読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

外科科長 中村 光一

一次予防:疾病の発生予防
 2007年に世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)による報告書「食物・栄養・身体活動とがん予防」が、世界中で行われた研究結果をとりまとめ、赤肉(獣肉:牛・豚・羊など)・加工肉(ハム・ソーセージ)摂取は大腸がんに対して「確実なリスク」と評価しています。平均的には欧米より依然少ないとはいえ、アジアでの肉類の摂取量は増えています。また、日本でも大腸がんの発生率は、戦後、欧米並みに増加しました。報告書では、赤肉の摂取を週に500g未満とするよう推奨しています。

食物関連要因とがん【世界がん研究基金(WCRF)/米国がん研究協会(AICR)2007】
【リスクを下げることが確実なもの】
 (結腸がん)運動

【リスクを下げる可能性大のもの】
 (結腸がん、直腸がん)にんいく、食物繊維、牛乳、カルシウムのサプリメント

【リスクをあげることが確実なもの】
 (結腸がん、直腸がん)肥満
 (結腸がん)内臓脂肪、高身長、赤肉、加工肉、アルコール(男性)

【リスクを上げる可能性大のもの】
 (結腸がん)アルコール(女性)

ただし、赤肉や加工肉は少量でも問題になるわけではありません
●体格指数(BMI)が30以上では25以下の人と比べて大腸がん罹患のリスクが1.5倍になります

 大腸がんの予防の生活習慣として現時点でわかっていることは、飲酒、肥満は大腸がんリスクを増大させ、運動はリスクを低下させることが確実と評価されています。これらの生活習慣に気を配ることが、肉の過剰摂取を避けることと合わせて、大腸がんの予防には大切です。

 

二次予防:検診がとても大切です!
 大腸がんは最初、大腸の内側の壁(粘膜)から発生します。そのまま放置されると壁の深くに進行し、血管やリンパ管という管に入り込み(脈管侵襲)、周囲臓器、リンパ節または他の臓器へとひろがっていきます。逆に粘膜内で留まっていたり、粘膜下まで進んでいても、ごく浅いものであれば内視鏡(大腸カメラ)での治療で十分な場合もあります。しかし大腸がんの場合には小さいがんはもちろんのこと、比較的大きながんであっても全く症状がでないことが多く、検診(便潜血検査等)で初めて大腸がんが見つかったという患者さんが非常に多いのです。便潜血陽性になったら、便潜血の再検査をすればよいというものではなく、大腸がんからの出血は間欠的です。痔が原因とは思わず、一度、大腸内視鏡検査を行うことをお勧めします。便潜血はたとえ2回行っても、進行がんで5~10%、早期がんで40~60%が便潜血陰性になるとの報告もあり、確実なものではありませんが、何もしなければ症状が出ないまま、どんどん進行してしまう可能性があります。ですから、検診(年に一度くらい)は非常に大事であり、小さいうちに発見されれば内視鏡(大腸カメラ)治療で治ってしまうかもしれません。

大腸の検査、費用
 大腸内視鏡検査は、検査当日に腸管前処置剤(下剤)を服用します。便の色が透明になれば検査可能です。検査費用は内視鏡で観察し何も異常がなく帰宅した場合では、2割負担で約5,000円程度、3割負担で約7,000円程度になります。
 疑わしい病変があり組織検査を行った場合には、それぞれ約9,000円程度、約12,000円程度となります。ポリープを切除した場合には内視鏡手術になりますのでさらに増します。

大腸がんの治療方法
 かなり早期に発見できた場合には大腸内視鏡で切除することも可能ですが、ある程度進んだものでは内視鏡による切除は不可能になります。この場合、大腸がんの根治療法は外科的切除になります。

腹腔鏡手術
 従来の開腹手術では、お腹を大きく切って直接お腹の中を見ながら手術を行います。一方、腹腔鏡下手術では「腹腔鏡」というカメラを使って、お腹の中の状態をテレビ画面で見ながら、数か所の穴から長い器具を挿入して手術を行います。お腹を大きく切ることがないため、手術のキズ(創)が小さく、そのため痛みも少なくて済みます。

 

(参考文献)
「大腸癌治療ガイドラインの解説2009」
「世界がん研究基金(WCRF)/米国がん研究協会(AICR)2007」