読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

小児科 石川 貴大

 『ヒトメタニューモウイルス』という名前のウイルスをご存知でしょうか。おそらく知らない方が多いと思いますし、「なんだか長くて難しい名前だな」と思う方もいらっしゃるかもしれません。それもそのはずで、このウイルスは比較的最近見つかったウイルスなのです。2001年にオランダの研究グループによって発見されました。

 ヒトメタニューモウイルスは呼吸器の感染を起こすウイルスで、同じく呼吸器の感染を起こすRSウイルスと近いウイルスです。小児の呼吸器感染症の5-15%、成人の呼吸器感染症の2-4%はヒトメタニューモウイルスが原因といわれており、2歳までに約半数の子どもが、10歳までに全員が一度は感染するとされています。また一度感染したら二度とかからないという訳ではなく、何度も繰り返し感染することがあります。特に1歳から2歳ごろの感染が多いといわれています。3月から6月くらいの間に流行することが多いとされていますが、それ以外の時期にも感染を認めることがあります。咳やくしゃみにより感染したり(飛沫感染)、手指などを介して感染したり(接触感染)します。潜伏期間はだいたい4日から6日くらいです。熱や咳、痰、鼻水のほか嘔吐や下痢など消化器の症状を起こすことがあります。ひどくなると喘鳴(ぜんめい)(呼吸の時にぜーぜーひゅーひゅーすること)を認めたり呼吸が苦しくなったりすることがあります。ほとんどの場合は不顕性(ふけんせい)感染(かんせん)(感染しても症状が出ないこと)や上気道炎(いわゆる「かぜ」)であり大きな問題にならずに治ることが多いのですが、下気道まで感染が及んで気管支炎や肺炎を起こしたり、高熱が長く続き食事や水分が摂れなくなったり、細菌の感染を合併したりすることもあります。特に免疫力の弱い高齢者や乳児などは重症化しやすいといわれています。またもともと喘息を持っている子どもは感染をきっかけに喘息の症状が出たり呼吸の症状がひどくなったりすることがあります。

 ヒトメタニューモウイルスの検査で最も手軽なものは迅速検査です。検査の方法はインフルエンザと同じで、鼻の穴に細い綿棒のようなものを入れて粘液をぬぐい取ります。わが国では2014年から保険適用となりました。かぜとして終わることがほとんどであり、そのような時は必ずしも検査を行う必要はありません。しかし前述したように年齢の低い子どもや、熱や咳が何日も治まらない場合、肺炎を疑った場合などは検査を行います。

 ヒトメタニューモウイルスに対する特別な治療はないので、基本的には対症療法を行いながら様子を見ることが治療の中心となります。重症化して呼吸が苦しくなったり水分も全く取れない状態が続くような場合は症状に合わせて薬を追加したり呼吸のサポートや点滴をしたりします。また細菌感染の合併を疑うような場合は抗生物質を使用することもあります。場合によっては入院して治療を行うこともあります。

 ヒトメタニューモウイルスの感染は前述したように大事に至らずに治ることが多いためあまり問題になることはなく、そこまで気にしすぎる必要もないかと思います。ただ春先に保育園や幼稚園で流行したり、場合によっては重症化して入院を要することもあるため、名前くらいは知っておいてもよいかもしれません。