読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

泌尿器科科長 臼井幸男

 腎臓から絶えず流れてくる尿をためておき(蓄尿といいます)、ある程度の量になると外に出す(排尿といいます)のが膀胱の役割で、おへその下方に位置します。膀胱の恰好は風船と同じ単なる袋状をしているのはなんとなく想像がつくでしょう。ではどう違うのでしょう。

 風船では中にあるものを常に押し出そうとする力が働きます。ちょっと空気を吹き込んだだけでも、しぼむ力は結構なものです。一方膀胱は、ある程度の量になるまで中の圧力はかからないままやんわりと膨らむことができる、というのが両者の大きな違いです。
 もちろん出口を締める働きが伴わなければなりません。蓄尿では膀胱の筋肉が緩み、かつ出口が締まる。排尿では膀胱の筋肉が収縮し、出口が開くという絶妙なバランスがあって成り立っています。日常何気ないこの作業は、高度な機能が備わっているからこそのたまものなのです。

 膀胱は内側から粘膜、筋肉(平滑筋という胃や腸の筋肉と同じで、腕や足などの筋肉と違って自分で制御できない特殊な働きをもつ筋肉を有し排尿筋ともよばれています)、漿膜の3層でわりと簡単な構造でできています。成人の膀胱容量は平均して500ml程度ですが、個人差が大きく体の大きさに比例するものでもありません。また1回の排尿量は気温や体の水分量などにも影響を受けてしまうので、いつも一定ではありません。
 出口を締めるものには膀胱の出口(膀胱頚部筋)と尿道括約筋の2か所があります。尿道括約筋は膀胱の筋肉と違い、腕や足と同じ骨格筋でできています。女性では膀胱のすぐ近くにありますが、男性では膀胱と尿道括約筋の間に前立腺が存在します。

 膀胱を支配する神経は自律神経(交感神経、副交感神経)で、自分の意志では制御できない世界となっています。尿道括約筋は体制神経といって自分の意志で制御できます(蓄尿時には意識的に締めているものではないのですが、いざトイレ(尿でも便でも)を我慢するときに意識的に締めることができます。

 では、以上のことが蓄尿と排尿でどう作用するのかを解説していきましょう。

 膀胱には伸展センサーなるものが存在し、尿が溜まりつつあることを絶えることなく中枢にある膀胱機能中枢に信号を送ります。”はいはい、尿がたまりましたね。さあ尿を出しましょう”、という働きがでてしまいます。
 ここで大事なのは、大脳が伸展センターの信号を感知し膀胱機能中枢の働きを抑えていることです。もちろん膀胱が緩むだけでは尿をためることができないので、同時に膀胱の出口(前述した膀胱頚部筋と尿道括約筋)を締めて穏やかなる尿溜めの時間をすごします。

 さあ、そこそこ尿がたまって我慢の限界に近づいてきました。その瞬間に蓄尿機能が解除されてしまうとそこらじゅうが尿だらけになってしまいますので、しかるべき場所へ移動し、排尿の準備ができた時点で大脳が”もういいよ”と膀胱機能中枢に指令し、蓄尿と逆の神経系が興奮します。すると出口は開き、膀胱は収縮してようやく”はぁ~、すっきりした”という至福のときを迎えるのです。

 今回は膀胱の働きに関する仕組みについてご紹介させていただきました。病気を理解するうえでは仕組みを知ることも大切です。特にからだの機能異常ではとても大事なことと思います。
 次の機会には、これらの仕組みの障害でどのような状況が起こるのか、をご紹介することにいたしましょう。