読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

整形外科 科長 二宮 研

  1. 頚椎症性脊髄症について

頚椎は7個の骨で構成され、その中心を脊髄(せきずい)という神経が通ります。脊髄は、髄という名がつくことから分かるように、手や足の運動や感覚、排尿や排便をコントロールする重要な神経の本幹です。しかし加齢とともに脊髄の周囲の骨や靭帯および椎間板が変形し、この大切な脊髄が圧迫されてしまうことがあります。すると手や足がしびれるようになり、さらに進行すると、箸や書字などの手の運動や歩行が障害されます。また頻尿や尿失禁を起こすこともあります。このように、加齢に伴い頚椎の脊髄が圧迫されて起こる病気のことを頚椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう)と言います(図1)。近年の高齢化社会に伴い、頚椎症性脊髄症の患者様の数は年々増加しています。

  1. 頚椎症性脊髄症に対する従来の治療方法

症状が軽い場合は、安静や内服薬により症状が改善することがあります。しかし、症状が重い場合は、安静や内服薬による治療効果は期待できないため、手術を検討する必要があります。

では頚椎症性脊髄症に対して、どのような手術が行われるのでしょうか?日本では頚部の後ろを10-15cmほど縦に切開して、頚椎の骨の一部を広げることによって、脊髄の圧迫を取り除く方法が広く行われてきました。この方法は簡便で、現在も多くの病院で行われていますが、広い視野を確保するために、頚椎に付着する筋肉の大半を骨から切り離す必要があります(図2、3)。首の運動の力源であり、姿勢の維持に重要な役割を果たす筋肉を骨から切り離されてしまうため、従来法の手術後は①安静にしている時でさえ我慢できないほどの強い頚部や背中の痛み、②頚椎が固くなってしまい、上や下を向けなくなる③猫背になり前を向けなくなる、といった問題が起こることがありました。

  1. 筋肉を切らないで治す、新しい頚椎の低侵襲手術・

これらの問題点を解決するために、選択的椎弓形成術(せんたくてきついきゅうけいせいじゅつ)という新しい方法が国内で報告されました。この新しい手術の最大の長所は、頚椎に付く筋肉を骨から切り離すことなく、筋肉の隙間から骨を削り取り、脊髄の圧迫を解除することができる点です(図4)。皮膚を5㎝程度切開するだけですむので傷は小さく、手術中の出血は少量です。また術後の頚部痛が軽いため、手術翌日からコルセットなしで歩くことが可能で、早期に退院や社会復帰をすることができます。さらに運動の力源であり、頚椎を支える役割のある筋肉を温存することができるため、従来法のように、術後に首が固くなったり、変形することもありません。しかし、この新しい低侵襲手術は技術的に難しいため、施行できる病院の数は世界でも限られているのが現状です。一方、当院の整形外科では10年前から選択的椎弓形成術を導入し、すでに300例ほどの選択的椎弓形成術を行い、良好な手術成績をおさめています。また私は2019年7月に当院に赴任するまでの8年間、選択的椎弓形成術の開発者である白石建先生に従事し、約400例の選択的椎弓形成術を執刀してきました。頚椎の病気でお困りの方は、ぜひ当院の整形外科に一度ご相談いただければと思います。