読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

小児科 大﨑侑佳

がんは今や日本で一番たくさんの命を奪っている病気です。誰もがなりえますし、決して他人事ではありません。がんの早期発見や早期治療はもちろんですが、それと同時に私たちができることは『予防すること』です。
今回はワクチンで予防できるがんの一つである子宮頸がんについてのお話です。

◆子宮頸がんってどういう病気?

子宮頸がんは、子宮の頸部という子宮の出口に近い部分にできるがんです。
2019年は1.1万人近くの女性がかかり、毎年3000人近くの患者さんが亡くなっています。一生のうちで約100人に1人の女性がかかるという計算です。
20代〜30代にかけてかかる人の割合が急激に多くなり、30代までにがんの治療で子宮を失い、こどもが産めなくなってしまう人も毎年約1000人います。

※国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)より引用

子宮頸がんの95%以上はHPV(ヒトパピローマウイルス)というウイルスが長く感染した状態でいることが原因です。HPVは主に性的接触で感染するウイルスであり、ほとんどは免疫の力で自然に消えますが、中にはずっと感染した状態になることがあり、がんの原因となります。このウイルスの感染を防ぐことでがん自体を予防することができるのです。

●HPVワクチンはどうやって接種するの?
日本では小学校6年生〜高校1年生相当の女の子が、国からの費用で無料で子宮頸がんワクチンを接種することができます。
現在日本で公費で受けられるHPVワクチンは2種類(サーバリックス®︎、ガーダシル®️)です。当院ではガーダシル®︎が採用されています。同じ種類のワクチンを合計3回接種します。接種は筋肉注射であり、一般的には肩の筋肉に接種します。
ガーダシル®️の場合の一般的な接種スケジュールは、初回から2か月の間隔をあけて2回目の接種、初回から6か月の間隔をあけて3回目の接種を行います。


●ワクチンの効果は?

HPVワクチンは子宮頸がんを起こしやすいタイプであるHPV16型と18型の感染を防ぐことができます。接種することで、子宮頸がんの原因の約70%を防ぐことができます。


●ワクチンの副作用は?

副作用として、接種部位の痛みや腫れ、赤みなどが起こることがあります。 1万人に6人程度とまれに重篤な症状としてアレルギー症状や神経系の症状が起こることがあります。


●ワクチンの普及に関して今の日本の状況は?

HPVワクチンはWHO(世界保健機関)の推奨のもと、世界110か国で接種が進められています。日本では2009年にワクチンとして承認され、2013年に定期接種に組み込まれ、公費で接種できるようになりました。 他の先進国では高い国では約8割の接種率になっていますが、日本では2019年時点で接種対象者のわずか2-3%とかなり低い接種率になっており、大きく遅れをとっています。これは日本で定期接種化の直後にワクチン接種後に痛みや運動障害などの「多様な症状」が報告されたことで、積極的な接種の推奨が一旦中止され、ワクチン接種を広めることが難しくなったからです。 この「多様な症状」とワクチン接種の因果関係について、多くの調査が慎重に国内でおこなわれましたが、明らかな関係は証明されませんでした。同世代のワクチン接種歴がない子にもこの「多様な症状」と同じ症状が一定数見られることや、ワクチン接種後1ヶ月以上と長い時間が経ってから症状が出てくる人もいたことも、ワクチンと症状の関係がはっきりしないという根拠になっています。 これらのたくさんの調査の結果をうけて、有効性が副作用の懸念を大きく上回ると判断され、2022年4月より国によるHPVワクチンの積極的な接種の推奨が再開しています。

子宮頸がんはワクチンで予防することができるがんです。 ワクチンを接種することで、がんで苦しむ悲しい未来をなくすことにつながります。 がんから自分を守るために、ぜひ子宮頸がんワクチンを接種しましょう。 。