読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

脳神経外科 飯沼貴大

●慢性硬膜下血腫とは?
慢性硬膜下血腫とは転倒や事故による頭部外傷後3週間から2ヶ月で硬膜の中に血液が徐々に貯留した状態のことをいいます。比較的ゆっくりと血が溜まっていくので、頭をぶつけた記憶がなかったり、外傷が全くないこともあります。男性の高齢者に多く、多量に飲酒する方にも多くみられますが、30から40歳の比較的若い年齢でも生じます。血液をサラサラにする抗血栓薬を内服中の方は特に注意が必要です。
また、一般的に認知症は発症すると徐々に進行して回復することが難しい病気ですが、その原因のなかに「Treatable Dementia」とよばれる治療により回復する可能性があるものが存在します。実は慢性硬膜下血腫はこのTreatable Dementiaの一つなのです。頭部外傷のあとに急激に認知症が出現したり、認知症に手足の麻痺や意識障害が伴っていたりする場合は、もしかすると慢性硬膜下血腫に罹患しているかもしれません。

●慢性硬膜下血腫に注意した方がいい人
60歳以上の高齢者、飲酒が多い方、交通事故や転倒などの頭部外傷の受傷歴のある方、ワーファリンやアスピリンなどの抗血栓薬を内服中の方、血液疾患や肝臓疾患により出血しやすい方、水頭症などのシャント術後の方、低髄圧症の方、がんの転移がある方など。

●慢性硬膜下血腫の症状
血腫で脳が圧迫されることにより様々な症状が出現します。頭部外傷後は症状がなくても、受傷2ヶ月ごろまでに徐々に認知機能の低下、手足の麻痺、呂律が回りにくい、言葉が出にくくなるなどの症状の他に精神症状や失禁など多彩な症状が出現します。放置すると意識障害が進行し、昏睡状態となり、場合によっては死に至ることもあります。

●慢性硬膜下血腫の検査
頭部CTを撮影することで硬膜下に三日月状の血腫を確認します。頭部外傷受傷直後のCTで慢性硬膜下血腫の発症を予測することは難しく、定期的なフォローや症状出現時の診察が重要です。

●慢性硬膜下血腫の治療法
治療には自然治癒か投薬による内科的治療と手術による血腫除去があります。 血腫量が少なく、無症状の場合には自然経過をみたり、漢方薬内服による治療が選択されることがあります。麻痺などの症状が出現していたり、脳の圧迫が強い場合には手術による血腫除去の適応となります。 手術は局所麻酔で頭部の皮膚を5cm程度切開し、頭の骨に1.5cmくらいの穴を開けて脳を包んでいる硬膜を切開し、血腫表面の膜を露出させます。その膜を切開して血腫を吸引するチューブを挿入して皮膚縫合すると手術は終了です。およそ30分程度の手術となります。手術翌日にCTで新しい出血がないことを確認してチューブを抜去します。入院期間は患者さんの状態にもよりますが、およそ1週間程度となります。手術後から全身のリハビリテーションが行われます。リハビリの状況によっては入院期間が長くなることや、リハビリを専門としている診療科に転科して集中的にリハビリテーションを行うこともあります。

 

[外来受診を]
自身やご家族の中に最近急に認知症が出現・進行したり、手足の麻痺や喋りにくさが出現した場合には専門家による診察が必要です。 症状がある方、気になる方はまずは脳神経外科外来にお気軽にご相談ください。