読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

集中治療室 科長 高澤研丞

●定義
 熱傷とは、熱などによる生体表層の組織障害であり、熱傷面積が体表の30%を超えるものを広範囲熱傷または重症熱傷と呼びます。広範囲熱傷では局所の損傷のみならず、各臓器や免疫システムの全身障害を与えます。

●種類
 火炎熱傷、高温液体熱傷、接触熱傷、低温熱傷、化学熱傷、放射線熱傷、電撃傷、雷撃傷などがあります。

・熱傷面積分類(図1)
 9の法則・・・成人に用いられます。身体の各部位を11に細分化します。
 5の法則・・・幼児・小児に用いられます。幼児・小児は成人と比べて頭部の面積の比率
        が大きく、下肢の面積が小さいためです。
 Lund&Browderの図表・・・面積を正確に算定します。年齢により身体の各部位の面積の
                占める割合が異なります。
 手 掌 法・・・患者の手掌の面積が体表面積の約1%に相当することにより、熱傷部位が手
         掌の何倍に当たるかを判定します。

 

・熱傷深度分類(図2)
 Ⅰ度・・・表皮に限局するもの
 Ⅱ度・・・浅在性 真皮表層に達するもの
      深在性 真皮深層に達するもの
 Ⅲ度・・・皮下組織あるいはそれ以上に達するもの

●重症度判定
・熱傷指数
  熱傷深度と熱傷面積を組み合わせた重症度の指標で、大きい数値ほど重症度も高くなり、
 10~15%以上を重症熱傷と定義します。また、この数値が増えるほど、直線的に死亡率が
 高くなります。
         熱傷指数 = 1/2 × Ⅱ度熱傷面積(%) + Ⅲ度熱傷面積(%)

・予後熱傷指数
  熱傷指数に年齢を加味したもので、100を超える場合は手術は困難で、70以下の場合は
 重篤な合併症がなければ生存の可能性が高いと言われています。
         予後熱傷指数 = 年齢 + 熱傷面積

・・気道熱傷
  閉鎖空間での煙の吸引、意識障害や顔面熱傷があると高率に合併します。気道熱傷の有無
 は生命予後を大きく左右し、死亡率は最大20%増加します。部位によって上気道型(咽頭・
 声門・咽頭)と肺実質型(気管・気管支・肺胞)に分けられます。
  身体所見において、口・鼻周囲の熱傷、鼻毛が焦げている、口腔・咽頭・手・鼻腔内にス
 スがある、痰、呼吸困難、咳嗽、嗄声(かすれた声)などを認める場合は気道熱傷の存在を
 強く疑います。

<重症度別判定基準>

重症度 転 帰 病  態
軽傷 外来治療 Ⅱ度15%未満、Ⅲ度2%未満
中等症 一般病院に入院 Ⅱ度15~30%未満、Ⅲ度10%未満
重症 専門施設に入院 Ⅱ度30%以上、Ⅲ度10%以上、顔面・手・足・会陰部・主要関節の熱傷、気道熱傷、電撃傷、化学熱傷、生命にかかわる合併損傷

 

●治療
 Ⅰ度・・・日焼けや熱湯・熱性固体に接触した際に発生し、症状は発赤・疼痛が主体です
      流水による十分な冷却、鎮痛剤、軟膏などが疼痛緩和となります。
      ほとんどが1週間以内に再上皮化します。
 Ⅱ度
  ・浅在性・・・浸出液のみ吸引し、再上皮化が起こるまでは水泡膜を除去しません。
         水泡膜が破れてしまっている場合は感染創と考え、愛護的に除去します。
         被覆材を用いて疼痛コントロール、軟膏を用いて感染コントロールします。
         上皮化におおよそ2週間を要します。
  ・深在性・・・上皮化とともに感染コントロールが主体となります。感染を合併している創
         には抗菌力の高い軟膏を使用します。
         上皮化の促進や瘢痕発生、整容性を考慮して手術療法となる場合もあります。
         上皮化は3週間から1ヶ月を要します。
 Ⅲ度・・・抗菌力の高い軟膏、外科的切除、植皮術が必要となります。
      全周性のものは減張切開術が必要となる場合があります。上皮化は期待できません。

●さいごに
 季節は冬に向かって移り変わっていきます。それに伴い、熱を使用する頻度が多くなります。生物が生きていく上で熱は必要不可欠なものです。その反面、悲惨な結果をもたらしてしまうことも十分認識する必要があります。我が国において、火炎熱傷、高温液体熱傷で80%以上を占めています。例えば「小児が布を引っ張りポットが倒れて熱湯をかぶってしまった」、「体力低下した高齢者が火災現場から逃げ遅れた」、「浴槽で動けなくなり長時間熱湯に触れていた」など、危険は身近に潜んでいます。また、冬季には火災熱傷が他の季節の2倍近くになります。これらの病態は、危険予測や確認を確実に行うことで、大部分が回避できます。そのためには、一人ひとりが身近なところから細心の注意を払うことが重要です。