読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

呼吸器内科 医長 森 和貴

 寒い季節になりました。風邪をひいてしまった時など、息をするとゼーゼーヒューヒュー音がすることはありませんか?あるいは、コンコンと乾いた咳がいつまでも続くことはないですか?そのような時に「喘息では?」と言われたことがある方も少なくないと思います。

 「喘息」は正しくは気管支喘息といって、肺の中の空気の通り道(気道)が炎症が原因で狭くなり、ゼーゼー(喘鳴:ぜんめい)や息切れ、咳などが出る病気です。実は、喘息には「診断基準」といってこれに当てはまれば喘息というハッキリしたものはなく、患者さん毎に症状も程度もまちまちです。診断のためには、どんな症状があるかという問診、ゼーゼーの様子を確認する聴診などの診察室での診察に加えて、肺活量検査や血液検査も行いながら、時には薬が効くかどうかも含めて判断していくことになります。当院では、機械に10秒程度息を吹き込むことで気道のアレルギーの状態がわかる「呼気一酸化窒素測定」や、肺活量検査のように思い切り息を吐く必要のない新しい呼吸機能検査も取り入れながら、喘息の診療を行っています。

 喘息の治療は、かつては気道が筋肉で締め付けられて狭くなるので、症状が出た時だけ気道を広げる治療をすればよいと考えられていました。最近では研究の進歩により、アレルギーなどの炎症はゼーゼーしていないときにも残っていて、それが大きな発作にならないように抑えていくことが大切と考えられるようになりました。現在の喘息治療の中心は吸入ステロイドという薬です。「ステロイド」というと副作用が怖いというイメージがあるかもしれませんが、吸入では主に肺の中だけに薬が届くので、飲み薬や点滴のステロイドに比べて副作用は少なくなっています。吸入薬には粉を吸い込むもの、スプレー式のもの、器具を使って霧状にして吸入するもの等いろいろなタイプが発売されており、ひとつの薬が合わなかったとしても別のものに変えれば効果が得られることも少なくありません。最近では、吸入ステロイドに気道を広げる作用のある薬(気管支拡張薬)を配合し一度の吸入で両方を服用できるタイプが主流となっています。

 吸入ステロイドと気管支拡張薬で症状が安定する方が多いのですが、それでも完全に落ち着かないこともあります。そのような場合には、飲み薬の抗アレルギー薬を用いたり、肺気腫で使われる別の種類の気管支拡張薬を併用したりします。様々な治療でも良くならない場合は、「本当に喘息か?」ということも含めてよく調べた上で、アレルギーを起こしている体の中の物質を直接抑え込んでしまうような「分子標的治療薬」という薬も利用できるようになっており、10年ほど前と比較して喘息の治療は大きく進歩しています。

 今から30年前、日本では年間6000名以上の方が喘息で亡くなられていましたが、主に吸入ステロイドの普及が貢献し、2014年には1550名まで減少しています。それでも、年間にこれだけの方が亡くなる重大な病気でもあります。ゼーゼーが治まらない、咳が続く等の場合には一度呼吸器内科またはお近くの内科の先生に相談してみてください。