読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

外科 医員  大林 未来

猛暑も去り、だんだんと涼しさを感じる季節となりました。皆様、快腸でしょうか?2019年度より当院外科で勤務しております、大林と申します。女性外科医はなかなか珍しいとは思われますので、女性を悩ませることも多い(もちろん男性も)疾患のお話をさせて頂こうかと思います。

今回は、デリケートな「おしりの悩み」のお話です。おしりの悩み、つまり痔ですが、とある調査によれば成人の3人に1人は何らかの痔を持っている、大変患者数の多い疾患です。しかし、他人に相談しづらいことから、なかなか病院に足を向けることの少ない疾患であり、かなりひどい状態になってから受診される方も多いです。こちらの広報を手に取っていただいているあなたのおしりにお悩みはありませんか?
痔は大きく分けて以下の3タイプに分けられます。それぞれの特徴や予防法、診察の流れや治療についてお話させていただきます。
裂肛(切れ痔)
 排便時の痛みや出血が主な原因であり、習慣化してしまう方もいらっしゃいます。硬い便や太い便が肛門を通過するときに、肛門にすぐ近くの部分が裂けてしまい起こります。多くは適切な排便習慣で改善することが多く、これは予防にも通じます。便意を我慢しない、水分や食物繊維をよく摂ることで硬くなることを防ぎます。また、便を柔らかくするタイプの緩下剤も有効です(市販薬にもある「酸化マグネシウム」をはじめとするものです)。また、外用薬の塗布で痛みと炎症を改善させる方法もあります。このような治療を続けても効果がない場合や、習慣化することによる肛門の狭窄が起こってきた場合は手術加療をお勧めすることもあります。
痔核(いぼ痔)
 多い報告では2人に1人が有病者といういぼ痔ですが、肛門周囲の血管の拡張や、肛門を支えている組織が緩くなってくることにより、排便などをきっかけに出血や痛み、痔核の脱出(脱肛)が起こることを主症状とします。出血は多いこともあり、便器が真っ赤になるほどのこともあります。原因は裂肛とも通じますが、排便時の過度な「いきみ」です。いきむことで肛門周囲に血液がうっ滞して血管が拡張し、組織もゆるくなってきます。便を硬くしないことや、便意がないのにトイレにずっと座って便が出るのを待つことをしないなど、こちらも正しい排便習慣を身に着けることが予防と治療につながります。また、うっ滞した血流をよくするため、温浴をする、座りっぱなしをやめる、なども重要です。特に若い方ではシャワーだけで済ませてしまうことが多いのではないでしょうか?時々ゆっくりお風呂に浸かってみてください。また、女性では生理周期の血流の増加や便秘、妊娠によって悪化することがあることも知られています。これらの生活習慣の是正に加え、内服薬や外用薬を用います。しかし、脱出した痔核が指で毎回押し戻さなければならない場合や、ひどい痛みや出血が改善しない場合などは手術による治療が必要となることもあります。当院では昔ながらの痔核を切り取る手術や、近年行われている、痔核に注射を打つことで痔核を消退させる、「硬化療法」という治療も行っています。
痔瘻(あな痔)、肛門周囲膿瘍
 おしりの痛みがあってまっすぐ座れない、熱がでる、パンツに膿が付くなどの症状が出てきます。肛門の中にある小さなくぼみから細菌が入ることで皮下や筋肉の間に膿の溜まりを作ります。これを肛門周囲膿瘍と言い、先に述べたような症状が起こります。治療は膿の溜まりを切り開いて膿を出し切る処置が必要であり、これに関しては病院でなければ行うことができません。膿の溜まりがなくなって治療が終わる方もいらっしゃいますが、そのままだらだらとくぼみから細菌が入り続けて膿が出続ける状態になる方がおり、これを痔瘻と言います。痔瘻になった場合は手術による治療が必要です。痔瘻になっている通り道をくりぬく手術や、通り道を開放する手術など、治療の方法は複数あります。また、若くして痔瘻を繰り返す方の中には、クローン病という炎症性腸疾患が背景にある方もいます。
診察について
 「家での市販薬の処置にも限界がある、手術しないと治らないのはわかる、でもやっぱり他人におしりを見せるなんて恥ずかしいから嫌だ!」と、思われる方が実際は大半と思われます。当院での診察の流れですが、ベッドに横向きに寝て頂き、少し膝を抱えるような恰好でおしりだけを出した状態で診察をします。大きく足を開いたりする恰好ではありません。指を使った触診や、肛門鏡という小さな大腸カメラのようなものを使い、痔の様子を見させていただきます。中には痔かと思っていたら肛門に近いところの大腸癌だったという、病院でないと診断がつかないようなこともあります。恥ずかしさや痛みに充分配慮した診察をおこなっております。治療についてもご希望やスケジュールに合わせてご提案させていただきます。他人には言いづらいからこそひどくなっても我慢しがちなおしりの悩み、一度ひとりで抱え込まずにご相談ください。