消化器内科医長 髙栁泰宏
中高年のみなさん、大腸がん検診を受けていらっしゃいますか?
がんを代表とする悪性新生物は、本邦の死亡原因の第1位で、生涯に2人に1人はかかる病気です。大腸がんは、食生活の欧米化に伴い年々増加してきており、がんに占める罹患数(新たにがんと診断される患者数)では、男性3位(1位:胃がん、2位:肺がん)、女性2位(1位:乳がん)、死亡率では男性3位(1位:肺がん、2位:胃がん)、女性1位と報告されています。大腸がんにかかる方は、40歳代から増え始め、高齢になるほど多くなります。
血便、便秘などの症状がでてから発見される大腸がんの多くは進行したがんで、早期のがんでは自覚症状はほとんどありません。大腸がんでは、目に見えなくても微量な血液(潜血)が便に混じることがあり、大腸がん検診では便潜血を2日間調べる検査を行います。
本邦では免疫法というヒトの血液にのみ反応する検査法を用いており、食事、内服薬の制限は必要ありません。食道、胃、十二指腸からの少量の出血は、消化液の影響で変性するため反応せず、その影響の少ない大腸からの潜血に反応します。
大腸がんは常に出血している訳ではなく、便に付着、混入した血液も均一ではないので、病変があっても陰性と判定されることがあります(偽陰性)。2日間検査を行うことで、その精度を上げることができます。2日間の検査のうち、1回でも陽性であれば陽性と判定します。
便潜血検査は陽性か陰性かで評価されますが、実際にはその量を測り、ある数値異常のものを陽性と判定しています。大腸がん検診においては、100ng/ml以上を陽性としています。正常な大腸粘膜からもごくわずかに出血することがあり、便を採りすぎると病変がなくても陽性と判定されることがあります(偽陽性)。
便潜血検査が陽性と判定された場合、精密検査としては全大腸内視鏡検査が第一選択として推奨されています。さらに便潜血検査を追加することには意味がなく、通常行いません。
便潜血検査を受けた方のうち、陽性と判定されるのは6~7%の方で、この内、大腸がんを2-4%、ポリープ等の病変を30-50%に認めます。陰性と判定されるのは93-94%で、この内、大腸がんは0.1-0.2%に認めます。便潜血検査を受けた方全体では、大腸がんと診断されるのは1,000人に1~3人程度ですが、便潜血陽性者の大腸がんの確率は陰性者に比べ10倍高率です。
進行がんでは便潜血陽性率は約80%、早期がんでは約50%と報告されており、逆に言うと、進行がんの約20%、早期がんの約50%は陰性と判定されています(偽陰性)。便潜血陰性でも病気が絶対にないという担保にはなりませんが、毎年、検診を受けることにより、偽陰性のリスクを減らすことができます。また、痔は便潜血陽性の原因になることはありますが、大腸の病気がないとは限りません。痔を患っている方でも便潜血陽性と判定されたら、大腸内視鏡検査を受けましょう。
大腸がんの多くは、腺腫という種類の良性のポリープから発生すると考えられています。5mmを超える腺腫性ポリープは、がんが混入していたり、将来的ながん化に危険があるため、内視鏡を用いた切除が勧められます。大腸がんであっても、粘膜にとどまるがんは転移することがないため、内視鏡で切除すれば治癒することが期待できます。内視鏡治療は、大腸内視鏡検査で病変の発見と同時に行うことができます。ただし、血をサラサラにする薬を内服中の患者様は、内服した状態での切除術は出血の危険があるため観察のみとし、後日、一定期間、内服を中止してから治療を予定する必要があります。
大きな病変や内視鏡操作が難しい部位にできた病変では、手術が必要な時もあります。明らかに粘膜下層の深い部分異常に達するがんでは、転移のリスクがあること、切除すると腸に穴がありたり出血の危険もあることから、内視鏡治療の対象とはならず、組織の少量の採取(生検)のみ行い、顕微鏡の検査(病理組織検査)で良悪性の確認をします。そして、CTなどでがんの広がり、転移の有無を調べ、がんの進行度を評価し、手術が可能かどうかを判断します。
大腸がんは早期発見できれば治癒が期待できる病気です。症状のない早期のものを発見するきっかけは、大腸がん検診です。大腸がん検診は、大腸がんの死亡率減少効果がよく証明されている簡便で負担の少ない検査です。
一度、陰性と判定された方でも、毎年、大腸がん検診を受けましょう。