読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

放射線治療科科長 尾崎正時

 癌の転移というと、どのような印象を受けますか?癌が全身に転移し、余命いくばくもないという感じでしょうか。しかし、必ずしもそうではないのです。
 オリゴとは「少ない」という意味で、メタスタシスは「転移」です。癌の治療中、治療後に転移が見つかっても、それが1、2個と数が少ない場合、このような表現をします。
 こういった転移は、積極的に治療することで余命が伸びることが知られています。そして、治療後しばらくして、また1、2個の転移が別の場所に出てくることがあるのですが、これも治療することで余命が伸びます。全身に転移してきていることは間違いないのですが、一つ目の転移が見つかってから、二つ目の転移が出てくるまでの時間が非常に長いのです。大体、1年から数年の間隔で出てきます。
 転移は放っておくと大きくなり、つらい症状を出したり、内臓の機能を低下させることがありますので、あまり大きくならないうちに治療してしまいます。出てきたら治療するというモグラたたきのような方法でも、オリゴメタスタシスは治療可能です。
 高齢の方が多いので、そのうちに別の病気で亡くなられるということも稀ではありません。

 さて、こういう転移の治療には、放射線治療が有効です。手術や化学療法でもよいのですが、すでに何回か手術をしていて手術できなかったり、何回か化学療法をしていて抗癌剤が効かなくなっていることがしばしばあります。
 放射線治療は、こういった場合でも有効です。特に定位放射線治療といって、病変に多方向からピンポイントで照射する方法だとよく治ります。定位放射線治療とは、「高精度に位置を定めた」照射方法です。
 現在は、脳腫瘍、肺癌、肺転移、肝癌、肝転移に対して主に行われていますが、それ以上の場所を治療することもあります。

 定位放射線治療では、クリアしなければいけないことがいくつかあります。まず、どうやって病変に狙いを定めるかということです。CTで病変を確認し、皮膚に印を書いておいても、CTの寝台から放射線治療の寝台に移った時点で、数ミリから数センチの誤差が出てしまいます。
 当院の治療装置は、CT一体型なので、患者さんを移動させずに治療することができます。照射前にCTを撮り、病変の位置を確認、誤差を補正し照射します。こうすることで正確な照射が行えます。

 次に胸部、腹部では、呼吸で病変が動くという問題があります。横隔膜付近では、大体2~5cmの動きがあるのが普通です。病変自体が数センチですので、2cmも動いたら放射線が外れてしまいます。
 いろいろな解決策があるのですが、当院では息止め照射を行っています。患者さんに息を止めてもらい、その間だけ照射する方法です。同じ深さで息を止めているかどうかは、呼吸の深さをモニターする機械でチェックしています。通常の照射より時間はかかりますが、正確な照射が可能になります。
 また、転移のそばには放射線に強くない臓器が存在することがあります。一般に放射線の治療効果は、回数が少なく、1回の放射線の量が多く、治療期間が短いほど良く効きますが、副作用も強くなります。
 逆に1回の量を減らし、回数を増やすことで副作用を防ぐことができます。しかし、治療期間は6週間以内に終えないと効果が弱くなるので、無制限に日数を増やすわけにはいきません。
 当施設では、副作用が懸念され、回数を増やしたい場合には、通常1日1回の照射を1日2回に分けています。こうすることで、十分な効果を得ながら副作用を軽くすることができます。
 癌が転移した場合、オリゴメタスタシスなら放射線治療を検討してみてください。

 

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