消化器内科 杉山智哉
【はじめに】
便秘はみなさんにとってとても身近でありふれた症状だと思いますが、生命予後にも関係するような重要な病態でもあります。
【便秘とは】
最新の慢性便秘症診療ガイドラインでは、便秘は「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便(とふんじょうべん)・硬便(こうべん)、排便回数の減少や糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感,排便困難感を認める状態」と定義されています。簡単に言ってしまえば、便は出ても『すっきり』便が出ない状態と言えるでしょう。また慢性的に続く便秘のために『日常生活に支障をきたしたり、身体にも様々な支障をきたしうる』場合、慢性便秘症と定義されます。慢性便秘症では直腸潰瘍(ちょくちょうかいよう)、糞便性腸閉塞(ふんべんせいちょうへいそく)、消化管穿孔(しょうかかんせんこう)といった消化器疾患だけではなく、冠動脈性疾患、脳卒中、神経変性疾患などの全身疾患の発症リスクを上昇させるため注意が必要です。
【原因は?】
便秘の原因は多岐にわたり、以下のような要因が考えられます。
• 食事: 食物繊維の不足や水分摂取の不足
• 運動不足: 腸の動きが鈍くなる
• ストレス: 自律神経の乱れ
• 薬の副作用: 一部の薬剤が便秘を引き起こすことがある
• 病気: 大腸がんや過敏性腸症候群など
大腸がんなどの疾患も隠れている可能性もあるため、長引く場合には一度かかりつけ医にご相談していただくことも重要です。
【治療法について】
治療の基本は生活習慣の改善と緩下剤(かんげざい)による治療です。
□生活習慣の改善
便秘の根本的な解決には、以下のような生活習慣の改善が推奨されます。
• 食事: 食物繊維を多く含む食品(野菜、果物、全粒穀物など)を摂取する
• 水分摂取: 十分な水分を摂る
• 運動: 定期的な運動を行う
• ストレス管理: リラクゼーションや趣味を楽しむ
□緩下剤による治療法
便秘の治療法として、生活習慣の改善が基本ですが、緩下剤を使用することもあります。緩下剤は、便を柔らかくし、排便を促す薬です。以下に、主な緩下剤の種類とその作用を説明します。
1.膨張性緩下剤
• 例: ポリカルボフィルカルシウム等
• 作用: 水分を吸収して膨張し、便の量を増やして腸の動きを促進します。自然な排便を促すため、比較的安全です。
2.浸透圧性緩下剤
• 例: ラクツロース、酸化マグネシウム等
• 作用: 腸内の水分を引き込み、便を柔らかくします。即効性があり、急性の便秘に効果的です。
3.刺激性緩下剤
• 例: センナ、ピコスルファートナトリウム等
• 作用: 腸の神経を刺激し、腸の動きを活発にします。即効性があります。
これらと異なる種類の新しい緩下剤が出てきており、効果が乏しい場合、さらなる追加治療が可能となっています。
便秘は多くの人が経験する問題ですが、適切な対策を講じることで改善が期待できます。緩下剤の使用は一時的な対策として有効ですが、根本的な解決には生活習慣の見直しが重要です。なかなか症状が改善せず、お悩みであれば一度かかりつけ医に相談してください。