読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

産婦人科 科長 小山内 久人

風疹について、ご存知ですか?
妊娠をお考えの方、周りに妊婦さんのいらっしゃる方、風疹ワクチンはもうお済みですか?

 

 風疹とは、風疹ウイルスによって引き起こされる急性のウイルス感染症で、発熱や発疹、リンパ節の腫れなどを引き起こします。飛沫感染によりヒトからヒトへ感染が広がって行きます。
 風疹の予防には、ワクチン接種が最も有効な方法と言えます。

 

 妊娠中には特に風疹の感染に気をつけなければなりません。というのは、風疹ウイルスの抗体を持たない妊婦さんが風疹ウイルスに感染すると、お腹の中で胎児に感染して目や心臓や耳などに異常を引き起こす先天性風疹症候群を発症することがあるからです。先天性風疹症候群自体を治す治療法はありません。風疹にかからないようにすること、つまり予防のみが、この先天性風疹症候群への対策と言えます。

 米国や欧州・中南米など複数の国ではすでに風疹の根絶に成功しています。しかし日本ではまだ撲滅に至っておらず、今でも数年毎に流行が見られます。例えば、3~4年前に日本の大都市を中心に風疹が流行し、その際には先天性風疹症候群の患者が増加して問題となりました。当時ニュースなどでも報道されていましたので憶えている方もおられることでしょう。国は2020年度までに風疹排除を達成することを目指しています。日本産科婦人科学会でも、先天性風疹症候群の撲滅のために風疹ワクチンの接種を積極的に推奨しています。

 では、どのタイミングでワクチンを接種すべきでしょうか。

 この風疹ワクチンですが、生ワクチンのため、妊娠中には接種できません。
このため、妊娠を希望される方は、まず妊娠前に風疹抗体価を検査して、抗体価が低い場合には早めに風疹ワクチンを接種することが望まれます。風疹抗体価は血液検査で調べることができます。抗体は年々減少していきますので、過去にワクチン接種をしたことのある人も、一度検査をすることをお勧めします。

なお、風疹ワクチンは生ワクチンのため、理論上は風疹ワクチンによる先天性風疹症候群の発生の可能性を否定できないとされています。そのため、接種後2か月は妊娠を避けてもらう必要があります。

では、現在妊娠している方はどうすればよいでしょうか?

 前述のとおり、風疹ワクチンは妊娠中には接種できません。妊娠初期には風疹の抗体を必ず検査していますので、抗体がなかった人や抗体価が低い人は、風疹に感染しないよう気をつける必要があります。人混みや子供の多い場所などをなるべく避けることが望まれます。風疹の流行地域に近付かないことも重要です。そして、出産後なるべく早くワクチン接種することが推奨されています。

当院では、ワクチン接種希望の妊婦さんには、産後の入院中に接種を行っております。
また、妊婦さん本人だけでなく、同居している家族(夫、子供、その他)にもワクチン接種は推奨されます。先天性風疹症候群の予防のためにも、妊娠をお考えの方や妊婦さんの周りの方の積極的なワクチン接種をぜひお願いしたいと思います。

 風疹はまだまだ身近な感染症です。静岡県でも2017年と2016年にはそれぞれ7件の発生が報告されていますが、2015年には20件の発生報告があり、これは都道府県別の人口100万人当たり発生数に直すと、全国で最悪の数字でした。(国立感染症研究所週報より)。

 現在のところ沈静化しているように見えるかもしれませんが、備えあれば患いなし、次の流行の前に、早めの風疹ワクチン接種をぜひご検討ください。