抑える清熱作用をもった清熱利水剤を用います。越婢加朮湯、茵蔯五苓散、竜胆瀉肝湯などの清熱利水剤を複数組み合わせて使用します。通常、越婢加朮湯と茵蔯五苓散から始め適宜他の方剤を追加していきます。化学療法併用例、先行化学療法例、高齢者で重篤化する傾向があります。この場合は強い清熱作用をもつ黄連、黄芩を含む半夏瀉心湯、黄連解毒湯などの芩連剤を追加します。越婢加朮湯の構成生薬の石膏は強い清熱作用を持ちます。石膏を増やして清熱作用を強めたい場合には桔梗石膏エキスを足します。
化学療法併用例、先行例では放射線口内炎・咽頭炎・食道炎が重篤化しやすく、清熱利水剤だけでは不十分なことがあります。熱の要素が強くなるためで、芩連剤を加えます。通常、半夏瀉心湯を選択します。越婢加朮湯、茵蔯五苓散、半夏瀉心湯の3剤で治療を開始し、適宜他の方剤を追加していきます。
試服で効果が確認できます。服用後20分程度待ち、痛みの消失・軽減を確認します。効果があると脈の正常化、皮膚温の上昇を認め、自覚的には体が暖まります。投薬は症状が出てから始めます。服薬後、効果が出るのは10-20分後であり、効いている時間は4-5時間です。照射終了後も症状消失まで使用します。食前20分くらいに服用し薬が効いたところで食事をすると、痛みなく食事ができます。

放射線皮膚炎
放射線口内炎・食道炎に準じます。水疱形成がなければ越婢加朮湯だけで十分です。ビルドアップに留意しながら紫雲膏を併用すると効果的です。

放射線腸炎
腹部骨盤の照射では、下痢が問題となります。20Gy前後で発症し、照射終了後も1-2週間程度続きます。頻便で始まり水様便に至ります。通常、腹痛はありません。照射がすすむほど症状は強くなります。下痢は、漢方的には痢疾と泄瀉に分けられます。痢疾とは炎症が強く粘血便や裏急後重を伴う感染性腸炎のような下痢であり、病変の主座は大腸で熱痢ともいわれます。通常は現代医学で治療します。泄瀉とは水分の過剰摂取や冷えなどで起こる下痢で、泥状便、水様便となります。病変の主座は小腸で寒痢ともいわれます。放射線による下痢は小腸の水分吸収障害による泄瀉です。
小腸上皮は細胞分裂が盛んで、消化管の中でもっとも放射線感受性が高い部位です。また小腸は水分吸収のほとんどを担っています。水分吸収を行う小腸絨毛の吸収上皮は、クリプト窩のクリプト細胞の分裂により供給され、2-3日で絨毛先端から脱落していきます。クリプト細胞は放射線感受性が高く、低線量で分裂を停止します。骨盤部の放射線治療で問題になる下痢は、小腸のクリプト細胞の分裂停止により小腸絨毛の吸収上皮が供給されず、絨毛が短小化し水分吸収が低下することで発生します。腸管内の水分が吸収できない状態であり漢方では水滞と表現します。利水剤の五苓散を使用します。五苓散により水分吸収が促進され便が固まります。五苓散は通常量では無効なことがあり、症状にあわせ十分な量を使用します。五苓散だけでも止痢はできますが、やや熱証であり、清熱目的で半夏瀉心湯を併用したほうが効果的です。効果が弱くなったら五苓散を増やします。進行すると小腸上皮が破綻し小腸壁に浮腫・炎症を来します。この時期になると画像上、小腸壁の肥厚、小腸間膜内の脈管の膨化、小腸内液体貯留が出現します。小腸壁の浮腫も水滞であり、五苓散の適応となります。五苓散は絨毛の水分吸収を促進するだけでなく、小腸壁の浮腫・炎症も軽減します。
五苓散は多いと便秘になり、少ないと効きません。1日1包から6包を目安に五苓散の服薬量を自己調節してもらっています。照射終了後も症状消失まで使用します。
試服で効果が確認できます。効果がでると他覚的には脈の正常化、皮膚温の上昇を認め、自覚的には体の暖まり、口渇の改善などを感じます。

放射線膀胱炎・尿道炎
骨盤部への照射による膀胱炎・尿道炎は、口内炎・食道炎と同じく湿熱です。清熱利水剤を使用します。竜胆瀉肝湯、越婢加朮湯、茵蔯五苓散の3剤で治療を開始し。効果が弱くなったら他の方剤を追加していきます。
放射線による下痢がすでに起きている場合、下痢の治療と尿路症状の治療のどちらを優先するかは、症状を考慮して判断します。通常は下痢の治療を優先させますが、下痢に対する五苓散、半夏瀉心湯に清熱利水剤を併用しても問題はありません。複数方剤使用時は生薬の重複に注意します。

放射線宿酔
照射後に嘔気、倦怠感、眠気がでることがあります。宿酔(二日酔い)に似ているので放射線宿酔といいます。照射終了後から半日程度症状が続き、週末に軽快します。通常初回に強く、だんだん軽くなり、1週間程度で症状は消失しますが、続くこともあります。嘔気よりも倦怠感、眠気が主体となることが多く、広い照射野で出やすいとされます。宿酔例のほぼ全例に気血両虚≒鉄蛋白不足を認めます。男性ではまれで、ほとんどは女性です。それも高齢者ではなく、高齢者より元気に見える30-50代の閉経前から更年期の女性に多くみられます。
放射線宿酔の原因はいまだに不明です。蛋白不足の症例に出やすいことから考えると、種々の酵素活性の低下が原因と思われます。放射線により発生するサイトカイン、ヒスタミン、フリーラジカルなどの処理能の低下が、宿酔につながっている可能性があります。
閉経前女性は月経・分娩で気血≒鉄蛋白を失うので気血両虚≒鉄蛋白不足になりやすく、男性より宿酔が出現しやすくなります。照射開始後1週間程度で症状が収まってくるのは、必要な酵素が誘導されるためと考えます。乳癌術後照射例が多数を占めます。女性で、症例数が多くかつ照射野が広いためでしょう。
悪心、嘔吐に対しては漢方より、グラニセトロン(カイトリル)が有効です。倦怠感、眠気に対しては現代薬での対応は困難であり漢方が有効です。随証的に治療することで、症状の軽減、消失が得られます。気血両虚が主体なら人参養栄湯、十全大補湯を使用します。イライラ、のぼせ、易怒不眠など伴っている場合には、加味逍遙散を使用します。通常数日で効果があります。
照射前に鉄蛋白不足があれば宿酔発生の可能性が高いと判断し、上述のように対処します。

晩期障害

放射線肺臓炎
放射線肺臓炎は照射終了後2-3ヶ月後以降に出現し、ときに乾性咳嗽が出現します。病変は通常照射野内ですが、照射野外に及ぶこともあります。咳嗽に対して一般的にはステロイド剤が使用されますが、ステロイドの副作用を考えると漢方での対処が望まれます。病理的には、まず肺胞上皮細胞、血管内皮細胞の障害が起き、間質に浸出液が出現します。浸出液は肺胞内にも入り肺胞壁に沿って硝子膜を形成します。間質の浸出物は器質化していきます。肺胞上皮からのサーファクタント分泌の低下、細気管支レベルの閉塞性変化により含気が低下します。浸出物が吸収されず繊維化しますと、放射線性肺線維症に移行するとされます。浮腫のすくない炎症であり、漢方では燥熱といいます。滋陰清熱作用のある方剤が有効です。麦門冬湯、滋陰降火湯を併用します。効果が弱ければ白虎加人参湯を追加します。石膏の清熱作用を増したい場合は桔梗石膏エキスを追加します。通常2週程度で咳嗽は消失します。
試服で効果が確認できます。効果がでると他覚的には脈の正常化、皮膚温上昇、咳嗽軽減を認め、自覚的には体の暖まり、口渇の改善などを感じます。

口腔乾燥
照射後の口腔・咽頭・食道粘膜の乾燥がしばしば問題となります。唾液腺腺房の萎縮と慢性炎症が原因であり、燥熱であり滋陰清熱します。放射線肺臓炎と同様に麦門冬湯、滋陰降火湯を併用します。適宜、白虎加人参湯を追加します。唾液分泌の改善には時間がかかるため、服薬期間が長期にわたるという問題があります。

放射線筋炎、放射線骨炎・骨折
肺癌等の胸部の定位放射線治療で筋肉に大線量が照射されると、照射後数ヶ月後に筋痛が出現することがあります。放射線による筋炎です。局所に熱感を認め、画像的には筋肉の腫脹、周囲軟部組織の浮腫を認めます。現代医学的治療だと3-4ヶ月程度疼痛が続きます。放射線筋炎には麻杏薏甘湯、桂枝茯苓丸を併用します。通常2-3日で痛みは消失します。NSAIDの併用は治癒を遅らせるので避けます。2-4週程度の服薬で治癒します。治癒後も画像所見は残存します。 同じく肋骨に大線量が入ると、1年後以降に骨痛、骨折が出現することがあります。通常は周囲の筋炎が先行します。現代医学的治療だと、疼痛の遷延、骨折端偏位、仮骨形成遅延、変形治癒、偽関節が生じ得ます。骨痛、骨折には治打撲一方、桂枝茯苓丸を併用します。通常2-3日で痛みは消失します。NSAIDの併用は治癒を遅らせるので避けます。4-6週程度の服薬で治癒します。

有害事象に対する方剤

有害事象 主に使用する方剤 併用する方剤
放射線口内炎・食道炎 越婢加朮湯(28)、茵蔯五苓散(117)、竜胆瀉肝湯(76) 半夏瀉心湯(14)、黄連解毒湯(15)、桔梗石膏(N324)、猪苓湯(40)、茵蔯蒿湯(135)
急性放射炎皮膚炎 同上 桔梗石膏(N324)、紫雲膏
急性放射線腸炎(下痢) 五苓散(17)、茵蔯五苓散(117) 半夏瀉心湯(14)
急性放射線膀胱炎・尿道炎 越婢加朮湯(28)、茵蔯五苓散(117)、竜胆瀉肝湯(76) 芍薬甘草湯(68)、猪苓湯(40)、茵蔯蒿湯(135)
放射線宿酔 十全大補湯(48))、人参養栄湯(108) 加味逍遥散(24)、他
口腔・食道乾燥 麦門冬湯(29)、白虎加人参湯(34)、滋陰降火湯(93) 桔梗石膏(N324)
放射線肺炎(咳嗽) 同上 同上
放射線筋炎(筋肉痛) 麻杏薏甘湯(78)、桂枝茯苓丸(25)  
放射線骨炎(骨折) 治打撲一方(89)、桂枝茯苓丸(25)  

 

治療実績

原 発 部 位 2018 2019 2020 2021 2022
脳・脊髄 1 0 4 1 3
頭頸部(甲状腺を含む) 2 0 1 2 0
食道 0 2 4 2 3
肺・気管・縦隔
(うち肺)
(肺定位照射)
30
(30)
(11)
16
(16)
(7)
42
(41)
(12)
47
(46)
(20)
28
(25)
(11)
乳腺 23 8 20 21 15
肝・胆・膵
(肝定位照射)
9
(0)
3
(0)
8
(4)
3
(2)
6
(2)
胃・小腸・結腸・直腸 5 3 6 8 14
婦人科 4 4 5 2 0
泌尿器系
(うち前立腺)
36
(22)
8
(6)
47
(34)
31
(19)
59
(50)
造血器リンパ系 0 0 0 0 1
皮膚・骨・軟部 2 0 1 2 3
その他(悪性) 0 0 1 0 2
良性 3 2 6 3 10
15歳以下の小児例 0 0 0 0 0
合計(人) 115 46 145 122 144
           
           
骨転移 26 16 34 24 30
脳転移 1 0 6 4 3
           
定 位 照 射 2018 2019 2020 2021 2022
11 10 16 20 11
0 0 4 2 2
前立腺     7 4 1
         
         
脊椎     1 3 3
オリゴ転移         3
      2 2
頭頚部          

予約・問い合わせ

外来受診は、原則として主治医の紹介を要します。初診再診とも予約制です。電話で予約をしてください。受診に関するお問い合わせ・ご質問がございましたら、放射線治療科外来受付に電話でお願いいたします。メールでの問い合わせも可能です。

電話
静岡市立清水病院放射線治療科外来受付
054-336-1111  内線 2050
メール
静岡市立清水病院放射線治療科 尾崎正時
ozaki@shimizuhospital.com

主な医療機器

製品カテゴリ メーカー 商品名
リニアック

Elekta

Versa HD

治療計画用CT

Canon

Aquillion LB

治療計画装置

RaySearch

Raystation

Elekta

Monaco

呼吸性移動対策

APEXメディカル

Abches ET

C-RAD

Catalyst