読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

2014.01.01

呼吸器内科科長 土屋 智義

肺炎による死亡率

 日本の2011年における死亡統計をみると、肺炎は死因の第3位となっています。人類の歴史はまさに感染症との戦いであったといっても過言ではなく、ペニシリンが開発されて以来、抗生物質の発展によって感染症が克服され寿命が延びてきているといえます。
 しかし、医療の進歩とは逆に日本の人口10万人当たりの肺炎による死亡率をみると確実に増え続けています。肺炎はどんどん重症になっているのでしょうか?肺炎えの死亡率を、年連調節をした上で年齢階級別でみてみると別のことが見えてきます。1980年以後、多少の増減はありますが、ほぼ横ばいか減少傾向にあります。年齢階級別にみれば死亡率は少しずつ減少傾向にあるものの、80歳を超えるような高齢者での死亡率が高く、高齢者が加速度的に増加しているため、全体としての肺炎での死亡率を押し上げてしまっているのです。

肺炎の要因

 肺炎の原因を大きく分けると病原微生物が体の中に入ることによって起こる肺炎と、食べたものや唾液が誤って気管に入ってしまうこと(誤嚥)で起こる誤嚥性肺炎に分けられます。
 加齢により、ものを飲み込む働き(嚥下機能)が低下することで誤嚥性肺炎は起こります。80歳を超える高齢者で特に問題となるのはこの誤嚥性肺炎であり、食事を止めることで一時的に改善しても、もとにある嚥下機能の低下は治すことができないため、すぐに繰り返しなかなか治らず、しばしば致死的になります。
 死亡統計では、これらの肺炎の区分がないため、すべて「肺炎」として集計されており、高齢者での肺炎は誤嚥性肺炎が占める割合が増えるために死亡率が高くなってしまいます。しかし、このような誤嚥する状態は加齢による変化であり、病気として考えるのは不自然で、老衰による天寿ととらえた方がよいのではないでしょうか。死亡統計で誤嚥性肺炎が老衰に分類されると、肺炎の死亡率の状況はかなり変わってきます。

肺炎の予防

・誤嚥性肺炎の予防
 高齢者での肺炎は誤嚥性肺炎が問題となるため、これを予防することが高齢者の肺炎全体として重要になると考えられます。
 誤嚥性肺炎を予防する方法としては、嚥下機能に対するリハビリや、就寝時の体位を工夫すること(上半身の拳上)、また口腔内細菌叢の改善のために口腔ケアをしっかり行うことなどがあります。口腔ケアで誤嚥が良くなるわけではありませんが、ある特別養護老人ホームで口腔ケアを専門的に行った群とそうでなかった群を比較すると、発熱者数、肺炎にかかった人の人、肺炎で亡くなった人の数が、2年間で約50%少なくなったという報告があります。口腔内の衛生状態はそれだけ重要だと考えられます。

・細菌性肺炎の予防(ワクチン接種)
 細菌性肺炎を予防する方法にワクチン接種があります。現在、日本で肺炎に対し予防効果が認められ、使用することができるワクチンとして、肺炎球菌ワクチンがあります。肺炎を起こす病原微生物はたくさんあり、残念ながらこれら肺炎を起こすすべての病原微生物に効果があるワクチンはありません。
 肺炎球菌ワクチンは、その名の通り肺炎球菌というひとつの細菌に対してしか効果がありませんが、肺炎球菌によって起こる肺炎は細菌性肺炎全体のだいたい30%と言われており、これを予防するだけでも意味は大きいと考えられます。このワクチン接種で肺炎球菌による肺炎にかかることを完全に防げるわけではありませんが、かかった場合でも重症化して死亡する確率を下げることが証明されています。

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