読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

感染防止対策室長  増田昌文

近頃TVを見ていると“殺菌”やら“除菌”などの言葉がよく聞かれます。除菌をうたう洗浄剤などで物品の表面を拡大したイメージ図が登場します。たくさんのバイ菌がウヨウヨいて、いかにも“汚そう”。そこにその製品を振りかけるだけで、あら不思議、バイ菌がいなくなってきます。でも、よく見てください。CMの中でそのバイ菌が全滅するわけではありません。よく見ると、画面の隅に少し残ったままで、次のシーンに移っているはずです。これは一般的な製品では、たとえ殺菌成分が入っていたとしてもすべての細菌を全滅させることができないからでしょう。すべての細菌が殺されてしまうほどの薬物では人体の細胞さえ無傷で生きているのが困難なはずです。裏を返せば、日常生活で完全な無菌状態を作り出す必要はないのだともいえます。

「皮膚1㎠当たりの菌数は通常103~104程度であるが、多いところでは105くらいがみられ、これを十分に消毒すれば一時的にはほとんど無菌に近くなるが、間もなく毛包管や汗腺などから残存した菌が出現して元に戻る。(南山堂『戸田細菌学』より)といわれています。

通常の常在の菌は病原性が強くなく、また、複数の菌種が共存しているために、単一の菌が異常に増殖するのを防いでいます。一方、消毒液や抗生剤で一旦無菌化したところには、そのあとに付いた特定の菌や、薬剤に耐性の菌だけが異常に増殖してしまい、病気を引き起こす原因になります。
それでは手洗いは意味がないのでしょうか?いいえ、手洗いはとても重要です。バイ菌の中にも病気を起こしにくい菌と少量でも病気を起こす菌がいます。腸炎の原因となるバイ菌やウイルスのほとんどは接触感染といって、物に付着しているバイ菌を触った手が媒介となって起こります。

日常的手洗いは、石鹸による界面活性作用により汚れを浮かせるとともに手指をこすり合わせることにより、一過性に付着した通過菌と汚れを物理的に除去します。除菌効果は手洗い時間に依存し、15秒でバイ菌の数が10分の1、30秒で100分の1、60秒で1000分の1になるとされています。

これから夏に向けて、腸炎の患者さんが増える季節です。トイレの後の手洗い、食事の前の手洗い、赤ちゃんや体の弱いお年寄りや病気のかたに触れる前の手洗いなど、石鹸を使ってしっかり手を洗いましょう。