読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

小児科科長 上牧 務

 おたふくかぜが引き起こす難聴として「ムンプス難聴」というものがあります。ムンプス(mumps)とは、おたふくかぜのこと。おたふくかぜが、髄膜炎や睾丸炎を起こすことはよく知られていますが、難聴については”稀な合併症”という認識しかこれまで持たれていませんでした。しかし、ムンプス難聴の合併症が予想されていた以上に高く、しかも一旦起こるとまず治らないことが判明し、その対策が重視され始めています。

 ムンプス難聴の特徴は、①おたふくかぜの発症4日前から発症18日後の間に起こる、②片側の耳がほとんど聞こえなくなる、③有効な治療法がなく自然治癒も難しい、の三点です。
 従来、おたふくかぜにかかった1.5~2万人に1人の頻度とされていましたが、日本における疫学調査により、その10倍以上高率に起こるであろうことが明らかにされました(400~1,000人に1人)。また、15歳以下、特に5~9歳の患者に発症しやすいといわれています。後天性難聴の原因として第一位です。
 これまで少なく見積もられていた理由は、1)片耳だけなので気付きにくい(健診で初めて見つかるケースも多々あります)、2)おたふくかぜが、不顕性感染(耳下腺が腫れずにすむ)に終わると難聴との関連が分かりにく、3)小児科と耳鼻科にまたがるため、双方の関連が気付かれない、などが挙げられます。
 子どもを持つ保護者と医療関係者がムンプス難聴を正しく理解することが、この病気を克服する第一歩と言えましょう。ムンプス難聴では、重度になると聴力が急激に低下し、高い音が聞き取りにくくなります。おたふくかぜになってしまったときに難聴になっていないかを調べる方法として、耳元で「指こすり」がありおます。「指こすり」は高い音域で小さな音です。もし、「指こすり」で聴力の低下がみられたら、耳鼻科の先生の診断を受けましょう。

 ムンプス難聴を避ける手段は予防接種です。欧米の先進諸国は、MMR(麻疹・おたふくかぜ・風疹)ワクチンの2回接種を徹底することで、おたふくかぜの撲滅にすでに成功しています。当然、ムンンプス難聴も発生しません。
 しかし、日本では、ワクチン接種率が30%台と低いために、年間100~200万人の子どもがおたふくかぜにかかっています。ムンプス難聴は年間に300~650人が報告されています(実数はもっと多いと見込まれます)。

 日本は予防接種に関して、世界に取り残された後進国です。おたふくかぜのワクチンも任意接種(国の責任で行わない、有料)の扱いです。ワクチンの欠点は、効能が必ずしも万全でないことで、接種してもおたふくかぜにかある子どもがいます。しかし、合併症としての無菌性髄膜炎や難聴は、ワクチン接種後にかかったおたふくかぜでは極めて稀です。軽症化という意味で、ワクチンを接種する意義は十二分にあります。

 保護者の方々には、①おたふくかぜに「自然にかかればよい」という認識を捨てる、②真に怖い合併症は髄膜炎や睾丸炎よりも難聴である、③ワクチンは完璧とは言えないまでも唯一の防衛手段である、の三点をお伝えいたします。当院小児科は、おたふくかぜの流行を阻止することに微力ながらも貢献したいと考えています。

 なお、わが国では、おたふくかぜワクチンの接種率が30%台と低く、年中どこかでおたふくかぜが流行しています。そのため、ワクチンを接種したにも関わらず、おたふくかぜにかかることが少なくありません。免疫を早期につけ確実に長持ちさせるために、ワクチンを1歳時と就学前の2回、MRワクチンと同時に接種することがお勧めいたします。

 「おたふくかぜのワクチンって効くんですか」という質問を受けることがよくあります。有効率は70~90%です。ワクチンの効果が現れにくい人、ワクチンの効果が数年しか続かない人が各々10%前後います。しかし、もしもワクチン接種後におたふくかぜにかかっても、多くの場合、症状は軽くて済みますし、各種の合併症にもかかりにくくなります。
 合併症の頻度を下の表にまとめました。ワクチンの有用性がお分かりいただけると思います。

 

☆自然感染の症状とワクチンの合併症

合併症 自然感染 ワクチン後の感染
無菌性髄膜炎 1~10% 0.01~0.15%
脳 炎 0.02~0.3% 0.0004%
難 聴 0.01~0.5% 不 明
精巣(睾丸)炎 20~40% ほとんどなし
卵巣炎 4% ほとんどなし
膵 炎 4% ほとんどなし

庵原俊昭 臨床と微生物 32:481-484,2005

 

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