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患者さんのための機関誌「きよかぜ」

外科 診療部長  丸尾啓敏

鼠径(そけい)ヘルニアとは
一般に「脱腸」と呼ばれている病気です。下腹部から鼠径部(太もものつけね)の組織が弱くなると、その部分から腹膜が袋状に伸びてきて、小腸など、おなかの中の臓器が脱出するようになります。それが鼠径ヘルニアです。子供の病気と思われがちですが、むしろ成人に多い病気で、日本では高齢化とともに年々増加しています。手術以外には治す方法がありません。当科では痛みも少なくできるだけ短い入院で済む手術を行っていますので、ぜひご相談ください。

症状
立った時やおなかに力を入れた時に鼠径部に柔らかい膨隆(ほうりゅう – ふくらみ)が生じます。膨隆の大きさはピンポン球くらいから10cmを超えるものまで様々です。しだいに不快感や痛みを伴ってきます。指で押さえたり横になったりすると通常は引っ込みますが、膨隆が急に硬くなり、指で押さえても戻らなくなることがあります。この状態を嵌頓(かんとん)といいます。ヘルニア嵌頓は腸閉塞や腸壊死を起こす確率が高く、緊急手術をしなければ命にかかわることになります。

種類
ヘルニア嚢(のう – 袋状に伸びた腹膜)が内鼠径輪から鼠径管内に入り、外鼠径輪から脱出したものが「外鼠径ヘルニア」、ヘルニア嚢が鼠径管後壁から直接外鼠径輪へ脱出したものが「内鼠径ヘルニア」です(外観は変わりません)。鼠径ヘルニアは左右どちらにも発生し、ときには両側同時に見られることもあります。似た病気に「大腿ヘルニア」がありますが、これは女性に多く、発生部位がやや異なり鼠径ヘルニアより足側に膨隆ができます。

手術
「従来法」の手術はヘルニアの出口を糸で縫って塞ぐ方法でした。今ではほとんどの症例にポリプロピレンという人工繊維の布を使った「メッシュ法」が行われています。これは従来法と比べ、術後の痛みが軽い、再発率が低い、入院期間が短い、という点で優れているからです。使用するメッシュの種類によって、「プラグ法」「クーゲル法」「ポリソフト法」「UHS法」などがあり、状況によって主治医が選択します。

手術後の合併症と日常生活
ほとんどは手術後3日目に退院でき、1~2週間後の外来でチェックして問題なければ終了です。頻度は少ないですが、皮下出血、漿液腫(しょうえきしゅ – 浸出液貯留)、感染といった合併症を起こすことがあります。手術したところは少しつっぱり感がありますが、しばらく経過すると気にならなくなります。運動や食事はとくに制限されませんが、個人によって回復の程度に差がありますので、手術後の生活については主治医の指示に従ってください。

おわりに
当科では年間約100例の鼠径ヘルニア手術を行っています。鼠径ヘルニアが疑われるような症状に気づいた方は恥ずかしがらずに受診してください。初診は午前中なら月曜日から金曜日までの毎日受け付けています。