読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

2016.10.01

整形外科 医長 河野 友祐

《はじめに》
 肩関節はヒトの関節の中でもっとも脱臼しやすい関節と言われています。スポーツや転倒などで肩関節に無理な力が加わった際に脱臼するのですが、そのほとんどが前方脱臼という上腕骨が肩甲骨の前に外れるパターンをとります(図1)。「脱臼癖がある」などと言われる繰り返す肩関節脱臼は、最近まで「反復性肩関節脱臼」と言われており、近年では「肩関節前方不安定症」と表現されるようになってきました。10代で最初の脱臼をきたした場合は約90%、20代で約80%、30代で約70%がその後に再脱臼する(いわゆる脱臼癖がつく)ことがわかっています。

《原因》
 肩関節は肩甲骨関節窩(かんせつか)と上腕骨頭(じょうわんこっとう)から成り立ちます。この関係はしばしばゴルフのティーとボールに例えられ、小さなティー(関節窩)と大きなボール(上腕骨頭)が向かい合う形で存在します。このアンバランスな関係によって大きな関節の動きが獲得できるのですが、どうしても外れやすくなってしまいます。それを補うために関節窩(ティー)と上腕骨頭(ボール)の間は、関節包という袋と、その縁にある関節唇という組織で覆われています。しかし肩関節に無理な力が加わると、前方の関節唇が関節窩から剥がれ、上腕骨頭が脱臼します。脱臼を戻す(整復する)と関節窩と上腕骨頭の位置関係は元に戻りますが、剥がれた関節唇は元に戻らず、宙に浮いたような状態になります(図2)。その結果、脱臼した際の上腕骨頭の通り道が残されるため、「脱臼癖」がつくことになります。

《診断》
 脱臼している際はレントゲンで確認できます。また、脱臼した骨の痕をレントゲンで見ることもできます。さらに関節唇などの状態を見るためにMRIやCTで確認すること必要になります。

《治療》
 初回脱臼の際は三角巾や装具などで肩を安静にして、関節唇などが良好な位置で修復されることを期待します。2度目以降の脱臼では次第に関節が変形してくる可能性があるため手術をお勧めします。以前は10cmほど傷を大きく開けて手術を行っていましたが、近年では関節鏡を用いて1cmの傷が3つほどで手術を行うことができます。また、従来の方法では肩甲下筋という大事な筋肉を一度切って手術をしていましたが、関節鏡を用いる手術では、その筋肉を切らずに手術を行うことができます。関節窩の縁にアンカーと呼ばれる糸付きのネジのようなもの(骨に吸収される)を打ち込み、アンカーから出る糸で関節唇と関節包を関節窩に縫い合わせます。少なくともアンカーは4つ以上用いて修復します(図3)。入院期間は最短で5日程度と早期の退院も可能です。術後は4週間程度三角巾で固定し、その後リハビリを行います。スポーツへの復帰は競技によりますが、アメリカンフットボールやラグビー(コリジョンスポーツと言います)でも術後半年で可能です。手術後の再脱臼率はコリジョンスポーツの選手たちのデータを含めても数%程度に留めることが可能になってきました。当院では関節鏡を用いて脱臼の手術を行っておりますので、「脱臼癖」でお困りの方はぜひ受診してみてください。