読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

リハビリテーション科科長  坂元隆一

リハビリテーション(以下「リハ」)では、障害者の機能、活動、参加、QOL※をできる限り高めることを目標としています。栄養状態が良好で栄養管理に全く問題がなければ、栄養を考慮せずにリハに専念できます。実際、栄養を考慮しないリハであっても、今まで多くの成果を出してきました。
しかし、高齢社会の進行や医療の進歩などの影響で、リハの対象となる障害者や高齢者に低栄養をよく認めることが、細菌、明らかとなってきました。

※QOL・・・Quality Of Life 『生活の質』と訳され、人間らしく、満足して生活しているかを評価する概念です。

☆サルコベニアとリハビリテーション栄養☆
 人間の身体は、あらゆる部分で使わなければ、その機能は低下してしまいます。病気になると、発熱や腹痛といった各疾患に応じた様々な症状を認め、そのために安静を余儀なくされることが多いです。安静期間が長くなれば長くなるほど、身体の機能は衰え(廃用症候群)、筋肉はサルコベニア(筋減弱症)という状態に陥り、日常生活に戻るためにリハを必要とすることがあります

☆なぜ、経腸栄養が勧められるのか☆
 消化管も使わなければ機能が低下します。すなわち、消化管を長く使わないでいると、腸管粘膜が萎縮し、腸管粘膜の防御機構が破綻すると免疫能が低下します。その結果として、感染性合併症が増加してしまいます。
 低栄養を改善する目的で、短期間なら静脈栄養も有用ですが、長期に及ぶと経腸栄養の方が望ましいのです。以下がその理由です。
 経腸栄養は、静脈栄養と比べ生理的な栄養投与経路であり、消化管の本来の機能を維持することができます(腸管の絨毛も萎縮せず機能します)。消化管とは、食物を消化し栄養素を吸収する臓器であると同時に、免疫臓器として生体の免疫能を調整する機能も有しています。
 人間の腸内には、1人あたり100種類以上、100兆個以上の腸内細菌が生息しており、糞便のうち約半分が腸内細菌またはその死骸であるといわれています。腸内細菌のなかには、ウェルシュ菌に代表されるClostridium(クロストリジウム)属や大腸菌など、いわゆる悪玉菌と呼ばれる病原性を持つ菌がいます。腸内粘膜が萎縮してしまうと、これらの悪玉菌を腸内に留めておくことができず、体内への侵入を許してしまいます。腸を使わずにいること自体、感染症のリスクになると考えておいた方がよいでしょう。経腸栄養を行い、消化管の健康を維持しておくことで、これらの悪玉菌を制御することができるのです。

バクテリアル・トランスロケーションを防ぐ☆
 感染性合併症においては、特にバクテリアル・トランスロケーション(bacterial translocation)という概念が重要です。
 バクテリアル・トランスロケーションとは、”腸内の防御機構が破綻することで、腸管内に常在する細菌やその毒素が腸管の粘膜細胞を通過し、腸間膜リンパ節、肝臓、脾臓、腹腔内、肺、あるいは血中など、体内に侵入する現象”のことをいいます。
 最後に、経腸栄養の利点について、下にまとめてあります。経腸栄養を行うことは、栄養を投与するだけでなく、消化管を成城に機能させるためにも必要であることを認識していただければ幸いです。

 

・経腸栄養の利点・
腸管粘膜の萎縮予防
バクテリアル・トランスロケーションの予防
腸管の蠕動運動(ぜんどううんどう)の正常化
消化管ホルモンの分泌刺激
胆汁うっ滞の予防
中心静脈栄養に伴う感染性合併症の回避
代謝を司る重要臓器としての腸管機能の維持
全身の免疫能の維持
侵襲からの早期回復