読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

2013.09.01

神経内科科長 伊藤敦史

 社会の少子高齢化は世界的な趨勢ですが、中でも日本は突出しています。認知症は加齢が最大の要因であり、今後ますます増加するこが予想される一方、少子化で介護の担い手である若者は少なくなりつつあり、将来が憂慮される事態になっています。2009年から翌年にかけて行われた全国的な調査では、65歳以上の人の14.4%(2008年の人口で推計すると406万人)が認知症であると報告されました。2020年には535万人、2030年には643万人になると推計されています。

 認知症にならないためにはどうすれば良いのでしょうか。紙幅の都合上、食事についてのみ述べます。まず、高血圧や糖尿病があると格段に発症しやすくなるので、それを避けることが大切です。日本食は優れた長寿食ですが、塩分が多めであり高血圧になり易いのが欠点であり、減塩を心がけるようにしましょう。糖尿病は、体質も関連しますが、カロリーの摂りすぎが大いに影響しますので、食べ過ぎは禁物です。カロリーを制限した食事は長寿遺伝子を活性化させることで様々な生物において寿命を延長させる効果が確認されています(ヒトについては、まだ確定していません)。呆けずに120歳まで元気に生きた、男性としては歴史上世界最長寿者である泉重千代さんも、食事は「腹八分目か七分がいい」とおっしゃていたそうです。

 ただし、過度の食事制限は禁物です。体重減少が認知症の発症に先行しておきるとか、発症後体重が減少する人は認知症の進行が早いなど、低栄養が認知症の要因のひとつであると解釈できる研究報告があります。高齢者には低栄養状態の方も多いので、しっかりと栄養を摂ることはとても重要です。

 食事の内容については、魚、野菜、果物の摂取が多い方が、少ない人よりも認知症になりにくいと言われています。魚は、含まれているドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエン酸(EPA)という成分が防御的に働いていると考えられています。
 そうはいっても、サプリメントとして販売されているDHAやEPAを服用しても、認知症を予防できるという結果は出ていません。あくまで食品として摂った場合に限られます。これはビタミンについても当てはまり、抗酸化物質として脳を保護する作用が期待されるビタミンC・Eやβカロテンは、それを多く含む食品をたくさん摂っている人ほど認知症になりにくいという報告がある一方、サプリメントとして投与した研究では、かえって死亡率が増えたとするものが複数あります。

 魚が良いと書きましたが、食べれば食べるほど良いかと言うと、これはわかりません。海外の研究結果から類推しているのですが、日本人はもともと魚を多食する民族であり、ある一定の量以上に食べても効果がない可能性があります。また、肉に関しては、そればかりに偏らなければ食べても構いません。肉は脂肪を多く含むので体に悪いという人もいますが、世界中の国々の人の食と寿命を比較した研究では、ある程度までは脂肪摂取量と寿命が比例してぞうかしていますので、食べ過ぎなければむしろ体に良いと言えます。

 最も重要なことは、好きな物ばかりを毎日同じように食べ続けるのではなく、多様の種類の物をバランスよく摂ることです。日によって、煮る、炒めるなどの調理方法に変化を持たせるのもよいでしょう。食に関しては、あまり偏らず万遍なくということを心がけるようにしてください。