読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

消化器内科 小池弘太

●はじめに
 皆さん、「脂肪肝」という病気を聞いたことがありますか?健康診断などで指摘されたことがある人もいると思います。それではNAFLD/NASHという病気は知ってますか?あまり聞きなれない方が多いと思います。近年、非常に増えてきている病気であり、少しお話させていただこうと思います。

●脂肪肝ってなに?
 一般に肝臓の病気というと、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスなどによるものや、お酒の飲み過ぎなどを考えると思います。しかしそれらに関係なく発症する肝臓病として、脂肪肝があります。脂肪肝とは肝臓に脂肪が多く溜まった状態を言います。脂肪肝はお酒飲みだけに起こるわけではありません。もちろん飲酒は脂肪肝のリスクではあります。しかし近年、飲酒に関係なく発症する脂肪肝として非アルコール性脂肪性肝疾患(Nonalcoholic fatty liver disease、略してNAFLD)、またその状態が長く続き、肝細胞が壊れて炎症が起きてしまった病態の非アルコール性脂肪肝炎(Nonalcoholic steatohepatitis、略してNASH)が注目されています。NAFLD/NASHの原因としては、食生活や運動といった生活習慣の乱れや内臓肥満、ストレスなどがあります。

●どれくらいいるの?
 現在NAFLD患者は推定で日本に1000万~2000万人いると考えられています。NASHに進展するのはそのうちの10~20%に相当する100~200万人位と考えられます。今まで肝硬変の原因はC型肝炎ウイルスが最も多かったのですが、薬の進歩もあり、年々減少傾向にあります。B型肝炎ウイルスも同様です。一方、アルコール性肝障害およびNASHによる肝硬変はともに年々増加しています。2014年以降に肝硬変と診断された患者では約3人に1人を占めるほどに増えており、今後も増加すると考えられます。

●放っておくとどうなるの?
 NASHが長い時間続けば肝臓が硬くなり(線維化)、進行すると10年後には約1~2割が肝硬変になってしまいます。肝硬変になると年に2%の肝がんリスクがあります。

●症状はあるの?
 脂肪肝自体は症状を起こすことはありません。ただしメタボリックシンドロームと密接に関連しており、特に肥満との関連が極めて強いとされています。BMI 23kg/㎡未満の人は合併率は10%以下であるのに対し、BMI 30kg/㎡以上の高度肥満者では約80%との報告があります。また、内臓脂肪蓄積、腹囲増加に伴っても脂肪肝を合併するリスクが高いこともわかっています。皆さん一度腹囲(ウエスト周囲長)を測ってみましょう。男性ではウエストが85センチ以上、女性は95センチ以上の場合、脂肪肝を持っている人が半数以上となります。BMI、腹囲で要注意な方は一度肝臓の検査をお勧めします。
 しかし非肥満者でもNAFLD/NASHを発症することがもちろんあります。非肥満者におけるリスク因子として①20歳時より10kg以上の体重増加、②週3回以上の就寝前2時間以内の食事摂取、③純エタノール換算20g/日未満のアルコール摂取などがあり、それらに心当たりある方も一度検査をお勧めします。

●どうやって検査するの?
 肝臓の脂肪化・線維化を調べる検査として、肝臓に針を刺して組織を調べる肝生検といった検査があります。しかし入院が必要であり、侵襲も伴います。脂肪肝の診断を簡便に行えるものとして腹部超音波検査があります。現在は超音波検査でも肝臓の線維化を調べることができるようになってきています。また採血で肝臓の線維化リスクを評価することができるFib4 index と呼ばれるスコアリングがあります。肝機能のAST、ALT、血小板の値を用いて計算することができ、もし定期採血されている方は評価してみて、引っかかるようであれば一度専門医受診をお願いします。

●治療はどうするの?
 脂肪肝の治療薬といったものは今のところありません。アルコールが原因の方は節酒,禁酒することにより改善が見込めます。それではNAFLD/NASHの方はどうしたらよいのでしょう?それは食事運動療法です。食事運動による体重の減量が最も有効とされています。具体的な減量目標として7%以上の減量で肝の脂肪化や脂肪肝炎の軽減、10%以上の減量で肝線維化の改善も見込めます。また運動自体が減量が得られなくても脂肪肝の改善に寄与するとされています。他のメタボリックシンドロームである高血圧、糖尿病、高脂血症がある方はそれらの治療を行うことにより肝機能の改善が得られることもあります。

●最後に
 B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスなどはあまり身近に感じることがない病気だと思います。しかし脂肪肝は誰にでも起こり得るものであり、身近な病気です。検診などで指摘されてもあまり重く受け止めない方も正直多いと思います。しかし肝硬変や肝がんに至ることもある病気であることを今一度認識してもらい、もし指摘されたことがある方は生活習慣の見直しをしてもらえればうれしい限りです。皆さん、一度自分の肝臓は大丈夫かな?と考えてみてください。