読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

口腔外科 金生茉莉

〈薬剤性顎骨壊死ってどんな病気?〉
◇骨粗鬆症の治療、悪性腫瘍の骨転移の抑制、ステロイド療法の副作用防止目的で使用するビスホスホネート製剤、デノスマブというお薬で発症します。
◇あごの骨が壊死して歯の痛み、あごの痛みが生じます。
◇もともと歯に炎症があると、炎症があごの骨の広範囲に広がることがあります。
◇口腔内に感染がなければ生じないため予防することが可能です。

〈原因となる薬剤は?〉
◇ビスホスホネート製剤 / [商品名]フォサマック、アクトネル、ベネット、リカルボン、ボンビバ、リクラストなど
◇デノスマブ / [商品名]プラリア

〈顎骨壊死になりやすい人、原因は?〉
◇抗癌剤、ステロイド、エリスロポエチンなどを内服している人は顎骨壊死を起こしやすいです。
◇肥満、飲酒、喫煙も顎骨壊死のリスクを高めます。
◇口腔内の汚染、炎症、感染、不適切な入れ歯、歯科治療などが原因となります。

〈顎骨壊死の症状は?〉
◇あごの痛み、歯の痛みが生じます。
◇進行すると膿がでたり、骨が露出したりすることがあります。さらに骨壊死が進行すると皮膚に穴が空いたり全身状態が悪くなったりすることがあります。

〈顎骨壊死のステージ分類〉
ステージ0:原因不明の歯やあごの痛みがある。
ステージ1:歯やあごの痛みに加えて、あごの骨の露出が見られる。
ステージ2:歯やあごの痛み、骨の露出に加えて、細菌感染して膿が出てくる。
ステージ3:あごの骨の壊死が進み、皮膚に穴があく。感染が進行し、全身状態が悪くなる。

〈こんな症状がでたら歯科医院にいきましょう〉
◇口腔内の痛み、特に歯を抜いたあとの痛みがいつまでも取れないとき
◇歯ぐきからの白い色、または灰色の骨が露出してきたとき
◇痛みとともにあごが大きく腫れてきたとき
◇下くちびるがしびれる、感覚が鈍くなったとき
◇歯がぐらぐらになり、ひとりでに抜けたとき

〈なぜ顎骨にだけ壊死が生じるの?〉
◇ビスホスホネートやデノスマブは全身の骨に分布するにも関わらず、顎骨壊死を生じるのはあごの骨のみです。すべての理由が明らかにされているわけではありませんが、以下のことが考えられます。
◇口腔内には細菌が多数常在しており、抜歯などの口腔外科処置によりあごの骨は口腔内と直接交通するため。
◇あごの骨は全身の骨の中で新陳代謝がもっともはやい組織であるため、ビスホスホネートが高濃度に沈着しやすいため。

〈顎骨壊死の治療は?〉
◇初期の場合には口腔内の洗浄と抗菌薬での治療が中心です。
◇病気が進行している場合は壊死した骨を取る手術を行うことがあります。
◇全身状態によっては手術ができない場合があります。その場合は頻回の洗浄で対応します。
◇顎骨壊死は一度発症してしまうと治癒が難しいです。そのため発症しないように予防することが非常に大切です。

〈ビスホスホネートまたはデノスマブの休薬について〉
◇口腔外科の手術に際してビスホスホネートやデノスマブを休薬して行うことがあります。
◇休薬する場合は処方している医師と相談の上2か月程度休薬を行います。
◇薬をやめることによって病気が進行してしまう可能性がある場合には薬は中止できません。
◇患者様が勝手に薬をやめることは絶対にしないでください。
◇休薬した場合は傷の治りを確認したのち再開となります。医師の指示にしたがってください。

〈予防のためにできること〉
◇ビスホスホネートやデノスマブが処方される前に、歯の治療をある程度終えておくことが重要です。処置すべき歯が残っているとそれが顎骨壊死の原因となってしまいます。
◇かかりつけ歯科医院を持ち、定期的に検診を受けるようにしましょう。
◇一番大切なのはセルフケアです。ご自身で口腔内の清潔を保つように心がけてください。