泌尿器科 酒井浩介
【排尿機能障害とは】
「膀胱」には尿を溜める(蓄尿)と尿を排泄する(排尿)という2つの重要な機能があります。今回は後者の排尿の障害について解説します。 排尿は①膀胱が収縮して溜まった尿を押し出す力と、②尿道が開いてスムーズに尿が流れる、といった2つの働きで成り立ち、そのどちらか、あるいは両方の原因によりうまく排尿できなくなることを排尿機能障害と言います。①は神経因性膀胱(弛緩性膀胱)、②は前立腺肥大症が代表的な疾患です。
【症状】
排尿機能障害に限らず、排尿に関するトラブルが発生すると、尿が近くなる(頻尿)、排尿後もスッキリしない(残尿感)、尿の勢いがない(尿勢低下)、尿が出にくい(排尿困難)、尿が途切れる(尿線途絶)、いきまないと出ない(腹圧排尿)、尿が出ない(尿閉)、急な強い尿意でがまんできない(尿意切迫)、尿がもれる(尿失禁)などの多様な症状が見られます。
【代表的な疾患】
○神経因性膀胱(弛緩性膀胱) *膀胱に溜まった尿を押し出す力がない
・・・膀胱の筋肉は神経系の指令で収縮するので神経伝達障害がおこると排尿に必要な膀胱の収縮力が低下します。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの脊髄疾患、糖尿病やアルコール依存症、子宮や大腸手術などに伴う神経障害が代表です。
○前立腺肥大症 *尿道がスムーズに開かない
・・・前立腺は男性にしかない臓器で、膀胱のすぐ下にあり尿道を取り囲んでいます。50歳を過ぎると少しずつ大きくなると言われ、大きくなった前立腺は膀胱の出口を塞ぐようになり、その結果尿が出にくくなります。
【検査】
神経因性膀胱では脊髄疾患や糖尿病などの既往の有無を確認します。
前立腺肥大症では「超音波検査」もしくは「CT・MRI検査」で前立腺の大きさや形状を調べます。
共通して行う検査に「残尿測定検査」「尿流量測定検査(ウロフロメトリー)」があります。残尿測定検査では超音波を用いて排尿後に膀胱に残った量を測定します。(排尿障害ではこの残尿が多くなり、重篤な場合は尿が出ない尿閉となります。)「尿流量測定検査(ウロフロメトリー)」は検査用の機械で排尿していただくことで排尿の量・勢い・時間を測定し膀胱と尿道の機能を調べます。
【治療】
前立腺肥大症と神経因性膀胱では治療法が異なります。
前立腺肥大症には尿道の圧迫を解除する「α遮断薬」や前立腺体積を小さくする「5α還元酵素阻害薬」などの内服薬を使用します。神経因性膀胱には「α遮断薬」と膀胱収縮を補助する「コリン作動性薬」を使用します。前立腺肥大症と神経因性膀胱を合併した場合にはその両方が用いられます。
薬物療法で効果が不十分な場合はカテーテルで排尿管理を行うことがあり、膀胱に尿が溜まるたびに自身で管を尿道に挿入し尿を排出する自己導尿と、カテーテルを常に尿道に留置する2つの方法があります。自己導尿は通常と変わりなく生活できますが1日に何度か導尿を行う必要があり、その人の身体状況や生活環境を考慮して適応を判断します。
前立腺肥大症に対しては尿道を介して前立腺を削り尿道への圧迫を解除する手術が行われることもあります。当院では経尿道的前立腺切除術とホルミウムレーザー前立腺核出術を主に前立腺の大きさに応じて選択し行なっています。
【最後に】
「トイレ後にスッキリしない」「尿が近くて外出できない」などの排尿のトラブルは年齢・性別に関係なく多くの方が悩んで過ごされています。少しでも今の状態を改善させたいと感じている方がいらっしゃいましたら泌尿器科へ受診・相談してください。