読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

2020.04.01

産婦人科 科長 橋本 正広

近年梅毒感染者が増加しております。清水地区でも明らかに増加していると感じております。

梅毒は性行為感染症起因菌であり、梅毒トレポネーマ(Treponema Pallidumに感染することによりおこる全身性疾患です。感染すると2〜3週間後からリンパ節炎や皮膚症状が出ます。

治療はペニシリンなどの抗生物質が有効ですが、治療しないと症状は段階的に進行して、最終的には中枢神経まで侵されます。しかし、症状が出ない「無症候性梅毒」の状態で、永年にわたり気がつかないまま過ごすケースもあります。感染したあと、経過した期間によって、症状の出現する場所や内容が異なります。

第Ⅰ期: 感染後約3週間
 初期には、感染がおきた部位(主に陰部、口唇部、口腔内、肛門等)にしこりができることがあります。また、股の付け根の部分(鼠径部)のリンパ節が腫れることもあります。痛みがないことも多く、治療をしなくても症状は自然に軽快します。
 しかし、体内から病原体がいなくなったわけではなく、他の人にうつす可能性もあります。感染した可能性がある場合には、この時期に梅毒の検査が勧められます。

第Ⅱ期: 感染後数か月
 治療をしないで3か月以上を経過すると、病原体が血液によって全身に運ばれ、手のひら、足の裏、体全体にうっすらと赤い発疹が出ることがあります。小さなバラの花に似ていることから「バラ疹(ばらしん)」とよばれています。
 発疹は治療をしなくても数週間以内に消える場合があり、また、再発を繰り返すこともあります。しかし、抗菌薬で治療しない限り、病原菌である梅毒トレポネーマは体内に残っており、梅毒が治ったわけではありません。

アレルギー、風しん、麻しん等に間違えられることもあります。この時期に適切な治療を受けられなかった場合、数年後に複数の臓器の障害につながることがあります。

 

晩期顕性梅毒
 感染後、数年を経過すると、皮膚や筋肉、骨などにゴムのような腫瘍(ゴム腫)が発生することがあります。また、心臓、血管、脳などの複数の臓器に病変が生じ、場合によっては死亡に至ることもあります。
 現在では、比較的早期から治療を開始する例が多く、抗菌薬が有効であることなどから、晩期顕性梅毒に進行することはほとんどありません。

 また、妊娠している人が梅毒に感染すると、先天梅毒となる場合があります。胎盤を通して胎児に感染し、死産、早産、新生児死亡、奇形が起こることがあります。

 

 

梅毒の主な感染経路は、感染部位と粘膜や皮膚の直接の接触です。具体的には、性器と性器、性器と肛門(アナルセックス)、性器と口の接触(オーラルセックス)等が原因となります。

梅毒に感染したかどうかは医師による診察と、血液検査(抗体検査)で判断します。どの医療機関でも検査は可能です。第Ⅰ期の最初の数週間は抗体検査をしても陽性反応が出ないことがあるため、感染してから十分な期間(約3週間)をおいて、検査結果を確認する必要があります。
 地域によっては保健所で匿名/無料で検査をできるところもあります。検査結果を正確に判断するために、感染の可能性がある時期や感染の予防状況(コンドーム使用等)について、医師に伝えましょう。 梅毒に感染していたとわかった場合は、周囲で感染の可能性がある方(パートナー等)と一緒に検査を行い、必要に応じて、一緒に治療を行うことが重要です。

 

梅毒の治療は一般的に、外来で処方された抗菌薬を内服することで治療します。内服期間等は病期により異なり、医師が判断します。病変の部位によっては入院のうえ、点滴で抗菌薬の治療を行うこともあります。
 医師が治療を終了とするまでは、処方された薬は確実に飲みましょう。性交渉等の感染拡大につながる行為は、医師が安全と判断するまではひかえましょう。
 また、周囲で感染の可能性がある方(パートナー等)と一緒に検査を行い、必要に応じて、一緒に治療を行うことが重要です。

 

 

梅毒の予防は感染部位と粘膜や皮膚が直接接触をしないように、コンドームを使用することが勧められます。ただし、コンドームが覆わない部分の皮膚などでも感染がおこる可能性があるため、コンドームを使用しても、100%予防できると過信はせず、皮膚や粘膜に異常があった場合は性的な接触を控え、早めに医療機関を受診して相談しましょう。

 

最後に、梅毒の治療判定は、医師が検査で血液中の免疫(抗体)を確認して判断をします。感染した人の血液中には、一定の抗体がありますが、再感染を予防できるわけではありません。このため、適切な予防策(コンドームの使用、パートナーの治療等)が取られていなければ、再び梅毒に感染する可能性があります。