読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

小児科 神野太郎

 RSウイルスをご存じですか?今年は6月から8月にかけて大流行しましたし、ニュースで大きく取り上げられたのでご存じの方も多いかもしれません。

実は毎年流行っています。
 RSウイルスは生後1歳までに半数以上、2歳までにほぼ100%が初めての感染を経験し、一度感染しても再感染を繰り返すからです。大人も子供もかかります。大人やお兄さん、お姉さんは鼻かぜ程度でよくなってしまいますが、いつの間にか小さな子供に移してしまっているかもしれません。

 なぜ今年RSウイルスがこんなに流行したのかというと、コロナ流行中は人と人の接触が少なく、去年RSウイルスが全くと言っていいほど流行しなかったことが関係していると考えられています。すなわち去年感染しなかった子が今年かかり、それに今年初めて感染した子が重なったことで、例年の倍ほどの流行者数になったということです。

〈2018-2021年におけるRSウイルスの感染動向〉

※厚生労働省/国立感染症研究所感染症発生動向調査 2021年第39週(9月27日〜 10月3日)通巻第23巻第39号p17より引用

 実際にかかられたお子様もいらっしゃるでしょう。大変だったかと思います。特に乳幼児は手がかかったのではないでしょうか。

 まず鼻水や咳あるいは発熱といった風邪症状から始まり、数日間続いた後、3人に1人が気管支炎、細気管支炎、肺炎に至ります。多くの子供たちは自然に軽快しますが100人感染したら数人は入院が必要になります。

かかったお子様は入院しましたか?それともお家で過ごされましたか?。
 どういった子が入院になるのかというと、体の中の酸素が少なくなってしまった子、食事・水分を取れなくなってしまう子、呼吸をお休みしてしまう子です。1週間くらいで軽快しますが、場合によってはその間に酸素投与や人工呼吸といった呼吸のサポートが必要になります。ウイルス感染症なので抗菌薬を使わないことが多いですが、中耳炎や肺炎を合併して発熱が長引いている場合は細菌感染が合併している可能性があるので抗菌薬を使います。

 体の中の酸素が少なくなってしまうのは、感染が細い気管支までおよんでしまうためです。痰が増えたり気道がむくんだりして空気の通り道が狭くなります。酸素と二酸化炭素の交換がうまくできず、体の中の酸素が減り、二酸化炭素が増えます。目に見える症状として呼吸の回数が早くなったり、肩で息をするようになったり、あばら骨が浮くような呼吸をしたりします。せき込んで吐いてしまうこともありますが、たまっている痰を出すために咳をしているので、吐いてもいいので咳をさせてあげましょう。

 とはいえ、あまり食べたものをせき込んで吐いていると、水分が足りなくなってしまわないか心配ですよね。水分が足りているかどうかの指標は、おしっこの回数や濃さです。普段の半分くらいの回数になったり、一回の量が少なくて濃いな、と思ったら足りなくなってきているのかもしれません。そもそも食べたがらない、飲みたがらないということもあります。これはせき込んで吐くより具合が悪いサインかもしれません。そういった場合は点滴をして水分、ミネラルを補います。

呼吸をお休みしてしまうというのはどういうことでしょうか。
 いわゆる無呼吸といいます。生後1か月未満の新生児や早産の子に多いです。呼吸中枢の未熟性に加え、喉や気管に増加した分泌物がたまり、呼吸を邪魔すると考えられています。呼吸をお休みしてしまうとやはり酸素と二酸化炭素の交換がうまくできず、体の中の酸素が減り、二酸化炭素が増えるため、酸素投与や人工呼吸が必要になります。

 このように感染するとそれなりに手がかかるRSウイルス、予防したいですよね。
ですが、予防接種は今のところありません。厳密には予防接種とは異なりますが、重症化のリスクの高い子供たち(早産や心臓病の子供たち)は流行期の月に1回ずつ、計8回モノクローナル抗体を注射します。感染してしまうこともありますが、重症化のリスクは下げられており、この注射を打っている子の入院はあまり見かけません。

 この注射の対象でない子供たちに対するものは現在開発中です。
 接触・飛沫感染ですので、予防のためには感染防御対策が有効です。コロナが落ち着いた後も、おとなや子供たちも手洗いうがいなどを続けてほしいなと思います。

 最後にもう一度くり返しになりますが、RSウイルスは生後1歳までに半数以上、2歳までにほぼ100%が感染します。一度感染しても再感染を繰り返します。乳幼児は重症化しやすいので、おとなやお兄さんお姉さんが手洗いうがいを続けることで、感染拡大を防ぎたいものです。