口腔外科 科長 道端 彩
朝起きたときに顎が疲れている、こめかみが重い、頭が締め付けられるように痛む。 こうした症状が続いている方の中には、無意識の歯ぎしりや、日中のくいしばりが関係している場合があります。 歯ぎしり・くいしばりは、「歯がすり減るだけの問題」と思われがちですが、実際には噛む筋肉が長時間強く緊張し続けることで、歯・顎・頭にさまざまな負担がかかることがあります。
【歯やマウスピースに起こる変化】 強い歯ぎしりやくいしばりが長期間続くと、歯や被せ物、詰め物、マウスピースに大きな力がかかる状態になることがあります。その結果として、歯や補綴物(ほてつぶつ)にひびや欠けがみられたり、マウスピースが摩耗・破損したりするケースが報告されています。 大切なのは、これは「歯が弱いから起こる」問題ではなく、噛む力が過剰にかかっている状態が続いている可能性がある、という点です
【マウスピースが合わないのは、我慢不足ではありません】 歯ぎしりの治療としてマウスピースを作ったものの、 ・気持ち悪くて眠れない ・違和感が強く続かない ・無意識に外してしまう といった理由で使えなかった方も少なくありません。 「慣れれば大丈夫」と言われることもありますが、噛む筋肉の緊張が非常に強い場合、マウスピース自体が体にとって強い刺激となり、受け入れにくくなることがあります。 これは性格や努力の問題ではありません。
【顎と頭痛の関係】 ー 筋緊張性頭痛をご存じですか? 慢性的な頭痛の中には、「筋緊張性頭痛(緊張型頭痛)」と呼ばれるタイプがあります。これは、頭や首、肩の筋肉が緊張し続けることで起こると考えられています。 歯ぎしり・くいしばりでは、「側頭筋(こめかみの筋肉)」が常に使われ続ける状態になり、こめかみの痛みや、頭全体が締め付けられるような頭痛につながることがあります。 「頭痛薬を飲んでも何となく痛い」 「朝起きたときに頭痛がする、十分寝たのにスッキリしない」 「夕方になると頭が重くなる」 そのような方では、噛む筋肉の緊張が関与している可能性があります。
【原因は「歯」ではなく「筋肉」かもしれません】 歯ぎしりやくいしばりでは、起きているときよりも何倍もの噛む力が、無意識のうちに発生するといわれています。
特に働きすぎる筋肉は、 ・咬筋(エラの筋肉) ・側頭筋(こめかみの筋肉) ・オトガイ筋(あご先の筋肉)です。 これらの筋肉が過剰に緊張すると、歯・顎関節・頭部に負担が集中し、さまざまな症状につながります。
【噛む筋肉を「休ませる」という治療】 咀嚼筋に対するボツリヌス治療は、噛む筋肉の働きを一時的にゆるやかに調整し、筋肉の緊張を和らげる医療目的の治療です。 噛めなくする治療ではなく、必要最小限の量で行います。
この治療は、 ・歯ぎしり・くいしばり ・顎関節症 ・筋緊張性頭痛 などに対して、筋肉の使いすぎを抑える目的で行われます。 美容目的の「顔痩せ・エラ治療」とは、目的・考え方が異なります。
【まとめ】 歯ぎしり・くいしばり、顎の不調、頭痛は、別々の問題に見えて、同じ筋肉の緊張が関わっていることがあります。 歯を守り、顎や頭のつらさを和らげるためには、歯そのものだけでなく「噛む力の元である筋肉」を診ることが大切です。 気になる症状がある方は、口腔外科へどうぞお気軽にご相談ください。