読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

皮膚科 倉地祐之眞

●昔は軟膏ばかりで大変でした
アトピー性皮膚炎(以下、アトピー)は全身に「かゆみ」や「かぶれ」がしつこく続いてしまう病気で、完治の手段はまだありません。そのため、日常生活が楽に過ごせるレベルに症状を抑え続けることが目標となります。この目標達成には、肌のケアや環境の工夫なども大事ですが、お薬による治療も非常に大切な要素です。
かつて、アトピーのお薬はステロイドの塗り薬が中心でした。症状が軽ければ塗り薬だけで楽になりますが、それだけで症状が収まらないほど重い方もいらっしゃいます。ステロイド外用だけの治療には限度があり、かつてはそれ以外にしっかりとした治療がありませんでした。なかなか治らない患者さんは「辛抱強くアトピーとお付き合いする」ことを強いられていたでしょう。沢山の塗り薬を全身に毎日塗るのは一苦労ですし、いつまで続ければよいのか分からないのもつらいことです。こうした状況から「アトピーは治らないから、症状が続いてしまっても仕方がない」という(今となっては古い)考えが生まれ、現在でもそのようにお考えの方々がいらっしゃるかと思います。

●研究が進んで、お薬が増えました
その後、医学研究が進みアトピーのメカニズムが解明されていくにつれて、その成果を応用した「特効薬」が次々と開発されてきました。より良いお薬が増えて、つらい症状をスムーズに、しっかり解消することが期待できるようになってきたのです。
デュピクセント®という皮下注射のお薬が2018年に発売されました。治療成績は良好で、副作用が少なく使い勝手も良いので、今となっては「まず症状をしっかり良くする段階」でも「良い状態をキープする段階」でも積極的に使っていこうという考えが普通になっています。私もある程度の重症度のアトピーの患者さんには積極的にお勧めしています。初回の注射の2週後に再診していただいた段階で、早くも効果を実感していただけた方が多い印象ですし、症状が軽快してきれいな皮膚に戻った方もいらっしゃいます。
飲み薬の特効薬も次々と開発されました。オルミエント®、リンヴォック®、サイバインコ®はいずれもデュピクセント®より後に発売された飲み薬の特効薬で、デュピクセント®より早く、より強力にアトピーを治せるという報告もあります。理論的には「体の抵抗力を弱める作用」が含まれるので、それ相応の準備と経過観察にご協力いただくこととなりますが、それを差し引いても優れた治療手段として認められています。デュピクセント®と違って量を増やしたり減らしたりでき、患者さんの状態に合わせた調整がしやすいことも利点です。
新しい外用薬も開発されました。従来のステロイド軟膏とタクロリムス軟膏に加えて、2020年にコレクチム®、2022年にモイゼルト®が出ました。これら4つは各々違った作用で炎症を抑えますので、使い分けることで様々な病状に対応できます。

●お子さんにも使えるお薬があります
新薬はアトピーのお子さんの治療にも大いに役立ちます。お子さんの約10人に1人がアトピーです。多感な年齢における体験や経験は、その後の人生を決めていく大きな要素となるでしょう。そうした大事な時期の活動が、アトピーの苦痛によって損なわれてしまうことは絶対に避けるべきです。今までご紹介した治療薬はお子さんにも使えます。
例えば軟膏は、お子さん用の低濃度の製剤が用意されていますし、内服の特効薬は種類によりますが12歳から使用可能です。さらに、2023年9月にはデュピクセント®の使用可能年齢が大幅に低くなり、なんと生後6ヶ月から使用可能となりました。小児のアトピー患者さんも成人の方と同様に、症状に応じて積極的かつ強力な治療を考えられるようになっているのです。

●最後に
ステロイドの塗り薬だけでアトピーがなかなか治らない患者さんには、成人の方にもお子さんにも、今回ご紹介した新しい治療の選択肢があります。これらのお薬には各々長所と短所があり、患者さんやご家族だけで選んでいくのは難しいかと思います。アトピーの状態やご希望などに合わせた治療薬をご相談できますので、ぜひ皮膚科にご相談ください。