読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

小児科科長 西田 光宏

 毎年秋になると、ノロウイルスの流行がニュースになります。ちょっと名前が似ているロタウイルスは、ノロウイルスと同様に胃腸炎を引き起こすウイルスですが、世界全体でみた場合、ロタウイルスはその主な原因とされています。またノロウイルスを含めた他のウイルス性胃腸炎よりも重症化しやすく、例えば2008年には世界中で約45万人の5歳未満小児がロタウイルスにより死亡したと推測されています。

 流行は春先から夏前までが多い傾向にあります。感染経路は経口感染で、ノロウイルスと同様にごく少量のウイルス粒子で感染が成立します。さらに、ロタウイルスは体外の環境でも長期間生存し、いくら注意していても家庭内や保育園・幼稚園・学校などで流行が起きてしまうのが現状です。

 感染から1~2日の潜伏期の後、腹痛・嘔吐・下痢・発熱などの症状が数日間から1週間程度続くことが一般的ですが、我が国では約15人に1人が重度の脱水をきたすなどして入院を要するとされています。入院まで至らずとも外来で何度も点滴を要したりすることもよくあります。また胃腸炎症状のみならず、繰り返すけいれんや脳炎・脳症を起こしたり、多臓器不全などを発症するなどした症例が数多く報告されています。

 ロタウイルス胃腸炎に対する予防策としてワクチンがあります。わが国では2011年11月にロタリックス、2012年7月にロタテックというワクチンが導入されました。シロップによる経口ワクチンのため、もちろん痛みは伴いません。投与できる期間が限られている点には注意が必要で、「生後14週6日」までに開始することが推奨されています(生まれた日を0週0日と数えます)。

 図をみれば明らかな通り、ロタウイルスワクチンはロタウイルス胃腸炎の予防に大変有効です。このワクチンが普及するにしたがって、ロタウイルス性腸炎で受診するお子さんは全体として激減しました。しかし、残念ながら依然としてロタウイルス胃腸炎の重症例が存在しているのも事実で、その多くはワクチン未接種者です。つい最近も清水区においてロタウイルス胃腸炎の流行があり、当科にもたくさんの子どもたちが受診しました。

 ロタウイルスワクチンの副反応(「免疫がつく」以外の好ましくない反応)としては、腸重積(腸のなかに腸が入り込んでしまう病気)になるリスクが接種10万人あたり1~5人ほど増えるとされています。しかしWHO(世界保健機構)は予防効果のメリットの方が腸重積症発症のリスクをはるかに上回るため、どんなに貧しい国でもロタウイルスワクチンを無料の定期接種ワクチンにするように勧告しています。(“無料”といっても元は税金なので、大なり小なり間接的には払っているのですが)。実際アメリカ・イギリスはじめ世界の多くの国々で定期接種になっていますが、日本では残念ながらまだ定期化されていません。自費の接種となるため、そのことが接種率上昇の足かせとなってしまうようです(静岡県の接種率は45%程度で、ちょうど全国平均くらいのようです)。

 ワクチンは、その病気にかかると大変なことになってしまうため、必死の思いで開発されてきたものです。ごくまれに大変な副反応があることも事実ですが、実際その病気にかかってしまい、悔やんでも悔やみきれない思いにさいなまれているご家族がいらっしゃるのもまた事実です。私たち小児科医は、メリットとデメリットを秤にかけた上で、「受けられるワクチンは、受けられる時期になったらなるべくはやく接種しましょう」とお勧めをしています。ロタウイルスワクチンもまた、その大切なひとつなのです。