読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

呼吸器内科 科長 伊波奈穂

 寒い季節になってきました。例年通り当院でも11月からインフルエンザのワクチン接種が始まっています。コロナ禍である今年は新型コロナウイルスのワクチンを接種された方も多いと思いますが、ワクチンの種類や免疫獲得の仕組みについて気になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は新型コロナウイルスワクチンの話を中心によく使われているワクチンについて簡単にお話しします。

生ワクチン
 生ワクチンは毒性/病原性を弱めてある生きた細菌やウイルス(病原体)からできています。これを接種することによってその病気にかかった場合と同じように免疫、抵抗力をつけることが期待できます。一方で副反応として、軽度で済むことが多いもののその病気にかかった時と同じような症状が出ることがあります。代表的なワクチンとしてはMRワクチン(M:麻疹、R:風疹)、水痘(みずぼうそう)ワクチン、BCGワクチン(結核)等があります。

不活化ワクチン/組換えタンパクワクチン
 生ワクチンに対して、こちらは毒性/病原性がなく感染力をなくした病原体、もしくは病原体を構成するタンパク質からできています。代表的なワクチンとしては、DPT-IPV:四種混合ワクチン(D:ジフテリア・P:百日咳・T:破傷風・IPV:不活化ポリオ)、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチン、肺炎球菌ワクチン等があります。体内で細菌やウイルスが増殖することはないため1回接種しただけでは必要な免疫を獲得・維持できない場合があり、複数回の接種が必要となるワクチンが多いです。

mRNAワクチン(新型コロナウイルスワクチン)
 新型コロナウイルスに対して日本で主に使用されているファイザー社やモデルナ社製のワクチンはmRNAワクチンです。新しい技術を用いたワクチンですが、生ワクチンや不活化ワクチンと比べると名前を聞いてもどんなものなのかいまいちピンと来ず想像し難いと思います。
 mRNAというのはタンパク質を生成するために必要な情報を運ぶ、いわば“設計図”です。皆さんはウイルス表面にトゲトゲした突起が描かれている新型コロナウイルスのイラストを目にしたことはありませんか?まるで太陽のコロナのようであるため、その見た目からコロナウイルスと呼ばれているのですが、このトゲトゲはスパイク(S)タンパクといい、この部分の設計図がmRNAワクチンに含まれています。トゲトゲ部分が人間の細胞に結合することで内部へ侵入しウイルスが増殖するため、この部分に対する免疫を獲得できれば感染予防や重症化予防につながります。ワクチンを接種すると、mRNA=設計図は注射部位近くの細胞に取り込まれ、設計図を参照しながら体内でSタンパクを作ります。その後Sタンパクに対する抗体が作られ、新型コロナウイルスに対する免疫を獲得することができます。しかし1回接種のみでは免疫も不安定なため、2回接種することで安定させる必要があります。

 今回の新型コロナウイルスワクチンの副反応は、従来のワクチン等と比べると局所反応や全身反応の頻度は高いと言われています。多い副反応としては、打った部位の痛み(80%)、だるさ(60%)、頭痛(44%)、寒気(46%)、発熱(33%)等です。また1回目よりも2回目の方が副反応の頻度が高いとはされています。ただし副反応は接種後2日くらいまでにはほとんどの人で消失し重篤な副反応の頻度は高くありません。生きたウイルスはワクチンの中に含まれていませんし、Sタンパク部分の設計図だけでウイルスの遺伝子本体は入っていません。mRNAは接種後数日以内に分解され、作られるSタンパクも約2週間でなくなると言われています。

 正しく理解した上でワクチン接種をされることをおすすめしたいと思います。