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患者さんのための機関誌「きよかぜ」

消化器内科 伊藤達弘

冬も終わり、すっかり暖かくなりましたね。今年の冬も様々な感染症が流行しました。その中でも、特にインフルエンザウイルスとノロウイルスは、毎年、多数の感染者を出しています。
 4月に入って流行は終わったと考える方も居るかもしれませんが、以下のグラフを見てください。これは、ノロウイルスによる食中毒事件の月ごとの変化をみたものです。最も流行する12月~3月に比べると数は少ないですが、4月もまだまだ件数は多く、油断はできません。そこで、今回はノロウイルス感染症についてお話ししたいと思います。

1.ノロウイルスとは?

ノロウイルスは、ヒトに感染することで急性の胃腸炎を発症する小型・球形のウイルスです。昭和43年(1968年)に米国のオハイオ州ノーウォークという町の小学校で集団発生した急性胃腸炎の患者のふん便からウイルスが検出され、発見された土地の名前を冠して当初は「ノーウォークウイルス」と呼ばれていましたが、2002年の国際学会で「ノロウイルス」という名前に変わりました。

2.ノロウイルスの感染経路、症状、治療について

 ノロウイルスの感染経路はほとんどが経口感染(口から入り、感染すること)です。自然界では、ノロウイルスは主に井戸水や二枚貝(カキ、アサリ、シジミ)の内部に生息しているため、それらを十分な加熱をせずに摂取することで体内に入り、ヒトの腸管で増殖し感染します。また、ノロウイルスに感染した患者のふん便やおう吐物から、人の手を介して感染する場合もあります(二次感染)。感染してから発症までの潜伏期間はおよそ24~48時間です。主な症状は吐き気、おう吐、下痢、腹痛であり、発熱は軽度です。通常、これらの症状が1~2日続いた後はウイルスは完全に排出され、後遺症も残ることはありません。ただし、子どもやお年寄りなどでは重症化したり、おう吐物を誤って気道に詰まらせて死亡することもありますので、注意が必要です。
 治療について、ノロウイルスに対してはワクチンや抗ウイルス剤などの治療薬はなく、ウイルスが体外に排出されるのを待つしかありません。病院を受診された場合、おなかの調子を整えるお薬(整腸剤)や、吐き気止めのお薬(制吐剤)が主に処方されます。また、激しいおう吐、下痢によって脱水症状を起こすことがありますので、ご自宅では十分な水分補給を行ってください。下痢止めは病気の回復を遅らせることがありますので、よほどつらい場合や生活に支障をきたす場合を除いて使わないほうがよいでしょう。

3.感染予防について

 ノロウイルスは、先ほど述べたように、井戸水や二枚貝の内部に存在しています。ノロウイルスは熱に弱いため、これらの食品を摂取する場合はよく加熱することが大事です。だいたい、85度~90度で90秒以上加熱することでウイルスは失活(体内に入っても問題なくなること)するといわれています。
 また、手洗いも非常に重要となります。家に帰った後、料理を行う前、食事の前、トイレに行った後には必ず十分な量の水で手洗いを行ってください。
 また、ご家庭の中にノロウイルスに感染してしまった患者がいる場合、二次感染を起こさないように予防をしましょう。患者のふん便やおう吐物には、1グラムあたり100万から10億個もの大量のウイルスが含まれています。そのうち、100個以下という量でも体内に入ることで感染する可能性があるため、床にこぼれてしまった患者のふん便やおう吐物を処理する際には、使い捨てのガウン(エプロン)、マスクと手袋を着用した上で、ペーパータオル等でふき取り、ビニール袋に密閉して捨ててください。また、ノロウイルスには次亜塩素酸ナトリウムという物質が含まれた消毒液が有効です。市販の消毒液を使用するか、ご自宅にない場合は塩素系漂白剤(濃度5%の場合、原液4㏄を水で1000㏄に薄める)でも代用できますので、これで床や便器を拭いたあと、最後に水拭きをしてください。患者さんが使用した食器のつけ置き消毒にも有効です(ただし、人体には有毒ですので、患者さんには絶対に飲ませないでください)。

4.最後に

 ノロウイルスによる感染症は、毎年のように流行し、当院にも沢山の患者さんがいらっしゃいます。ここでご紹介した対策を有効に使い、ぜひ感染予防に役立ててください。もし、おう吐、下痢、腹痛などの症状が現れた場合は、直ちに医療機関を受診するようにしてください。