読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

消化器内科 芹澤亜紗美

●逆流性食道炎ってどんな病気?
食事をすると、食べ物は喉を通って食道に入り、胃に送り込まれます。胃液と混ざり合うことで食べ物は分解されます。胃液の中には胃酸といって強い酸性の液が含まれています。主に胃酸が食道に逆流してしまうことが逆流性食道炎の原因です。自覚する症状として胸やけ(酸っぱいものが上がってくる感じ)や慢性的な咳、胸~みぞおちの痛み、喉の違和感などがあります。日常生活に支障をきたす場合が多い病気です。

●逆流性食道炎と胃酸
胃酸はpH1~2の強酸性で、食べ物を殺菌したり、様々なホルモンの分泌をコントロールすることで消化を助けています。
胃の中では強力な胃酸から胃を守るための粘液が分泌されています。粘液が胃の表面を覆うことで、胃酸から胃を守っています。
この粘液が分泌されないため食道は胃酸に弱いです。そのため、胃の中の食べ物と一緒に胃酸が食道に逆流してしまうと食道が傷害され、胸やけやみぞおちの痛みが見られます。寝ている時に胃液が喉のあたりまで逆流してくると喉の違和感や声のかすれ、慢性的な咳などの症状がみられることもあります。

●逆流性食道炎はどんな人に起こりやすい?
食道と胃のつなぎ目には下部食道括約筋という筋肉が存在し、胃に食べ物が送り込まれた後は、胃から逆流しないよう胃の入り口を閉める働きをしています。この括約筋が緩むと胃の中の食べ物や胃酸が食道に逆流してしまいます。
括約筋は、年齢とともに機能が低下し緩んできます。腰が曲がっている方では、常に腹圧がかかっていることによって胃の上部が食道側に飛び出してしまう食道裂孔ヘルニアという状態がみられることがあります。食道裂孔ヘルニアでは、胃の中のものが非常に逆流しやすくなります。嘔吐が見られたり、逆流による食道障害が重度となると出血する場合もあります。
肥満や妊娠、締め付けの強い衣服などでも胃が圧迫され、胃酸が逆流しやすくなるため、逆流性食道炎は若年の方にも見られます。
また、ピロリ菌の除菌が進んでいますが、除菌後に逆流性食道炎を発症してしまうことがあります。ピロリ菌感染による胃炎で低下していた胃酸分泌能が除菌によって改善し、胃酸分泌が増加することで逆流性食道炎が発症します。

●逆流性食道炎の治療
胃酸の分泌を抑える薬を飲んでいただきます。主にプロトンポンプ阻害薬が使われますが、効果が不十分な場合には、胃の運動を助ける薬や酸を中和させる制酸薬を併せて飲んでいただくこともあります。

●逆流性食道炎を起こしにくくする生活とは?
逆流性食道炎は日常生活を改善させることで予防できる病気です。
・食事は腹8分目にし、よくかんで食べましょう。早食いや大食いは胃の内圧を上昇させ逆流しやすくなります。
・アルコールやカフェインの摂取、油っこい食事は下部食道括約筋が緩む原因となりますので控えましょう。
・食後にすぐに横にならないようにしましょう。食後に胃酸分泌が増えるため食べてすぐ寝ると逆流しやすくなります。
・禁煙しましょう。喫煙により下部食道括約筋がゆるみ、胃酸分泌が増加することがわかっています。
・肥満を改善しましょう。肥満は腹圧を上昇させ、逆流しやすくなります。
・背筋を伸ばし姿勢をよくしましょう。猫背や腰の曲がっている状態は腹圧を上昇させ、逆流しやすくなります。

●逆流性食道炎が疑われたら・・・
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行います。食道と胃のつなぎ目を内視鏡で観察することで逆流性食道炎の診断と食道の傷害の程度がわかります。
内視鏡と聞くとつらい検査だと思う方も多いと思いますが、鎮静剤を使用したり、鼻から挿入する内視鏡(経鼻内視鏡)で検査を受けることもできます。
逆流性食道炎と診断されたら、投薬治療を行います。通常は4~8週間程度の投薬治療で改善を認める場合が多いですが、薬をやめることで逆流性食道炎の症状が再燃してしまう場合もあり、内服を長期間継続する場合もあります。

●最後に
高脂肪の食事、肥満の増加などによって逆流性食道炎の患者さんは増加しています。命に関わることはほとんどありませんが、日常生活に大きな支障をきたす病気です。
慢性の咳や胸の痛みで、呼吸器内科や循環器内科を受診したけど肺や心臓には異常がないと言われ、原因がわからないとされる方の中に、逆流性食道炎がかくれている場合もあります。気になる方は一度内視鏡検査を受けることをお勧めします。