外科科長 東 幸宏
裂肛(切れ痔)
排便時の痛みと出血が主な症状です。主に肛門の前壁と後壁に好発する肛門の裂創です。経過が数日から1週間程度の急性裂肛と月単位の経過をしめす慢性裂肛があります。慢性裂肛になると潰瘍が深くなり肛門の狭窄症状が出現することがあります。通常、便が固い時に症状が強く、入浴などで温めると痛みが改善することが多いです。
裂肛の多くは、適切な排便習慣で改善することがほとんどです。便意を我慢しないことに加え、便秘の場合は、水分や食物繊維の摂取励行、緩下剤(マグネシウム製剤)の投与で便の状態を柔らかくするようにします。大腸を強く刺激する下剤はあまり適しません。下痢の場合は便の性状を固める薬剤の投与が適切です。また、外用薬の塗布で症状の軽快を期待します。
上記のような治療を継続していても効果がない場合や痛みが著しい場合、慢性裂肛で肛門の狭窄が著しい場合には手術加療をおすすめします。
痔核(いぼ痔)
痔核とは、肛門の静脈の異常拡張あるいは肛門をささえる組織がゆるくなり脱出をおこす病態です。痔核の基本構造の静脈は正常の肛門内にも存在するため出血、脱肛、痛みなどの症状が出現して初めて病気ということになります。
痔核の治療は普段から便通をよくして『いきみ』をさけることが重要であります。外用薬の投与で軽快し、手術を必要としない痔核もたくさんありますが、腫れ上がった痔核が脱出して指で押し戻さなければ戻らない場合、ひどい出血が改善しない場合、あるいは外痔核に血栓ができ痛みが激しい場合など手術による治療をおすすめします。手術は昔ながらの結紮切除術(脱出や出血の原因である痔核を切除する)が一般的ですが、近年になり注射による治療も普及してきています。腫れ上がった痔核の4か所に注射を行って痔核を消退させてしまおうという治療でうす、この治療は、切除することに比べ、痛みが少なく入院機関も短くて済むなどという利点がりあます。
しかし、あまりに大きい痔核や脱出したまま戻らない痔核などには適した治療とはいえず、その場合はやはり結紮切除術を行うのはよいかと思います。
当科では大きな痔核は切除して、小さな痔核は注射で治療するという両者を組み合わせた治療もとりいれています。
痔瘻、肛門周囲膿瘍
椅子に座る時『おしりの片方が浮いてしまう』あるいは『座るのを躊躇する』場合など、肛門周囲に膿の貯留がおきる肛門周囲膿瘍の可能性があります。肛門周囲皮膚から比較的離れた部位に膿がたまった場合には『重い感じがする』などの症状で痛みをあまりともなわない場合もあります。
発熱、肛門周囲が赤くなるなどの症状をともなうことが多いです。肛門のなかにある小さなくぼみ(肛門陰窩)から細菌感染が生じ肛門の働きをつかさどる括約筋間で膿の貯留がおきていることが原因です。この場合、切開排膿という溜まった膿を出す治療が優先されます。膿の排出と抗生物質の投与で症状が改善してそのまま軽快する方もいますが、35~50%の方は『痔瘻』に移行するとされます。痔瘻になった場合は、肛門のなかの小さなくぼみ(1次口)と肛門周囲皮膚の膿の出口(2次口)の間に通り道(瘻孔)ができているので、病状に応じた通り道(瘻孔)の切開開放やくりぬき、あるいは通り道に糸や輪ゴムを通過させる手術加療が選択されることが多いです。肛門周囲膿瘍の症状が明らかでなく痔瘻が生じる場合もあります。