乳腺外科科長 谷口正美
増加し続ける乳癌
前回、きよかぜに「乳癌のお話を」を寄稿して7年が経ちました。この間、診断・治療はたくさんの進歩がありましたが、目を見張る変化は乳癌の増加です。7年前には「年間4万人、女性3人に1人が乳癌になる」と記していますが、現在では「年間6万人、女性18人に1人」と予測されています。これは、女性の癌の中で最も多く、また女性の死因の1位です。
癌の原因
発生母地(組織)があり、そこに誘引(タバコ、ウィルス、化学物質、紫外線、過剰なホルモン作用等)が加わることで遺伝子に障害が起き、時間(期間)を経て癌が発生します。
乳癌増加の原因 1.少子化と晩婚化
哺乳類であるヒトには必ず乳腺があり、そこが乳癌の発生母地ですが、本来は母乳をつくる組織です。よって、たくさんの子供を産み、かつ長い期間の授乳を行うと乳腺は消費され脂肪になってしまい乳癌の発生は減ります。また乳腺の主たる誘引は女性ホルモンですが、妊娠、授乳中はその作用が緩和されています。つまり、妊娠、授乳は乳癌発生を減少させる最大の因子なのです。興味深いことに、同じ数の子供を産み、同じ期間授乳をしても、20代での初産よりも40代での初産の方に乳癌発生は多く、初経から初産までの間の女性ホルモンの作用が重要と考えられています。事実「十五で姐やじゃ嫁に行き~」と唄われた頃には乳癌は稀な病気でした。
乳癌増加の原因 2.高齢化と肥満
癌は時間を経て生じますので、長く生きていれば発生が増えることは当然ですが、乳癌の増加にはそれに加えて肥満が関与しているのです。女性ホルモンは閉経を境に激減しますが、その後も内蔵ホルモンを原料として脂肪内で作られています。それは正常体型ではわずかな量で問題はありませんが、肥満により多量の脂肪があると女性ホルモンは過剰に産生されてしまい乳癌発生の誘引なります。実際、閉経後、女性での乳癌発生率は肥満者では3倍です。
乳癌になりにくくするためには
早い時期に子供を産み、十分な授乳を行うことの重要性はご理解いただけたと思いますが、それ以外の対策としては「太らないこと」に尽きます。肥満は消化器癌も増加させます。
乳癌を早く見つけるためには
乳癌の95%は触診で見つけることができますから、兎にも角にも毎月の「自己検診」が基本です。方法は「肉まんの中に小梅が入っている」ことをイメージして、指先で押しつぶすようにまんべんなく触ります。マンモグラフィ検診も有用ですが、10%の乳癌は発見できませんので結果は過信せず、必ず2年に1回受けましょう(公費助成有)。ただし、自己検診でしこりを触れた方は「検診」ではなく、必ず医療機関を「受診」してください。検診は自覚症状の無い方を対象としていますので、小さな癌は見落とされてしまうこともあります。
乳癌になってしまったら
日本乳癌学会が認定する専門医を受診することを強くお勧めします。全国で1,235名、静岡県には22名がおります。当院乳腺外科は私と住吉ともにベテランの乳腺専門医です。
乳癌の治療は局所(手術)+全身治療
7年前は癌の大きさやリンパ節転移数で悪性度を判断していました。しかし、小さな癌でも全身転移していることもあり、現在はサブタイプ判別で癌の性質を詳しく分析して治療方針を決めています。治療は手術を基軸としてホルモン療法(女性ホルモンの作用を妨げる)、化学療法(抗癌剤)、分子標的薬、放射線療法を組み合わせて行い、将来の再発率の軽減を行います。具体的な方法はお一人お一人で全て異なり、その方に最適な方法を提案してまいります。
以上、乳癌とは何かから、治療までご説明いたしました。
ご不安がある方は、必ず乳腺外科を受診してください。
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054-336-1111(内線2860)まで
初 診:月曜午前、火曜午前・午後
自費検診:火曜午前・午後 費用4,200円