読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

小児科科長 明貝 路子

 みなさんはB型肝炎というとどのようなイメージをお持ちでしょうか?
 あまりなじみのない病気と思われる方もいるかもしれませんし、輸血後肝炎を思い出される方もいるかもしれません。まだ感染症の検査が十分でなかった時代、輸血後に肝炎が起こることが知られ問題になりました。今では、輸血後肝炎の原因はB型肝炎やC型肝炎と判明しています。検査技術の進歩に伴い、日本国内での輸血後肝炎の発症率は非常に低くなっています。

 しかし、B型肝炎はまだ過去の病気ではありません。世界では2.4億人がB型肝炎のキャリア(慢性感染状態)であり、年間78万人がB型肝炎に関連した疾患によって命を落としています。人口に占めるキャリアの割合はアジア、アフリカで高く(8%以上)、北米、北欧、西欧は低い(1%未満)です。日本では約110-140万人(約100人に1人)がキャリアであると推定させています。

 B型肝炎はB型肝炎ウィルスが肝臓に感染しておこり、以下のような経過をたどります。

1) 急性感染(だるい、食欲がない、黄疸などの症状)を起こす
   軽い風邪のような症状で済むこともあれば、重症化(劇症肝炎)することもある

2) 慢性感染(キャリア)になる。10-15%が肝硬変や肝臓がんに進展する 

 どのような経過をたどるかは感染したときの年齢によって異なります。成人ではキャリア化するのは5-10%とされていますが、1-4歳での感染では30-50%が、1歳未満では90%がキャリア化するとされています。キャリアになると自分に症状はなくとも他の人への感染源となります。小児期に感染しなければキャリア化しないかというとそうではありません。近年、成人でもキャリア化しやすい遺伝子型AというタイプのB型感染ウィルスが増えてきています。
 また、以前はキャリアにならなければ完治と考えられていましたが、実はごくわずかなウィルスが肝細胞に潜み続けることがわかってきました。将来何らかの病気などで免疫抑制状態となったとき、このわずかなウィルスが再び肝炎を起こすことがあります。
 キャリアにならないだけでなく、B型肝炎ウィルスに感染しないことが一番です。

 B型肝炎は血液から感染するウィルスで、以前は分娩時の母子感染、輸血、集団予防接種での針の使い回しが主な感染経路でした。これらは母子感染予防のワクチン、血液製剤の検査技術の進歩、使い捨て針の使用で予防できるようになりました。
 ところが、近年B型肝炎ウィルスのキャリアの方の唾液や涙、汗などの体液にも肝炎のB型肝炎ウィルスが含まれ、そこから感染しうるということがわかってきました。B型肝炎ウィルスは、C型肝炎ウィルスの約10倍、HIVの約100倍感染を起こしやすいウィルスです。唾液や涙などの接触が起こりやすい保育園での集団感染や、家族内感染の事例が報告されています。成人では性感染症という側面もあります。

 B型肝炎はワクチンで予防することができます。B型肝炎ワクチンは副反応の少なく、非常に安全性の高いワクチンです。また、若いうちに接種するほど免疫がつきやすいです。免疫獲得率は小児期では95%、40歳未満の成人では90%、60歳の健康成人では65-75%といわれています。WHOではB型肝炎ワクチンを「すべての小児が接種するべきワクチン」の一つに挙げています。
 日本では、これまで母子感染予防としてB型肝炎のキャリアの妊婦さんから生まれた赤ちゃんにワクチンを接種する方針をとっていました。しかし、上記のとおり、母子感染の対策だけではB型肝炎を完全に予防することはできません。日本でもすべてのこどもにワクチン接種すべきという考えが広まってきています。最近は当院でワクチンを接種する生後2カ月のお子さんの約半数がB型肝炎ワクチンを接種しています。
 また成人の方でも、B型肝炎の流行地域に行く予定がある方、周囲にB型肝炎のキャリアがいらっしゃる方、人工透析など欠陥へのアクセスを多く受ける可能性がある方はワクチンを接種しておくことをお勧めします。われわれ医療従事者もワクチンを接種しています。

 まとめますと、B型肝炎はこどものうちに感染するとキャリア化しやすく、成人でもキャリア化しやすいタイプも増えてきています。ワクチンはこどものうちのほうが免疫がつきやすいです。なるべくこどものうちにワクチンを接種しておきましょう。また、成人になってからも感染のリスクは一生を通じてありますので、気が付いたときにワクチン接種をご検討ください。