読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

産婦人科 医長 平田 咲子

 産婦人科への受診は妊娠のとき以外は他の科を受診するのに比べて、少し敷居が高いようです。また、婦人科の病気は状態が進んでから自覚症状として現れてくることが多いというのが特徴です。そのため、子宮頸がんの健診で、婦人科の病気(卵巣や子宮の病気)が偶然見つかり、産婦人科受診を紹介されるケースを多く見受けます。世界の先進国標準(アメリカ・イギリス 約8割前後)に比べると日本の受診率は低く、約3割の女性が子宮がん検診を受けられているとのことです。子宮頸がん検診では、子宮頸がんを早期から見つけるというものですが、同時に治療しなければならない他の婦人科の病気(前述のように自覚症状が無いことが多い)が見つかる可能性があるので20歳以降の方はガイドラインでも勧めています。ぜひ健診を受けてください(若い方に多い腫瘍もあります)。

 婦人科の病気が見つかったからと言ってすぐに手術をしましょうというわけではありません。緊急を要す場合(破れている、ねじれている、出血多量など)、病気の性状(癌かどうか、今後癌に発展する可能性があるか)、日常生活の妨げになる(月経のたびに出血・痛みがあり仕事、勉強ができない)、全身の状態(貧血が進んでいるなど)、大きさ(他の臓器を圧迫して、圧迫症状がでている)などによって、手術が必要であるかどうかは決まります。また、最近は手術と言っても、大きくお腹を開ける開腹手術だけでなく、腹腔鏡手術が世の中にも広く浸透してきており、婦人科の治療法としてのニーズはどんどん高まっています。そのため、今回は腹腔鏡手術のお話をさせていただきます。

 さて、腹腔鏡とは何でしょう。答えは、お腹の中を覗くカメラのことです。腹腔鏡手術ではお臍からカメラを入れて、お腹の中を覗き、それをテレビのモニターに映すことでお腹の中を確認しながら、下腹部に開けた3箇所の0.5cmの傷からマジックハンドのようになった器械を入れて手術をします。(手術によっては4cmくらいまでの傷ができることもあります。)

 腹腔鏡手術の利点をあげると、表面から見えるものは小さい傷で美容的です。術後の痛みが少なく、回復も早いので入院日数が短いです。そのため、術後の社会復帰が早いです。

 難点としては、手術時間が開腹術より少しかかります。また、病気の大きさが大きい(特に子宮筋腫)、お腹の中に強い癒着がある場合(盲腸(虫垂炎)、腹膜炎、骨盤炎、開腹手術の既往があるとお腹の中がくっついている可能性が高くなります)また、悪性の場合の腹腔鏡手術は行っていません。
 腹腔鏡手術ができる婦人科の病気は、
1.良性卵巣腫瘍  
2.内膜症(チョコレート嚢腫)
3.子宮筋腫 
4.子宮外妊娠 
5.子宮頚部異形成、子宮内膜異型増殖症の根治手術  などがあります。
 手術の内容としては、疾患に応じて、卵巣の腫瘍の切除(卵巣は残る)、卵巣・卵管の切除、子宮の摘出です。

 少し怖い話になりますが、手術に100%安全ですということはありません。腹腔鏡手術の合併症としては、稀ですが、出血、感染、血栓、膀胱・腸管損傷があります。また、炭酸ガスを入れ、お腹をふくらませ、お腹の中にスペースを作ることでマジックハンドのようになった器械を入れて操作をできる反面、そのガスが皮膚の下の組織に貯まる(皮下気腫)、ガス塞栓(ガスが血液中に入り、肺の血管を塞ぐ)が極めて稀に起こることがあります。

 麻酔の方法は全身麻酔と硬膜外麻酔(背中に術後の痛みを取る目的で管を入れる)を併用します。術後はおおよそ4日目に退院できます。

 手術の前には、手術ができるくらい体力があるか、持病はコントロールされているか(糖尿病、高血圧など)、隠れている病気はないか等を検査して、(血液検査、レントゲン、心電図、呼吸機能検査)、その結果を踏まえて、外来で手術中に待機をしていただけるご家族の方とともに病状のお話、手術の説明をさせていただいてから、日を改めて入院となります(緊急手術の方を除く)。

 当科は7人常勤医がおり、うち2人女性産婦人科専門医が在籍しております。婦人科の腹腔鏡治療を積極的に行っております。水、木に外来を担当しておりますので、女性医師希望、腹腔鏡手術の希望があれば、遠慮をなさらずに受付にお伝え下さい。
(水曜日:鎌田 木曜日:平田 が担当しております)