読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

2021.02.01

                              呼吸器外科 科長 加藤暢介

“タバコ”と聞くと肺がんを思い浮かべる方が多いと思います。しかしタバコには4000種類以上の化学物質が含まれており、癌ばかりでなく様々な疾患の発病・悪化と関連します。

日本人における4大死亡疾患(癌、虚血性心疾患、肺炎、脳血管障害)は全て喫煙と関連する疾患です。各疾患は発症してからの治療よりも禁煙して発症を防ぐほうが容易であり経済的にも有利です。喫煙者の生存期間は非喫煙者よりも約10年短く、短い人生の中でも不健康な期間が約5年長いといわれ、国立がん研究センターの推計では国内年間死亡者数の約1割(12万~13万人)が喫煙が原因で亡くなっており、受動喫煙が原因で亡くなる人も年間約1万5千人に上ります。

当科で扱う喫煙と関連する疾患は肺癌が多いですが、今回はあえて喫煙による気胸を中心にお話します。

 

気胸とは

字の如く肺が入っている部屋(“腔”)に“空”が溜まる疾患で、一般に以下のようなものがあります。

(1)自然気胸・・・様々な原因で肺表面から発生した肺嚢胞(大小様々な風船みたいな

もの)が破裂することが原因。

①原発性気胸・・・明らかな肺疾患のない健康な人に起こる。

続発性気胸・・・肺疾患が基礎にある人に起こる。基礎疾患で多い

のが慢性閉塞性肺疾患(COPD)です。

(2)外傷性気胸・・・交通事故や転落、肋骨骨折等、胸部の外傷に伴うもの。

(3)人工気胸・・・診断と治療を目的に意図的に発生させたもの。

(4)医原性気胸・・・人工呼吸管理などの医療行為に伴う偶発的なもの。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは

喫煙の継続によるタバコ煙の有害物質による反復的な刺激により、気道や肺が慢性的な炎症を引き起こし組織の傷害が不可逆的(完全には正常化しない)状態になり発症します。その結果、空気の通り道が細くなったり肺が破壊され酸素と二酸化炭素の交換が障害されることにより咳や痰が多くなり呼吸が苦しくなります。

COPD⇒気胸発症のメカニズム

傷害された肺に大小不同の多数の壁の薄い嚢胞(薄い風船みたいなもの)が形成され脆くボロボロになり(写真参照)、それが破裂して空気が胸腔内に漏れます。漏れた空気は逃げ場がなく自分の肺をつぶしてしまい、胸の痛みや呼吸をすることが苦しくなったりします。

 

気胸の治療は

肺のつぶれ具合が軽度であれば外来で経過をみる場合もありますが、症状が強かったり肺のつぶれ具合が酷ければ胸に管をいれて脱気(胸腔ドレナージ)する必要があります。それでも空気漏れが止まらなかったり肺が広がらない場合は手術が必要になることがあります。

喫煙により脆くなった肺の破裂を修復する手術が一筋縄ではいかないのです。ボロボロに使い古したスカスカのスポンジ同士を縫い合わせることをイメージしてみてください。スポンジが脆いので力の加減次第で縫ってもすぐ破け、どんどん肺が壊れていき治療に難渋する、ということがあり得ます。入院も長期化し、何より患者さんが辛い思いを強いられます。

 

終わりに・・・喫煙は“百害あって一利なし”

禁煙は早いほど利益がありますが、やめるのに遅すぎることはありません。軽いタバコなら大丈夫なんてウソです。“マイルド”や“ライト”なんて言葉に騙されてはいけません。健康を守る対策は完全禁煙以外にありません。タバコ税は担税物品(ビールやガソリン等)の中で61.8%(333.97円;1箱が540円商品の場合)と最も高く、余分な税金を納めて社会貢献しているように見えますが、実際はタバコに関連する収益よりも医療費の損失の方が大きいのです。タバコの価格が先進国の中では極端に安い国策の甘さも問題です。

日々過ぎ去る日常の中であまり考えることが無いかもしれませんが、この世に生を受けて今を生きていることは決して当たり前ではありません。その人生においてお金を払って不健康になるくらいなら、それを貯金や健全な趣味、健康増進のために使ってみてはいかがでしょうか?