読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

小児科 進藤淳也

暮秋というにふさわしい気候となってまいりましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。テレビではインフルエンザの流行が騒がれています。インフルエンザはよく知られている病気ですが、自然経過や怖い合併症、検査や治療をうけるべき時期など詳しい内容はあまり知られていないのが現状です。本格的にインフルエンザの流行が来る前に、インフルエンザについてまとめてみましたのでご一読ください。

①自然経過について
インフルエンザは突然の高熱に加えて咽頭痛や咳などの呼吸器症状を起こすウイルスです。1~3日のうちにピークに達し、通常は7日以内に自然と治ります。呼吸器症状は約1週間続きますが、病初期には呼吸器症状は目立たないことが多いです。通常の風邪に比較して全身に症状がでるのが特徴で、頭痛や倦怠感、筋肉痛、嘔吐・下痢などの症状が出現することがあります。
潜伏期間は1~4日間(平均2日間)で、咳を浴びることだけでなく、唾や鼻汁などを触ることでも感染しますので、マスクの装着や手洗い・うがいは大変重要です。

②合併症について
 インフルエンザでは中耳炎や肺炎をしばしば起こします。熱が下がらない場合や耳痛がでた場合は一度病院を受診することをお勧めします。ほかに小児において重要な合併症としては脳神経に影響を与える点です。具体的には下記の3つが起こることがあります。
1)異常行動・言動
インフルエンザにかかった約10%の小児で、窓から飛び降りなどの危険な行動をとる、幻覚、幻視、うわごとをいうなどの異常行動・言動をとるといわれています。以前はタミフルという抗インフルエンザ薬の副作用ではないか、と議論されていた時期もありましたが、現在ではインフルエンザ自体の合併症であることが知られています。多くの場合は発症2日以内に発症しその後自然と軽快します。インフルエンザ発症後2日間は決して目を離してはいけません。
2)熱性けいれん
 通常、熱性けいれんは生後6か月から5歳くらいまでに起こるといわれていますが、インフルエンザの場合は年長児や学童でも起こる場合があります。
3)インフルエンザ脳症
 インフルエンザ脳症とは、簡単にいうと、「インフルエンザで脳の機能が障害されている状態」をいいます。発症人数は年間100~500人と決して多くはありませんが、治療が遅れると命にかかわることや後遺症が残ってしまうことがあります。症状はけいれんや異常行動、意識障害などがあり、上記2つとの区別が難しいことがあります。けいれんがなかなか止まらない、普段に比べて明らかに意識がおかしい状態が長時間続く場合はかならず医療機関を受診してください。

③迅速検査について
 インフルエンザの検査のポイントは、①陽性であればインフルエンザと診断できるが、陰性の場合でも否定はできない、②発症早期に検査をしても検査が陽性にならないことがある、の2点です。インフルエンザの流行時期には発熱してすぐに医療機関を受診される方が大変多いですが、検査の特徴を考えると熱がでてから1日、早くとも半日は経過してから検査を受けたほうが診断のつく可能性が高いことに注意が必要です。

④治療について
 インフルエンザの治療薬は、①感染した細胞からウイルスがでて他の細胞に感染することを防ぐノイラミニダーゼ阻害薬(タミフル®、リレンザ®、イナビル®、ラピアクタ®)と、②ウイルスの細胞内での増殖を防ぐバロキサビルマルボキシル(ゾフルーザ®)、の2つがあります。適応やお薬の効果はどの薬も同様で、「発熱から48時間以内に使用することで1-2日早く解熱する」といわれています。発熱から48時間以上経過した場合は効果が十分出ませんのでお医者さんとしっかり相談してください。
 なお、ゾフルーザ®を使うとこの薬に耐性を持つウイルスが出現するというニュースがでています。2019年10月には日本感染症学会から12歳未満の子では慎重投与とすべきという勧告もでており、現在大きく判断が分かれる部分です。インフルエンザの治療薬については年齢や吸入が上手にできるかなどをふまえて担当した医師としっかり相談のうえ決めてください。

⑤予防接種について
生後6か月から13歳未満の方は2回接種、13歳以上では1回接種とされています。インフルエンザワクチンで必ずしもインフルエンザの発病を予防することはできませんが、発病後の重症化や死亡を予防することができるため、インフルエンザワクチンの接種は強く強調されています。
インフルエンザワクチンの効果は接種後2週間ごろ(2回接種が必要な方は2回接種後から)から効果が出現します。インフルエンザの流行が始まる前に接種することが重要です。