読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

外科 露木 肇

◆鼠径ヘルニアとは
 ある臓器が体の弱い部分や隙間から他の部分に出てくる状態を『ヘルニア』といいます。足の付け根付近で起こるものを『鼠径ヘルニア』といいます。鼠径ヘルニアは小腸が出てくることが多いため、俗に『脱腸』と呼ばれています。
 鼠径ヘルニアは子供の病気と思われがちですが、むしろ成人に多く、手術以外に治療方法がありません。痛みが少なく短期入院で済む新しい手術方法が普及してきており、生活の質を考慮すれば、積極的に治療した方がよい病気です。

◆症状
 立ち上がったり、おなかに力を入れると足の付け根(鼠径部)が膨らみます。膨らみの程度は、ピンポン玉大から10㎝を超えるものまで様々です。次第に不快感や痛みを伴ってきます。通常膨らみは、横になったり指で押さえたりすることで引っ込みますが、膨らみが固くなり指で押さえても戻らなくなることがあります。この状態を『嵌頓(かんとん)』といい、おなかが痛くなったり吐いたりします。ヘルニアの嵌頓は腸閉塞や腸壊死を起こす可能性が高く、緊急手術をしなければ命にかかわることになります。

 

◆治療法
 治療の中心は手術です。特に以下の場合に手術をお勧めします。
・嵌頓の予防
・痛みや症状を伴う場合
・仕事や生活環境から、増悪が予想される場合

◆手術法
1.前方到達法
 鼠径部を約5㎝切開して修復を行います。組織縫合して補強する方法と、ポリプロピレンという人工繊維の布(メッシュ)を使用した方法があり、再発率が低いなどの点からメッシュを使用した治療が主流です。

2.腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術
 おなかに3か所の孔(あな)を開けてカメラと鉗子を挿入し、おなかの中の映像をテレビモニターで見ながら手術するのが腹腔鏡下ヘルニア修復術です。腹腔内から観察するため、ヘルニアの診断が容易であり、症状のない反対側のヘルニアも診断が可能です。腹腔鏡を用いてヘルニアの場所を確認して、腹膜と筋肉の間、腹膜の外側にメッシュをあてがい固定します。


今回は腹腔鏡下手術についてくわしく述べます。

メリット
・傷が小さく痛みが少ない。
・おなかの中(腹腔内)を観察しながら行うので、症状が出ていない小さなヘルニアの見落としが少ない。
・ヘルニア発生部位が左右両側にあっても同時に治療が可能。
デメリット
・全身麻酔で行う必要がある。
・前方到達法と比較すると手術時間が長くかかる。
・前方到達法と比較すると(頻度としては少ないが)、重篤な合併症を生じる危険性がある。

  前方到達法と腹腔鏡下手術は、どちらも優れた治療法です。状況によって主治医が選択して治療を行います。

◆おわりに
 当科では年間約100例の鼠径ヘルニア手術を行っております。鼠径ヘルニアが疑われるような症状に気づいた方は恥ずかしがらずに受診してください。
 初診は午前中なら月曜日から金曜日まで毎日受け付けています。