読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

口腔外科科長 池内忍

 最近、日本人の二人に一人が生涯に一度はがんにかかり、三人に一人ががんで命を落とすと言われています。どこのがんが多いかと言いますと、男性では胃がんが最も多く、大腸、肺と続きます。女性では乳房、大腸、胃の順です。

 さて、口の中にもがんができることをご存知でしょうか。
 口の中にできたがんを口腔がんと呼びますが、日本ではその頻度は少なく、全部のがんの2~3%といわれています。ところが、どのがんにもお国柄があり、インドではがんの30%が口腔がんですが、それには理由があり、噛みタバコを嗜好する人が多いからだといわれています。その証拠に右側で噛みタバコをかむ癖のある人は、右側の口の中にがんができます。口腔がんのリスクに喫煙と飲酒があげられますが、両方を日常的に好む人は、どちらか一方の人の20倍も口腔がんになりやすいことがわかっていますので、タバコを吸いながらお酒を飲む人はご注意ください。

 口腔がんではできた場所により、舌がん、歯肉がん、口底がん、頬粘膜がん、口蓋がんという風に呼びます。口腔がんは進行すると、例えば舌がんであれば舌を全て手術で切り取ることもあります。切り取った部分は、胸やお腹の皮膚と筋肉で埋めますが、もちろん動くわけがなく、命は助かっても、食べる、しゃべるという人間にとっての基本的な機能が大きく損なわれることになります。

 どこにできたがんであれ、早期発見が大切なことに変わりありません。口腔がんであれば、ステージⅠと呼ばれる2㎝以下の場合、9割以上はきちんとした治癒が望めます。また、この段階であれば、手術で幹部を十分に切除しても、通常は食べたり、しゃべったりすることに支障がほとんどありません。
 幸いなことに、口の中はどなたでも自分でチェックすることが可能な場所です。つまり、口腔がんは、ほとんど唯一自分で早期発見ができるがんなのです。
 では、具体的にどうすればよいのでしょうか。その前に、みなさんは自分の口の中をじっくり見たことがあるでしょうか。歯が痛ければ歯を、舌が痛ければ舌を出してみることはあっても、口の中全体をじっくり見ることはあまりないのではないでしょうか。

 まず、大きくアーンをして鏡を見てください。口腔は、舌・歯肉・口蓋・口底・頬粘膜・口唇粘膜からなっています。口腔がんは見た目には様々な形で現れます。潰瘍・カリフラワー状・赤くまだらな帯状・噴火口状などです。
 痛みはあったり、なかったりです。舌がんは、なぜか舌側縁と呼ばれる側面か、舌下面と呼ばれる下面にできます。歯肉がんは、上あご・下あごとも奥歯の歯肉が多いようです。口内炎なので直に治ると思っていた、歯槽膿漏の歯茎の腫れだと思っていた、口の中は放っておいても治ると思っていた、など、せっかくがんを自分で発見しているにも関わらず、放置して進行がんにならないためにも、自己検診を時々してみてはいかがでしょう。

 

【口腔がん セルフチェックリスト】

□ 舌や歯肉などの粘膜に白っぽい部分や赤みがかった部分がある
□ 口腔内が2週間以上経っても治らない
□ 粘膜の表面に目立った傷はないのに、硬いしこりや腫れがある
□ 何もしてないのに粘膜が破れて出血している、またはえぐれている
□ 舌が動かしづらい
□ 下唇や下あごがしびれている
□ 首のリンパ腺の腫れが3週間以上続いている