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患者さんのための機関誌「きよかぜ」

                                 皮膚科 増田 容子 

 ある日の皮膚科外来

「いつもの薬でいいです。皮疹もかゆみもあるけど仕方ないです。」

「すっきりしないです。毎日しっかり薬は塗っていますけど、こんなもんだって思ってます。」

 

日常診療の中で、アトピー性皮膚炎の患者さんから、このような声を聞くことが多々あります。その症状、本当に抑えられないものでしょうか?

お困りでしたら、新しい治療を試してみませんか?

 

・アトピー性皮膚炎とは

 アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能が低下する体質や、アレルギーを起こしやすいアトピー素因が原因となり、皮膚への刺激やアレルギーによる皮膚炎を起こしやすくなる病気です。主な症状は「湿疹」と「かゆみ」で、良くなったり悪くなったりを繰り返し(再発)、なかなか治らないこと(慢性)が特徴とされています。

アトピー性皮膚炎による強い痒みは、日常生活に支障をきたすこともしばしばあります。
 

*ご家族にアトピー性皮膚炎や喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーなどの人がいる場合や、ご本人がそういう病気をわずらったことがある場合にアレルギーを起こしやすい体質と考えられ、そういった体質をアトピー素因と呼びます。

 

・アトピー性皮膚炎の従来の治療

 治療の基本は、皮膚のバリア機能を補う治療(保湿)と、炎症を抑える治療 (抗炎症療法)、症状を悪化させないための生活環境改善です。

外用剤には、保湿剤、ステロイド外用剤、タクロリムス外用剤、全身治療には光線療法(紫外線による治療)、ステロイド内服、シクロスポリン内服などがあります。外用剤で効果が不十分な場合には、全身治療を追加し、患者さんのその時々の症状の程度やライフスタイルなどに応じて適切な治療を組み合わせます。

 また、症状の悪化を防ぐためには生活環境の改善も重要です。ダニやカビなどのハウスダストはアトピー性皮膚炎の原因になり、かゆみを引き起こすため、部屋をこまめに掃除し、ふとんやシーツ、枕カバーなどを清潔に保つことも効果的です。皮膚の乾燥を防ぐために、室内の湿度を適度に保つことも推奨されます。

治療目標は、「症状がない状態あるいは、あっても日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態」や、「軽い症状はあっても急に悪化することはなく、悪化してもそれが続かない状態」です。

 

 しかし、あらゆる治療を組み合わせても皮膚症状やかゆみが強く、仕事や学業に集中できなかったり、肌を出すファッションが出来なかったりと日常生活に制限を抱えている患者さんは多くいます。

 そんな、従来の治療で効果が不十分な患者さんの味方となる、アトピー性皮膚炎の新しい治療薬「デュピルマブ(デュピクセント®︎)」が2018年に登場しました。

 

・デュピクセント®︎はどんな治療?

 皮膚炎によるかゆみのため、皮膚が傷つくと、さらに炎症が悪くなります。このとき、皮膚の内部では正常な皮膚に比べ、Th2細胞という免疫細胞が増えた状態になっています。そして、Th2細胞が産生する「IL-4」と「IL-13」という物質(サイトカイン)は炎症を起こしたり、かゆみを誘発したり、皮膚のバリア機能に大切なフィラグリンという物質の発現を低下させたりします。

 デュピクセント®︎は、IL-4とIL-13の働きを抑えることでかゆみや皮疹などの症状を改善する皮下注射による治療です。

 投与頻度は2週間に1回であり、通院での治療が必要ですが、これまでの皮疹やかゆみによる日常生活の悩みが緩和される画期的な治療です。

 なお、高齢の方、喘息などのアレルギー疾患をお持ちの方、妊娠中の方および妊娠を考えている方などは投与にあたり注意が必要ですので、必ず受診時にご相談ください。

 

 外用治療や全身治療などの従来の治療を続けていても改善しない皮疹やかゆみがあり、日常生活に悩みを抱えている皆さん、この機会にデュピクセント®︎を試してみませんか?

 パンフレットをご用意しておりますので、少しでもご興味をお持ちの方は、気軽に皮膚科でご相談ください。