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患者さんのための機関誌「きよかぜ」

産婦人科 三浦あかり

妊娠がわかってから出産までの間に、妊婦さんは14回程度の通院が望ましいとされています。これまであまり病気をしたことがない人にとって、1年足らずの妊娠期間中で14回もの通院は非常に時間や手間のかかることに感じるかもしれません。しかし、病院で定期的に妊婦健診を受けることは、赤ちゃんとお母さんのどちらにとっても大切なことです。

現在、日本における赤ちゃんの周産期死亡率(生まれた赤ちゃんに対する、妊娠22週から生後1週未満で亡くなった赤ちゃんの数)は、1000人あたり3.3人となっています(2022年 厚生労働省調べ)。しかし、未受診妊婦(出産まで病院を受診しなかった妊婦)を対象にした日本における赤ちゃんの周産期死亡率は、1000人あたり19.8人となっています。定期的な病院受診をしたかどうかで、赤ちゃんの死亡率には約6倍もの差が生まれるのです。

妊婦健診では、血圧や体重のチェック、尿検査、経腟超音波などでお母さんの体の状態を把握し、赤ちゃんが順調に育つ環境にあるかを予想します。数回の血液検査や腟内の細菌検査も適宜行います。また、経腹超音波で赤ちゃんの大きさや様子を観察し、実際に順調に育っているかどうか、明らかな異常がないかどうかを見ます。このような検査の中で、正常でない所見がある場合には、適宜介入や治療を行い、他科とも連携をとりつつ妊娠経過を見ていきます。また、それ以外にも助産師や医療ソーシャルワーカーなどのさまざまな職種の方と協力を図り、赤ちゃんとお母さんが無事に出産を乗り越えられるよう全面的にサポートを行っていきます。

当院における、一般的な妊婦健診の流れについて以下でご紹介します。
妊婦健診は各妊婦さんの状況に合わせて行っているため、個人差があります。また、病院によっても内容が異なる場合があります。

<妊娠初期〜24週>
受診間隔は4週間に1回程度です
・(初回の受診)尿検査で妊娠反応陽性を確認します。
・経腟超音波で胎児心拍や大きさを確認し、出産予定日を決定します。
・妊娠初期の検査として、血液検査、腟培養検査、子宮頸部細胞診を行います。
血 液 検 査:感染症や貧血がないか、肝機能・腎機能などの臓器の機能に異常がないかを調べます。
腟培養検査:赤ちゃんの通り道である腟に、感染症の元となる細菌やウイルスがいないかを調べます。
子宮頸部細胞診:子宮頸癌の検査です。
・妊娠20週前後で胎児スクリーニング検査を行います。通常の妊婦健診よりも詳細に経腹超音波検査を行い、赤ちゃんの状態に異常がないかをチェックします。

<妊娠24週〜妊娠36週>
受診間隔は2週間に1回程度です
・(一部の方のみ)血糖が高い場合には、妊娠糖尿病の可能性もあるため、詳細の血糖検査を行います。
・妊娠28週〜29週前後で、妊娠中期の検査として血液検査を行います。初期の血液検査の結果と比較し、貧血等がある場合には適宜内服を行います。

<妊娠36週〜妊娠40週>
受診間隔は1週間に1回程度です
・妊娠36週前後で、妊娠後期の検査として血液検査、腟培養検査、肛門培養検査を行います。
・NST(ノンストレステスト)を行います。お母さんのお腹にセンサーを装着し、子宮収縮の有無や赤ちゃんの心拍を見ることで、赤ちゃんの健康状態を把握します。
・場合によっては内診を行います。手や指で、赤ちゃんの出口である子宮口の状態を確認し、出産が順調に進みそうかどうかを確認します。

<妊娠40週〜出産まで>
受診間隔は1週間に2回程度です
・出産予定日は妊娠40週0日ですが、予定日を過ぎても生まれない場合があります。受診の頻度を増やし、より細かくお母さんと赤ちゃんの経過を見ていきます。
・なかなか出産まで至らない場合には、入院し適切な薬剤を使用して分娩を促します。

上記の健診内容に合わせ、血圧測定、体重測定、尿検査を毎回行います。妊娠中に発症しやすい糖尿病や高血圧を見逃さず、適切な治療を行うためです。また、定期的に経腟超音波や経腹超音波検査を行い、子宮頸管の長さや赤ちゃんの大きさを測定し、早産のリスクがないか、赤ちゃんは順調に成長しているか、などを確認します。
不安なことや気になる症状があれば、受診日でなくてもご連絡をいただければ対応します。

定期的な受診を行わなかった場合、受診していれば早く気付けたはずの異常を見逃し、気付いた時には赤ちゃんやお母さんに大きな負担がかかっている可能性があります。また、これまでに病院を受診していない妊婦が突然分娩になっても、私たち医療者はお母さんや赤ちゃんの健康状態を把握できていないため、適切なサポートができない可能性が高まります。
妊娠が判明したら、定期的に妊婦健診を行い、無事に出産を迎えましょう。産婦人科一丸となってサポートさせていただきます。