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患者さんのための機関誌「きよかぜ」

消化器内科 小池 弘太

 胃潰瘍という病気をご存知でしょうか?胃潰瘍についてきちんと学んでおくことが胃癌の予防にもつながることがあります。そのため今回は胃潰瘍についてお話しします。

1:胃潰瘍とは?

 胃潰瘍についてお話しする前に胃の働きについて説明します。胃は強力な酸である胃酸を分泌しています。胃酸により胃の中は常に酸性状態となっており、食物を消化し、細菌に対し殺菌作用を発揮します。
 ではなぜ胃自身は溶けないのでしょうか?これは胃が胃酸だけではなく粘液やアルカリ性物質などを分泌することで自身を守っているためです。これを胃粘膜防御機構と呼びます。胃潰瘍とはこの防御機構が何らかの原因により破綻し、胃酸で胃粘膜が傷つき、粘膜の一部が削られてしまった状態のことを言います。

 2:原因

 防御機構が破綻してしまう原因として最も多いのはピロリ菌感染、次いで薬剤となります。またストレスや刺激物なども原因となることもあります。

≪ピロリ菌とは?≫

 ヘリコバクター・ピロリ菌という胃粘膜に生息する細菌です。胃潰瘍患者の70~80%がピロリ菌に感染していると言われています。このピロリ菌は口から感染するとされています。経口感染といっても大人に感染することは少なく、免疫が発達していない幼児期に感染することがほとんどです。ピロリ菌は胃粘膜を障害する物質を産生し、胃粘膜防御機構を破綻させて胃潰瘍の原因となります。さらにピロリ菌は胃潰瘍だけではなく、胃癌の原因とされています。

 ≪薬剤≫

 薬剤で最も多い原因となるのは痛み止めや解熱剤として用いられる非ステロイド性抗炎症薬です。抗血栓薬として用いられるアスピリンも胃潰瘍の原因になります。慢性疼痛で痛み止め、血管の病気で抗血栓薬などを長期内服している方は、潰瘍発症のリスクが高いため一度主治医と相談してみてください。

 3:症状

 症状として最も多いのが痛みです。みぞおちの辺りに鈍い痛み、特に食後によくみられます。その他に食欲不振や吐き気、腹部膨満感などがあります。胃潰瘍が悪化すると出血を起こし、吐血(褐色や黒色物の嘔吐)や下血(便に血が混じり黒い便になること)が現れます。また胃潰瘍が深くなると穿孔(胃に穴があくこと)を起こす場合があります。万が一穿孔を起こすと、腹部全体に激痛が現れます。

4:診断

 胃潰瘍の診断はバリウム検査や内視鏡検査を用います。ピロリ菌の感染を調べる方法はいろいろありますが、保険診療上、まず内視鏡検査を行い、ピロリ菌感染を疑う場合に限り調べられることになっています。ピロリ菌感染を心配で受診された際には、先に内視鏡検査を受ける必要があることを知っておいて下さい。

 5:治療

 潰瘍の治療は、制酸剤(胃酸の分泌を抑える)や粘膜保護剤の内服で治療を行います。通常胃潰瘍は8週間、十二指腸潰瘍は6週間内服後、再び内視鏡検査で潰瘍が治癒しているか確認します。ピロリ菌感染がある方は、抗菌薬内服による除菌治療を行います。薬剤が原因の方は、原因となる薬剤を中止します。中止できない場合は長期間制酸剤を内服する必要があります。潰瘍から出血を認めた場合は、内視鏡で止血を行います。その後入院で数日間は絶食とし制酸剤で治療をします。また穿孔が確認された場合は、緊急手術が必要になる場合があります。

6:最後に

 胃潰瘍は放置しておくと生命に危険を及ぼす可能性があります。しかし薬で治すことのできる病気です。またピロリ菌感染があれば除菌によって潰瘍の再発だけでなく、胃癌発生の予防にもつながります。もし胃が痛い、便が黒っぽいなどの症状がありましたら早めに医療機関を受診し、内視鏡検査を受けられることをお勧めします。