読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

産婦人科 尾本恵里菜

風疹(ふうしん)という感染症をご存じでしょうか。若い体力のある方がかかった場合、ただの風邪で済むこともあるウイルス感染です。
しかし、妊娠中の女性が感染するとおなかの中の赤ちゃんに深刻な影響を及ぼすことがあります。特に、妊娠初期(妊娠20週未満)に風疹ウイルスに感染すると、赤ちゃんに先天性風疹症候群が発生するリスクが高まります。先天性風疹症候群により、おなかの中の赤ちゃんに引き起こされる深刻な障害は以下です。

1. 聴覚障害:聴力が低下するか、全く聞こえなくなることもあります。
2. 視覚障害:白内障や緑内障などの眼の異常、さらには視力の低下が見られることがあります。
3. 心疾患:先天性心疾患(心臓の構造異常)が発生することがあります。

このような障害を起こしうる先天性風疹症候群を予防する方法は、風疹に対する予防接種と感染予防しかありません。
妊娠4~6週の妊婦さんが風疹にかかると、おなかの中の赤ちゃんは100%の確率で先天性風疹症候群にかかると言われています。しかし妊娠4~6週というと、まだ自分の妊娠にも気がつかない妊婦さんも多くいらっしゃる時期ですので、感染予防といっても現実的ではありません。やはり、予防接種の重要性が高まってきます。

ところで、成人が感染するとどのような症状が現われるのでしょうか。以下に挙げますが、軽度の風邪症状で治まる場合も少なくありません。

1. 発疹(皮疹):ピンク色または赤い小さな発疹が顔や首から始まり、体全体に広がります。発疹は通常、数日から1週間ほどで消えますが、痒みを伴うことがあります。
2. 発熱:軽度から中程度の発熱(38度程度)が見られることがあります。
3. リンパ節の腫れ:特に耳の後ろ、首の後ろ、後頭部にあるリンパ節が腫れることがあります。この腫れは痛みを伴うことが多く、数週間続くことがあります。
4. 全身のだるさ:倦怠感や疲労感があり、風邪のような症状が見られることがあります。
5. 筋肉痛・関節痛:大人の場合、関節痛や筋肉痛が見られることがあります。特に、女性では関節の痛みがしばしば報告されます。
6. 目の炎症(結膜炎):軽度の結膜炎が起こり、目が赤くなったり涙が出たりすることがあります。

●潜伏期間
風疹の潜伏期間は通常14~21日で、感染しても症状が出ないこともあります(不顕性感染)。感染しても症状が非常に軽い場合も多く、そのため気付かずに他者に感染させることがあります。

先天性風疹症候群の発症件数は、風疹の流行と予防接種の普及状況に強く依存しています。
日本では2012年から2013年にかけて大規模な風疹の流行が発生し、それに伴い先天性風疹症候群の発症件数も増加しました。2013年には風疹患者が約14,344人に達し、 先天性風疹症候群の報告も45件にのぼりました。
その後予防接種の推進や啓発活動が進んだ結果、2013年以降は風疹の流行が収束し、先天性風疹症候群の発症件数は年間5例以下になっています。
ただ、今後、風疹や先天性風疹症候群の恐ろしさが風化してしまえば、風疹に対し抗体を持つ人の割合が減って大流行が再び起こる可能性もあるでしょう。

●予防方法
最後に風疹と先天性風疹症候群の予防法を確認していきましょう。
最も効果的な方法は、予防接種(MMRワクチン:麻疹、風疹、おたふく風邪の三種混合ワクチン)です。妊娠を計画している女性は、事前に風疹に対し抗体が充分にあるかを確認し、必要に応じてワクチンを接種することが推奨されます。

風疹ワクチンは他のインフルエンザワクチンなどと異なり生ワクチンのため、 妊娠中は風疹ワクチンを接種することができません。妊娠前に確認しましょう。
多くの市区町村で、無料で風疹の抗体検査を受けることができます。妊娠を考えている女性とそのパートナーは是非お住いの市区町村のホームページを覗いてみてくださいね。