読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

呼吸器内科 久保田 努

●肺非結核性抗酸菌症とは
肺非結核性抗酸菌症(NTM:non-tuberculousis mycobacteria)は、従来、非定型抗酸菌症といわれていた病気で、肺の感染性疾患です。原因となる菌は結核菌と同じ抗酸菌の仲間で、現時点では約200菌種以上が発見されていますが、それらの菌種が長い経過で主に肺へ感染巣を形成した疾患が肺非結核性抗酸菌症です。患者数は世界的に年々増加傾向であり、日本においては健診を契機とした早期発見などもあり、毎年新たに8000人以上が発症していると報告されています。日本国内ではMycobacterium avium(マイコバクテリウム・アビウム)とMycobacterium intracellulare(マイコバクテリウム・イントラセルラーレ)の2菌種を区別しないMycobacterium avium complex(MAC)による感染が多く、次いでMycobacterium kansasii(マイコバクテリウム・カンサシ)が多く、この3種で90%を占めると言われています。

●主な症状
咳、痰、血痰、発熱、食欲不振、体重減少、全身倦怠感など多様な症状があります。

●感染源は?
非結核性抗酸菌症は自然環境中の土、埃、家畜などの動物の体内、水道・貯水槽などの給水システムなどに広く存在している菌種であり、菌を含んだ埃や水滴を吸入することによって感染すると推定されています。なお結核菌と異なり菌が他人に移ることはありません。

●どのような人が非結核性抗酸菌症にかかりやすいか
陳旧性肺結核症、慢性閉塞性肺疾患(タバコ病)、肺切除後、じん肺、間質性肺炎、肺癌、真菌感染症などの既存の肺疾患を有している方や免疫低下に関わる病気のある方、抗がん剤治療中の方やステロイド投薬中など免疫抑制状態にある方に多いとされます。しかし、ここ最近は特に基礎疾患のない中年以降の女性の増加が顕著です。

 

●検査方法
現在結核は一部の多剤耐性結核を除いて多くが治癒を期待できるようになったのに比較して、非結核性抗酸菌症は治療がまだ確立していません。結核と類似した病気のため、オーソドックスな治療としては、抗結核薬を含めた3~4種類の薬を併用し治療を行います (空洞形成症例や喀血を繰り返したり、感染巣がかなり小さいなどの場合は手術を行う場合もあります)。内服期間は学会の指針では、菌陰性化後(喀痰から菌が検出されなくなってから)1年程度と定められています。多くは12ヶ月~24ヵ月程度となります。胸部CTで空洞形成している場合は、治療期間を延長した方が良いと考えられています。重症例では上記に加え、吸入薬、点滴注射や筋肉注射を加えた治療を行うこともあります。ただし、高齢者や副作用の問題から十分な投薬ができない場合は、咳、痰などの症状を緩和する緩和治療で経過をみていく場合もありますし、自然軽快することもあるため、軽症例や状態が落ち着いている方には経過観察のみを行うことも少なくありません。

 

●非結核性抗酸菌症になった場合の日常生活の注意点について
先にも述べたように通常ヒトからヒトには感染しないので、安心して下さい。先天的免疫不全の恐れのある新生児や重篤な病状の方との密接な接触は念のため避けて下さい。常日頃から住環境を清潔に整えることを心掛けてもらい、禁煙、規則正しい食事、十分な栄養や睡眠など良い免疫状態を保つ事が非常に大切です。日頃の生活では最大限の活動量を10とした場合7位の生活を心掛けてもらえれば良いかと思います。また非結核性抗酸菌症では軽症でも喀血、血痰が生じやすいのが特徴です。多くは少量で自然に軽快しますので、慌てずに主治医の指示に従うようにしてください。血痰の頻度や量が増えていれば、主治医と相談するようにしましょう。また内服薬での治療中の場合は他疾患の薬との飲み合わせで注意を要すこともありますので合わせて主治医と相談するようにしてください。治療をするにしても、経過観察するにしても、この病気と長くお付き合いしていこうというゆとりをもって過ごすことが肝要です。