読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

産婦人科科長 岩崎 真也

 みなさんはお子さんの出産時に「夫立ち会い出産」をされましたでしょうか?これから出産を迎える方も多数いらっしゃると思いますが、夫立ち会い出産についてはどうお考えでしょうか?
 「恥ずかしい」「苦しむ顔を見たくない」「何もできないでいる自分が嫌」「血を見るのが怖い」「お産は女性の聖域」など、立ち会い出産を嫌がる旦那さんも多くいらっしゃいます。
 ここで<患者の立場>と<医師の立場>から夫立ち会い出産を考えたいと思います。

<患者の立場から>
「恥ずかしい」
 最近かっこいい男性を指す言葉の一つとして「イクメン」という言葉があります。育児を率先して行う男性、育児を楽しんで行う男性のことを指す言葉です。出産立ち会いが育児の最初、「イクメン」の最初なのではないでしょうか?
 「子供の誕生日」は「親の誕生日」でもあるのです。出産立ち会いは決して恥ずかしいことではなく、かっこいい男になる第一歩、親になるための第一歩だと思われます。

「苦しむ顔を見たくない」
 出産の時、妊婦さんはこれ以上にないほどいろいろな顔を見せます。今まで見せたことがない顔、苦しむ顔、痛がる顔、助けを求める顔、「100年の恋も冷めるような顔」になることもあるでしょう。でもその顔は「100年の愛が始まる顔」になるのではないでしょうか?

「何もできないでいる自分が嫌」
 立ち会い出産をする旦那さんからよく聞くのが「何もできない自分が嫌」といく言葉です。果たしてそうでしょうか?
 清水なのでサッカーの試合を考えるとよくわかると思うのですが、サポーターの力は甚大です。サッカーの試合は選手だけで決まるのではないのです。手を握るだけ、汗を拭くだけでもいいと思います。妊婦さんにとって、旦那さん以上のサポーターはいないと思います。

「血を見るのが怖い」
 男性は生理がないため血に弱い方が多いです。この場合、夫立ち会いはおすすめしません。

「お産は女性の聖域」「男子厨房ニ入ルベカラズ」
 台所には決して入らない男性は立ち会い出産には向かないかもしれません。しかし、そういう方こそ立ち会い出産に携わることにより新しい世界が見えてくると思います。

 

<医師の立場から>
2013年の当院のデータをお示しします。

立ち会い出産率 50%
平均出産年齢 31歳
平均初産年齢 29歳
平均出産数 1.8人
帝王切開率 32%
高齢妊娠(35歳以上)率 27%
分娩後小児科管理入院(うち小児病棟入院率) 37%(16%)
早産率 5%

 私が産婦人科医になった23年前は「30歳以上が高齢出産」という定義でした。当院では平均初産年齢は29歳ですが、全国平均は30歳になりました。今では「35歳以上が高齢出産」となり、35歳以上の高齢出産の妊婦の割合は27%の時代となりました。4人に1人が高齢妊娠の時代です。
 帝王切開も昔は10%くらいだったのですが、今はその3倍、3人に1人の時代になっています。何をいいたいかというと「ハイリスク分娩が増えている」ということです。
 当然高齢な方は体力がありません。「出産時に疲れ果ててしまうケース」が度々あります。出産時に緊急で医療介入(帝王切開、陣痛促進剤、吸引分娩など)が必要になるケースが増えているのです。そして出産後3人に1人が小児科管理入院になる時代です。
 医師の立場から見た場合、緊急時に夫立ち会い出産だと、夫と相談し方針決定がやりやすくなるというメリットがあります(本人は疲れ果ててしどろもどろになる場合が多いのです)。
 お産をブラックボックスにしてはいけません。特にハイリスク妊娠、体力に自信のない方は夫立ち会い出産をおすすめしています。夫立ち会い出産にしてもらうと、緊急時に冷静な判断はでき安心・安全・納得なお産に臨めると考えているからです(ただし、分娩の状況によっては立ち会い出産をご遠慮いただくケースのありますのでご了承ください)。