読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

脳神経外科 医長 大石裕美子

【特発性正常圧水頭症とは…手術で改善する認知症です】
高齢化の進展とともに日本でも認知症の患者さんが増えています。2025年には高齢者人口の約20%、高齢者の5人に1人が認知症になると推計されています。介護の負担も大きくなることから社会的な課題にもなっています。
認知症の原因疾患としては、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、脳血管性認知症が大部分を占めますが、中には手術で改善できる認知症として知られる“特発性正常圧水頭症”という病気があります。特発性正常圧水頭症が疑われる患者は、現在37万人以上いることがわかっています。しかし、この病気は今まであまり注目されておらず、診断・治療されないままになっていることが多いのです。

【特発性正常圧水頭症の病態】
原因は特定できないにもかかわらず脳室の拡大が認められ、歩行障害・認知症・尿失禁の症状が進行する病気です。脳室の拡大により、周囲の脳組織を圧迫することで症状が進行していきます。

【正常圧水頭症の症状】
三大症状は、歩行障害・認知症・尿失禁です。歩行障害は、小刻み歩行(小股でよちよち歩く)、開脚歩行(少し足が開き気味で歩く)、すり足歩行(足が上がらない状態)、不安定で転倒することがある、第一歩がでない(歩きだせない)、突進現象(うまく止まることができない)という特徴があります。認知症の症状としては、物忘れ、集中力・意欲・自発性が低下し、趣味などをしなくなったり、呼びかけに対して反応が悪くなったりします。尿失禁の症状としては、頻尿(トイレが近くなる)、尿意切迫(我慢できる時間が短くなる)、尿失禁(歩行障害があって間に合わない)という症状があります。

【正常圧水頭症の検査】
上記症状を認める場合は、頭部CTやMRI検査にて、脳室拡大を確認します。特発性正常圧水頭症の場合、脳室拡大と併せて、特徴的なクモ膜下腔の変化を呈します。
髄液タップテストの検査では、腰椎レベルのクモ膜下腔に穿刺針を刺し、過剰に溜まっている脳脊髄液を少量排除することにより、これらの症状が改善するか診断します。その結果で外科的治療(髄液シャント手術)の必要性を調べます。1回の髄液タップテストで症状が一時的に改善することもあれば、複数回の髄液タップテストの後に症状が改善してくることもあります。また、数日の検査入院を必要とすることがあります。

【正常圧水頭症の治療】
特発性正常圧水頭症は、脳神経外科手術(髄液シャント手術)によって症状の改善を得ることができます。この手術は、脳に過剰に貯留した髄液を、カテーテルを皮下に埋め込むことによって他の体腔に流すという手術です。髄液を流す経路別に、脳室腹腔シャント、脳室心房シャント、腰椎腹腔シャントという手術方法があります。手術は入院で行い、1-2週間の入院を必要とします。

【手術後の症状は?】
髄液シャント術による症状の改善は、一般的に、歩行障害の改善は9割前後、認知症の改善は7割前後、尿失禁の改善は7割前後と言われています。数日で症状が改善する場合もあれば、数週間、数カ月で改善することもあります。元通りの生活を取り戻す患者さんもいれば、症状がぶり返す患者さんもいます。状態と症状の改善を確認するために、退院後も定期的に受診することが必要です。

【最後に】
加齢とともに認知機能が低下し、足元がふらつくと訴える人が多くなってきます。年齢のせいなので仕方ない、と思い込み、医療機関を受診しない方も多いです。この病気は、まず疑って検査を行わなければ診断できません。少しでも思い当たる症状がある方は、気軽に脳神経外科外来を受診して下さい。